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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ミミックオクトパスの章

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第20話 勇気を出して



「ここは、アクアリス達が暮らしている。アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。」


「熱帯エリア」


明るい照明に照らされた熱帯エリアでは、人工のサンゴ礁や色鮮やかな水槽が静かに輝いていた。


そんな通路の隅で、ひとりの“飼育員”が小さく肩を震わせている。


「うぅ……」


館長はその姿に気づき、ゆっくり近づいた。


「あなた、大丈夫?」


「ヒィッ!?」


びくりと飛び上がるように振り向いたその“飼育員”は、次の瞬間、姿を変えた。


白と茶色の縞模様がふわりと揺れ、茶髪の少女の姿へ戻る。


館長は優しく微笑んだ。


「あら?あぁ、ミミックオクトパスちゃんだったのね。驚かせてごめんなさい」


「ミミックオクトパス:「八腕形目 マダコ科 ミミックオクトパス属 ミミックオクトパス」インドネシアで発見数が多いがフィリピンやグレート・バリア・リーフなどにも生息、比較的小型のタコで腕を広げた大きさは最大で60cmにもなる、本来の身体は赤茶褐色、擬態する時は、白と茶色の縞模様になる。ミノカサゴ、ウミヘビ、カレイ、クラゲ、ウミウシなどになれる頑張れば何にでもなれるかもしれない、別名ゼブラオクトパス。アクアリスとなった茶色い髪のミミックオクトパスちゃんは臆病でよく飼育員に擬態する」


ミミックオクトパスは胸元を押さえながら、小さな声で答えた。


「い、いえ……わ、私が、慣れていないだけです、のでっ」


「大丈夫、馴染んでくれるように、私たちも手を尽くすわ」


「は、はい……えへへ」


少しだけ安心したように笑うミミックオクトパス。


館長はその姿を見て頷いた。


「それじゃあね、」


「はいっ!……私も、もっと……」


その時だった。


「お?」


低く明るい声が通路に響く。


ミミックオクトパスはびくりと肩を跳ねさせた。


「あっ、」


そこに立っていたのは、三色以上のグラデーションが入った髪を揺らすボーイッシュな少女。


モンハナシャコだった。


「よっ!久しぶりだな!」


「モンハナシャコ:「シャコ目 フユトビシャコ上科 ハナシャコ科 ハナシャコ属 モンハナシャコ」インド洋 西太平洋の熱帯・亜熱帯域に生息しカラフルな体色が特徴の甲殻類です。時速80km超の協力なパンチで貝や甲殻類の殻を粉砕しガラス水層を簡単に破ることができます。10万以上の色を識別できる非常に優れた視力を持つ、地上ではシャコパンチは弱くなるがそれでも危険なので素手で触ることはおすすめしない。海のボクサーのようだ。シャコパンチの衝撃だけでなく、海水が沸騰する「キャビテーション」という現象で気泡が爆縮し、約100kgの力で獲物を攻撃する。パンチは捕脚(前脚)を高速で打ち出し、獲物を仕留める。アクアリスとなったモンハナシャコは三色以上のグラデーションが入った髪を持つ、ボーイッシュな少女の姿である。」


ミミックオクトパスはおずおずと頭を下げる。


「せ、先日は、びっくりしすぎてしまって、」


「あー、あの時か」


モンハナシャコは頭をかきながら苦笑した。


「いやいや、アタイも悪かったんだし。別にお前が気にすることはねぇよ」


「そ、そうは言っても……」


「んー……」


モンハナシャコは少し考えたあと、にっと笑った。


「あぁもう、これでお愛顧、でいいだろ」


「は、はい、わ、わかりました、」


ミミックオクトパスも少しだけ笑う。


するとモンハナシャコは腕を組み、ぐいっと顔を近づけた。


「そうだ、一緒に散歩にいかねぇか?楽しいぞ」


「……」


ミミックオクトパスは目をぱちぱちさせる。


頭の中では色んな考えがぐるぐる回っていた。


知らない場所。


他のアクアリス。


人混み。


もしまた驚かれたら。


もし失敗したら。


けれど――。


「こ、この人と一緒に行けば、少しは勇気が身につくかな……」


小さく胸の中で呟く。


モンハナシャコは首を傾げた。


「ん?どうした?」


「い、いえっ!い、行きましょうっ!」


「そうか、じゃ、決まりだな」


「はいっ!!」


こうして二人の散歩が始まった。


熱帯エリアの通路を並んで歩く。


水槽の中ではカラフルな魚たちが群れを作り、サンゴの隙間を縫うように泳いでいた。


モンハナシャコはそんな景色を見ながら笑う。


「ここ、結構好きなんだよな。派手だし」


「た、たしかに、綺麗です……」


「だろ?」


ミミックオクトパスは周囲をきょろきょろ見回す。


人間に擬態して隠れていた頃とは違う景色だった。


堂々と歩いている。


誰かと一緒に。


それがなんだか不思議だった。


するとモンハナシャコが急に立ち止まった。


「ん?」


「ど、どうしました?」


「いや、なんか視線感じる」


二人が振り向くと――。


水槽の陰から、小柄なアクアリス達がこっそり覗いていた。


「シャコちゃんだ」


「ほんとだ〜」


「隣の子、誰?」


ミミックオクトパスは一瞬で顔を真っ赤にした。


「ひぃっ!?」


しゅるるるっ、と体が変化し、近くにいた飼育員そっくりの姿へ擬態してしまう。


「あっはははは!」


モンハナシャコが豪快に笑った。


「いきなり擬態すんなって!」


「だ、だってぇ……!」


覗いていた子達も慌てる。


「ご、ごめんなさい!」


「怖がらせるつもりじゃ……!」


するとモンハナシャコが軽く手を振った。


「気にすんな。こいつ、すぐ擬態するだけだから」


「だ、だけって……」


ミミックオクトパスは半泣きだ。


だが、小柄なアクアリス達は興味津々で近づいてきた。


「すごーい!」


「本物の飼育員みたい!」


「変身できるの?」


「え、えっと……はい……」


おそるおそる答えるミミックオクトパス。


すると一人が目を輝かせた。


「かっこいい!」


「へ?」


ミミックオクトパスはぽかんとする。


「色んな姿になれるなんてすごいよ!」


「いいなぁ〜!」


「わ、私が……?」


驚いているミミックオクトパスの肩を、モンハナシャコがぽんっと叩いた。


「ほらな?」


「……」


ミミックオクトパスはゆっくり周囲を見る。


怖がられていない。


嫌がられていない。


みんな、笑っている。


その事実に、胸の奥が少し温かくなった。


「……えへへ」


小さな小さな笑顔。


けれどそれは、この水族館に来てから一番自然な笑顔だった。


今日もまた、アクアリス達は少しずつ絆を深めていく。


オープン前の水族館には、今日も優しい時間が流れていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます

次回もお楽しみに

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