第13話「小さな仲間と小魚エリア」
ここは、アクアリス達が暮らしているアクアリス水族館。
今日も今日とて平和です。
アマゾンエリア。
熱帯の川を再現した広い展示区画では、巨大な流木や水草が並び、工事用ライトが水面を照らしていた。まだ正式オープン前ではあるものの、少しずつ“本物の水族館”らしい姿になり始めている。
「ここは〜?」
ピラルクーがきょろきょろと周囲を見回す。
巨大水槽の前で、彼女の赤と黒の髪がゆらゆら揺れた。
「アマゾンエリアだよ。君と一緒に来た生き物たちはここで展示されるんだ」
隣を歩くマダコが説明する。
「展示〜?」
「ここで育てて、お客さんに見てもらうところかな、」
「へぇ~!まだ、生き物いないの〜?」
ピラルクーは水槽に顔を近づける。
しかし中にはまだ魚影はない。
「まだ調整中、」
オオシャコガイが静かに答えた。
「調整〜?」
「水合わせとか、いろいろあるからね。」
マダコはそう言いながら、水槽横の計測装置を見る。
水温、酸素濃度、流速、水質。
アマゾンの生態系を再現するため、多くの飼育員たちが準備を進めていた。
「そうなんだね〜!」
ピラルクーは難しい話を気にした様子もなく、楽しそうに笑った。
「さて、一緒に図書エリアに行こうか。勉強をしよう。オオシャコガイ、君は来るかい?」
「ううん、散歩する」
「そうかい、残念だね。仕方ないけど、それじゃあ行こう」
「うん!」
二人は並んで歩いていく。
ピラルクーは途中で何度も立ち止まり、珍しそうに周囲を見回していた。
「わぁ!この木おっきー!」
「それは流木だね」
「へぇー!」
そんな賑やかな声が、少しずつ遠ざかっていく。
「....どんどん賑やかになってくる.......嬉しい、」
オオシャコガイは小さく呟いた。
彼女は元々静かな性格だ。
けれど最近、この水族館に笑い声が増えていくのが少し好きになっていた。
オオシャコガイはしばらく館内を歩いた。
通路を進むたび、完成した区画が少しずつ増えている。
照明が設置され、案内板が置かれ、空だった場所に命が入っていく。
そして辿り着いたのは――。
「けっこう歩いた、....ここは、小魚エリア?」
小魚エリア。
壁一面に小型水槽が埋め込まれた、美しい展示区画だった。
透明な水槽の中では、小さな魚たちが群れになって泳いでいる。
青、黄色、銀色。
様々な魚が光を反射し、通路全体がきらきらと輝いて見えた。
「ここも、もう用意できてたんだ、......ん?」
その時。
赤髪の小柄な少女が、水槽にぺったり張り付くようにして中を見ていた。
「....」
じーっと真剣な顔をしている。
「ん、どうしたの?」
オオシャコガイが声をかけると、少女はぱっと振り返った。
「お仲間しゃん....」
「お仲間?....フウセンウオ.....あぁ、フウセンウオのアクアリスだから仲間?」
「うん...アタチ、フウセンウオ!」
小さな少女は元気よく答えた。
フウセンウオ:「スズキ目 カジカ亜目 ダンゴウオ科 ダンゴウオ亜科 イボダンゴ属 フウセンウオ」ダンゴウオ科に属する冷たい海の魚で、その名の通り丸く膨らんだ体とクリっとした瞳が特徴でダイバーたちにも「北の海のアイドル」として人気。泳ぎが大の苦手で腹ビレから進化した吸盤で岩や海藻に張り付いて生活し、体長3〜10cmほど。オレンジ、黄色、茶色など色彩が豊かで水族館でも人気があります。肉食で甲殻類などを食べる。
「おねぇさんは何してるの〜?」
「ん、散歩、」
「散歩!いいよね〜、楽しいし〜」
フウセンウオはにこにこ笑う。
「アタチ、ここで生まれたの〜」
「そうなんだね。」
オオシャコガイは小さく頷いた。
そして、水槽の小魚たちを眺めながら静かに考える。
(最近、バックヤードを月光の光で照らしてるおかげか、ここで生まれる率が増えてる、ん、いいこと....)
アクアリスは、月光を浴びた水生生物から生まれる。
この水族館では、館内の月光灯を調整することで、安全にアクアリスが生まれやすい環境を研究していた。
もちろん偶然も多い。
けれど、少しずつ仲間が増えているのは確かだった。
「おねぇさん、どうしたの〜?」
フウセンウオが首を傾げる。
「ううん、なんでもない、」
その時だった。
「あ、いたいた、フウセンウオちゃん、健康診断行くよ」
白衣姿の飼育員が手を振りながらやって来る。
「あ!う~ん!!バイバーイ!!!」
フウセンウオは元気いっぱいに手を振った。
「ん、バイバイ、」
オオシャコガイも静かに手を振り返す。
ぱたぱたと走っていく小さな背中。
その姿を見送りながら、オオシャコガイはふぅっと小さく息を吐いた。
「......はぁ~、...オープンは、まだかな」
館内には、今日も工事音が響いている。
けれど、その音の向こうには確かに未来があった。
いつかここに、たくさんのお客さんが来る日。
アクアリス達が笑いながら過ごせる日。
その日を想像しながら、オオシャコガイは静かに歩き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




