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25話 「第二・第三争点の議論の再開を宣言する」

 クロイア殿下の声が響いた。会場の人間の全ての視線がクロイア殿下に向く。


「ほう。反論があるのかね」

「あります」

「では、それを聞こう」


 エルジア様に発言を許可され、クロイア殿下はタイを直して口を開いた。


「夜半の出歩きの多くは魔力の補充のためだった。これについては異論はありません。ですが、全ての日にちが魔力補充のためだったとは言い切れません。国家転覆を目論む人間たちと連絡を取っていた隙もあったのではないでしょうか?」


 重箱の隅をチクチクチクチクとつついてくるなあ。俺は、さて、どうしたものか、と思っているとアンジュが一歩前に出た。


「発言の許可を、エルジア様」

「許そう」

「では———」


 アンジュが静かに顔を上げる。その動作だけで会場内の人間の視線を総攫いする気品のある動作だった。


「王立魔導学院のカリキュラムでは日々、大量の魔力を消費する前提のカリキュラムになっています。それは男女ともに大きな差はないでしょう。……故に、シェナ・ラティオ男爵の場合、毎日の魔力の補給が必要になると言っても過言ではなく」


 アンジュがザッ、と音を立てて洋扇を開く。


「先ほどのクロイア殿下の弁は———些か、言いがかりが過ぎるのではありませんか?」

「なっ———僕は可能性の話をしただけでッ」

「この法廷に可能性の話、などという逃げ口は存在しませんよ。クロイア殿下」


 おーおー。殿下顔真っ赤。でも、アンジュの弁には助けられた。ないものを証明しろというのは無理な話で。つまるところ、この話が続けば話が永遠の平行線となる。


「イデーア侯爵令嬢の言うとおりである。この場は法廷、可能性の話などという空想の話は慎んでいただこう。クロイア殿下」

「っ……申し訳、ありません……。ですが、シェナ・ラティオ男爵が魔力の貯蔵を行っていたという第三者の弁がないのも事実。主観的な証拠だけでこの争点を勝ち取ろうというのは些か被疑者側にとって都合が良すぎませんか?」


 言っていることの筋は通っている。通っているからこそ困った。俺に魔臓がないことを隠し通すために、心臓への充電はこそこそ隠れて行っていた。それが仇になった。


「ふむ……それもまた一理ある」


 あるよねーありますよねー。俺がアンジュをちらり、と見ればアンジュも僅かに指を震わせていて。

 そう、この話はあくまで俺のことを知らない人間に対する証明なのだ。

 すると、エルジア様の部下がなにかをエルジア様に耳打ちする。そして、数秒。エルジア様が木槌を叩いた。


「この争点、行く先は平行線である。提議人側はシェナ・ラティオ男爵が夜半に密会を行っていた証拠を出せず、被疑者側は魔力の貯蔵だけを行っていた、という証拠を出せない。つまり———」


 今回もイーブン。旗色は悪い。此処で完勝できなかったのはひたすらに痛い。俺は内心焦りを覚えていると———。


「お待ちください!」


 そんなトイフェルの声が法廷に響く。ゆっくりとエルジア様の視線がトイフェルに向いて。


「異議があります!」

「ほう……許そう、聖女トイフェル」

「はいっ。え、と、第三争点と第二争点の境界が有耶無耶になると思って黙っていました。ですが、この第二争点自体が有耶無耶にされそうなので意見します。エルジア様、第三争点の証拠を第二争点に対しても提出したいです!」


 ……第三争点の証拠?

 俺とアンジュは視線を合わせる。だけど、俺もアンジュもその中身を知らない。故に、答えはなくて。

 対してトイフェルはと言えば、自信満々。その自信のありようは俺たちを確実に潰せると思っているようで。何が提出されているのか、俺は僅かな寒気を覚える。

 すると、エルジア様の部下がエルジア様の元と背後の部屋を何度か行き来して。

 そして、エルジア様の方の言葉が纏まったのか、エルジア様が言葉を放つ。


「聖女トイフェルの提案を認めよう。その為、第三争点の説明を聖女トイフェルに求める」

「はい」


 トイフェルが顔を上げる。片手はクロイア殿下と繋いだまま。


「アタシはシェナ・ラティオ男爵を疑い始めた段階で、シェナ・ラティオ男爵がそんなことをするはずがないと思いました」


 おうおう、俺と一切の接点がない筈なのに言ってくれるなあ。


「少なくとも、王立魔導学院の生徒がそんな邪悪なことをするはずがない、と。だけど、ある日捕らえられた賊の人間が持っていました。シェナ・ラティオ男爵の名前が入った密命書。そして、僅かに付着した無属性の魔力残滓。これはシェナ・ラティオ男爵がパラミシアを転覆させようとした動かぬ証拠です」


 そうトイフェルが言い終わると、台に乗せられたその密命書とやらが運ばれてくる。そこには、確かに俺の筆跡によく似た文字。シェナ・ラティオの名前。そして、その隣に魔力残滓の鑑定結果の書かれた紙が1枚。


「さて」


 エルジア様が口を開く。


「この証拠は3つめの争点として提出されたものである。だが、聖女トイフェルの提案、この証拠を第二争点にも適用することが可能だ」


 つまり。


「第二・第三争点の議論を続ける」


 そう言うことになりますよね。おほほ、頭が混乱してきましたわ。


「アンジュ」

「はい」

「先に言っておく。アレは俺が書いたものではないからな?」

「そうでしょう。仮にシェナ様が書いたにしてもあんな証拠の残すような不用心なさならいでしょうから」


 それもそう。仮になにか密命を命じた場合、それを保持させておく理由がない。読んだら燃やせ、これ一択だ。

 はぁー……とりあえず、だ。


「エルジア様、証拠を間近で見てもよろしいでしょうか?もちろん、証拠になんらかの細工をすることは絶対にないと家紋に誓います」


 まあ、とりあえず、なにが書かれた証拠なのかを知らないことには始まらない。流石に法の番人エルジア様だ、証拠があるから有罪!なんてことにはしてこないだろうし。


「許そう。シェナ・ラティオ男爵、イデーア侯爵令嬢前へ」


 そう許されれば、俺とアンジュは今度はアンジュに気遣ってちゃんと扉から柵の外へ出て、証拠の元へ歩み出る。

 さて。


(えー……)


 内容は武器を買い集め、依頼で雇える魔法使いを探すようにの指示書だった。その下部に俺の署名と、魔力押印。

 そしてその隣の魔力残滓の鑑定書。これはシェナ・ラティオ男爵のものである、と。いや、でもこれ……。

 俺は横にいるアンジュをちらりと見る。アンジュはこくり、と頷いた。

 そして、俺とアンジュは証拠をもう一回まじまじと見て、元々立っていた場所に戻っていく。


「確認は済んだか?」

「はい」

「問題ありません」

「では」


 エルジア様の木槌が鳴り響く。


「第二・第三争点の議論の再開を宣言する」


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