28話 「……前作主人公……」
さて。あのあとの様子をハイライトで。
「アタシのための世界なのに……アタシの世界をっ!アンジュ・イデーアぁああああああああああああああああああああああああッ!」
そんな雄叫びを上げてクロイア殿下すら突き飛ばし、アンジュに猛突進したトイフェルは見事に憲兵に押さえられ。
アンジュをなにか言いたげに見つめたクロイア殿下も拘束はされなかったが憲兵に連れていかれた。
俺とアンジュはしばらく休んでから馬車に乗って帰宅ということになったのだが。
「シェナ様」
「ん?」
俺は王宮の使用人たちが淹れてくれた一流の紅茶を飲みながら首をかしげる。
「私、家出をしてみようと思いました」
「……行くところは決まってるのか?」
「いえ。なにかいい当てはありますか?」
そんな穏やかな会話。同時にアンジュがわざとトボけてるのを感じて。俺はここぞとばかりにカッコつけに拍車をかける。
「では、アンジュをラティオ領に招待いたしましょう。きっと、貴女からすれば未知のテクノロジーがアンジュの心を魅了します」
「てくのろ……?」
あ、やべ。また出てしまった俺の現代語。俺は咳払いをして言うのだ。
「凄い技術のこと、今後流行る言葉だから覚えておいてくれー」
「ふふ、楽しみです」
そんな会話をしていると、待機室のドアがノックされる。俺は緩く返事をすれば王宮の使用人が入ってきて。
「どうしましたか?」
「国王様が面会されたい、と。扉の先にいらっしゃいます」
(え!?)
俺とアンジュは勢いよく立ち上がり、地面に膝をつけば使用人の方が扉をあけ放つ。
「此処は公式の場ではない。おもてをあげよ、ラティオ男爵、イデーア侯爵令嬢」
「「は」」
俺たちは恐る恐る顔を上げる。そこには間違いなく先ほどトイフェルにとどめを刺した国王様がいらっしゃって。
「糾問会の大立ち回り見事であった。同時に我が愚息が迷惑をかけたな」
「いえ、あれは……」
アレはトイフェルがすべて悪いに収束する。だが、プレイヤーアイテムのことを知っていなければ正しく裁けないだろうというのが難しいところだ。
「時にアンジュ」
呼び捨て!?と思ったところで、俺は「そうか」と納得する。アンジュからすれば一応義理のお父様だった人だもんな。
「はい」
「扉越しに聞いてしまったのだが……家出をするそうだな」
「ええ、お恥ずかしながら。そろそろ反抗期を迎えてみようかと」
そうアンジュが今まで見たことない、柔らかな苦笑を浮かべる。その笑みに国王様は愉快そうに笑うのだ。
「大いにアリだ。それに今イデーアの家に帰るのはおすすめができないからな」
「……?なにかイデーアの家にあったのですか?」
アンジュが問いかけると、国王様は自分はドカッとソファに座り、俺たちもまた座ることを促して俺たちが恐る恐る座ったのを確認すれば言うのだ。
「なに、聖女の件だよ。聖女が自暴自棄になったんだろう、自分が抱き込んだ組織を全て失墜させようとべらべら喋り始めたんだ。その中に……」
「イデーアの名前もあった、と」
アンジュがふっ、と笑う。その笑みは家の不祥事を嘆くでも、なんでもなくて。え、そうなんだ、程度の笑みで。
そして、その笑みをみた国王様は柔らかな顔で言うのだ。
「……変わったな。アンジュ。君のことを義理の娘に迎えられないだろう事実が残念だ」
「勿体なきお言葉です。でも、変われたのはシェナ様のおかげ、あのままでしたらなにが幸せかも分からない未熟な小娘でした」
そんなアンジュの言葉にまるで本物の父親かのような笑みを浮かべる国王様。そして———。
「で、ラティオ男爵」
「は、はい」
アンジュと国王様の和やかムードで会話が終わると思っていたら唐突に話は俺に振られて。
俺は若干びっくりしながら背筋を正す。
「君は私に聞きたいことがあるのでは?」
そう問われる。そう、俺にはあの法廷での一瞬生じた疑問があった。だけど、国王様に謁見できるとは思えなかったし、ましてや質問を許される機会なんてないだろう、と流していたのだが……え、聞いていいの?
