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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
オトヒメエビの章

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第16話 ちいさなクリーナーと新しい友達


 ここは、アクアリス達が暮らしているアクアリス水族館。

 今日も今日とて平和です。


 薄青い照明に照らされた館内の廊下を、小柄な少女がてくてくと歩いていた。

 赤い髪に白いグラデーション。ぴょこぴょこと軽い足取りで、落ち着きなく左右を見回している。


「……ん?……飼育員さん?」


 前方で水槽の点検をしていた男性飼育員に気づき、少女はぱっと顔を明るくした。


「飼育員さん! おはよーございます!」


「あぁ、オトヒメエビちゃん、おはよう」


 飼育員が笑いながら振り返る。


 オトヒメエビは元気よく両手をぶんぶん振った。


「うん! おはよー!」


 オトヒメエビ――正式にはオトヒメエビというエビのアクアリス。

 紅白の鮮やかな体色を持ち、熱帯の海で暮らすクリーナーシュリンプの仲間である。


「オトヒメエビ:『十脚目 抱卵亜目 オトヒメエビ下目 オトヒメエビ科 オトヒメエビ属 オトヒメエビ』成体は40〜60mmほどで身体は半透明の白色で頭部と腹部の中、尾扇に赤帯がありそれぞれ白帯が隣接する。第三歩脚は紅白の帯各4本で彩られ、また、体下面の歩脚の付け根分は青い。体表は細かい棘に覆われ、5対の歩脚のうち3対の先端に鋏がある。特に第三歩脚は太く長く発達している。世界中の熱帯やサンゴ礁域に生息、波の静かない岩棚の割れ目などに常にオスメスでつがいで同居する。オスメスの結びつきは強くどちらか片方を別個体に入れ替えるとオスがメスを排除してしまう。ウツボやニザダイやハタなどの底生大型魚と同所的に生息するがオトヒメエビはこれらの魚の体表を這い回り食べかすや寄生虫を食べて共生しこれと同じ仲間もいる、これらをまとめてクリーナーと称し大型魚は小型魚を捕食する肉食性のものもいるが、クリーナーとなる生物は体色が標識となり、捕食されるのを防いでいると考えられている。アクアリスとなっても、クリーナーとしての性質はあるようだ」


 飼育員は点検用のタブレットを閉じながら首を傾げた。


「オトヒメエビちゃんは、散歩かな?」


「ううん、私はクリーナーだから、探してるの! 汚れ!」


 オトヒメエビはえっへん、と胸を張る。


 しかし飼育員は少し困ったように笑った。


「そうなの、でも、ここには餌になるものはないよ。水槽を綺麗にしてくれるのは嬉しいけど、さすがにホコリとかを食べたらだめだよ」


「わかってるのです。もう食べないのです」


 少し頬を膨らませながら言う。


 実はオトヒメエビは、水族館へ来たばかりの頃、本当にホコリや小さなゴミを食べてしまったことがあった。

 さらにはプラスチック片まで口にしてしまい、慌てた飼育員達にアクアリス専門医へ連れて行かれたのだ。


 その時のことを思い出したのか、飼育員は苦笑する。


「と、とても心配だ……」


「?」


 オトヒメエビはきょとんとして首を傾げる。


 その無邪気さに、飼育員は思わず肩の力を抜いた。


「そうだ、お腹空いてるんなら、館長にお菓子でも貰いに行ったら?」


「うん♪ そうする!!」


 オトヒメエビはぱぁっと笑顔になると、てってってってっと勢いよく走り去っていった。


「可愛いのはいいけど、少し危なっかしいな……」


 飼育員は小さく呟きながら、その後ろ姿を見送った。


     ◇


 館長室では、館長が大量の書類と向き合っていた。


「えっと、海藻エリアの準備は……」


 ペンを走らせていたその時だった。


 バァンッ!!


「館長〜〜!」


「あら?」


 勢いよく扉が開き、オトヒメエビが飛び込んできた。


「オトヒメエビちゃん、どうしたの?」


 館長が優しく尋ねると、オトヒメエビはとことこと近づき、両手を差し出した。


「お菓子!」


「あぁ、なるほど」


 館長はくすりと笑い、机の引き出しを開ける。

 そこから小袋に入ったクッキーを取り出し、オトヒメエビへ渡した。


「はい、これ」


「わぁ〜い!」


 オトヒメエビは目をきらきらさせながら受け取った。


 小さな手で大事そうに抱える姿に、館長はふっと表情を緩める。


「こうしてみると、子供を見ているようだわ」


「? どうしたの?」


「いえ、なんでもないわ」


 その時、再び扉が開いた。


「館長〜、荷物来たよ〜」


 入ってきたのは、長いフリル袖を揺らす少女だった。

 金色がかった淡い髪と、ゆったりした口調が特徴的だ。


「あら、パシフィックシーネットルちゃん。わかったわ、確認する」


「うん……」


 少女――パシフィックシーネットルは、そこでオトヒメエビに気づいた。


 じっと視線が合う。


「……おはよ!」


 先に声をかけたのはオトヒメエビだった。


「うん、おはようだね。ボクはパシフィックシーネットル……よろしくね」


「パシフィックシーネットル:『旗口クラゲ目 オキクラゲ科 ヤナギクラゲ属 パシフィックシーネットル』カルフォルニア州とオレゴン州の海岸沿いで良く見られる。最大1m以上で傘の色が金色で触手が赤色なのが特徴、強い毒を持ち痒みや腫れをを引き起こす。和名『アメリカヤナギクラゲ』水族館でイサザアミと呼ばれるエビのような見た目をした生き物を食べる」


「私、オトヒメエビって言うの!」


「うん、いい名前だね」


 パシフィックシーネットルは柔らかく微笑んだ。


 オトヒメエビは少し嬉しそうに尻尾を揺らす。


 それから突然、持っていたクッキー袋をごそごそ開けた。


「ん!」


「ん?」


「半分こ!」


 小さなクッキーを差し出す。


 一瞬だけ、パシフィックシーネットルは目を丸くした。


 だがすぐに、ふわりと笑う。


「……うん、ありがと」


「えへへ〜♪」


 館長はその様子を見ながら、静かに目を細めた。


「ふふっ、こうして、仲良しは増えていくのね」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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