「聞いていいのでしょうか?」
「なんなりと、その代わり……私、いや、俺として……ただのヒートリフ、いや、それ以前にただの男として回答しよう」
それは王様と言う外面を外して回答すると言う宣言だった。いやまあ、その方が俺も気楽でいいんだが……。
「では、……」
咳ばらいを一回。
「何故、トイフェルの思考誘導が効かなかったんですか?」
その問いに国王様は口元を釣り上げて笑った。
「いきなり核心が飛んできたな」
「いや、あまりぐだぐだ言うのも失礼かと……」
「気にしなくていい気にしなくていい。だけど、そういうところは嫌いじゃない。そうだな……アンジュ」
「はい」
唐突に呼ばれたアンジュが今度はきょとんという顔をした。
「此処で見聞きしたことは口外しないでくれ」
「……?かしこまりました……?」
アンジュの年相応に浮かべる表情にきゅん、としてしまう。ううん、可愛い。
そして、国王様は酸素を軽く吸い込んで。
「俺はあれがプレイヤーアイテムだと理解していたからだ」
「ああ、確かに理解していれば……はあ!?」
おっと不敬罪。俺は咄嗟に口を押さえれば、国王様は「かまわんかまわん」と笑うのだ。
そして、国王様は言う。
「ラティオ男爵はアナセカはどこまで?」
「ど、どこまで……無印はプレイして、ファンディスクの発売日に死んだので無印だけ……?」
え、俺何を喋らされてるの?俺は目を点にしながら国王様の返答を待つ。
「じゃあ……アナセカの前作は?」
「え、……前作あるんですか……?」
俺がそう問いかけると、国王様は言うのだ。
「と言っても乙女ゲーではなかったけどな。前作はギャルゲーだったんだが、あまりにも男性キャラの造形が良すぎてアナセカの開発部門が乙女ゲーも作った、と言うのが大体の流れだ」
あ、あー、なんか聞き覚えある。SNSで見たぞ、その論争。元はギャルゲーなんだから女は弁えろVS今は女も購買層に入るんだから野郎こそ弁えろ論争!
「じゃあ、此処で問題だ。プレイヤーアイテムの干渉を受けないキャラは?」
はあはあ、なるほど。俺はマジかーとか思いながら額を押さえて国王様をちらりと見る。
「……前作主人公……」
「正解だ。それが俺がプレイヤーアイテムの干渉を受けなかった訳だ」
……この世界、現実世界の人間転生させすぎじゃない?最早、現実世界組を炙り出した方がよくない?
「理解しました……いや、はい……聞きたいことは山ほどあるんですが……」
「はは、だろうな。でも、今日は帰ってゆっくり休むといい。ラティオ男爵ならいつでもお王宮に来ることを歓迎しよう」
そう言い残し、退室していく国王様……が、最後扉を潜る直前立ち止まって俺の方をちらりと見る。そして、視線が合えば緩く笑って立ち去っていくのだった。
扉がぱたん、と閉じれば俺とアンジュは顔を見合わせる。
「……」
「……」
「……お2人はなんの話を……?」
あ、うん、ごめん。マジで理解できない話が繰り広げられたよな。俺はそんなことを思いながら頬を掻いて言うのだ。
「……男同士の熱いお話?」
アンジュに洋扇で軽く叩かれた。……なんか、アンジュキャラ変わった?
と、そんなこんなで。休憩も終えて、俺たちは無事王都のラティオ邸に帰りつくこととなった。
無事に帰ってきた俺たちを見て使用人たちはわんわん泣いて喜んでくれて。親父も俺とアンジュのことを抱きしめてくれた。親の腕の暖かさってこんなに嬉しいんだ、と言うのを再確認した。
さて。そんな大騒動から1カ月。
ラティオ家には王宮から一通の手紙が来ていた。




