23話 「シェナ様に無罪を」「アンジュに勝利を」
【Side:トイフェル】
「クロイア殿下……」
アタシは不安で不安で涙を滲ませる。アンジュ・イデーアの排除のために喧嘩を吹っ掛けたらなんかわからないけど雲行きが怪しくなっていってる。
此処で負けたら私が国家を揺るがそうとしたということになってしまう。
そこまで考えて、だけど、と思考を切り返す。
(アタシが負ける訳なくない??????)
アタシがこの世界に愛される主人公のアタシが負ける?ありえない、そんなの世界が可笑しいに決まっている。
そんなことを考えていると、クロイア殿下がアタシの頭を優しくその胸に抱きとめてくれる。
「大丈夫だ、君が探し当ててくれた、とっておきの証拠がある。それさえ覆せなきゃ僕たちの勝ちだよ、トイフェル……」
ああ、そうだ。アタシにはまだアレがある。例え、第二争点で敗北を喫そうが、あれがひっくり返されなきゃアタシたちの勝ちは揺るがない。
シェナ・ラティオを処刑し、アンジュ・イデーアから散々搾取した後にポイと殺して、アタシは王妃となる。
側近にユークリア様とカイゼ様とエビデ様を置いて、これでアタシのハーレムは完成する。頑張れ、アタシ!もうすぐだ、アタシ!
(でも、なあ……)
なーんか、引っかかる気がするんだよね。あの、シェナ・ラティオとかいう男。別にイケメンでもなければ、ゲームの攻略キャラでもないし、ラティオの家なんて設定資料集で名前がちょこっと出てきた程度だった。
なんでこんなに気になるのか正直分からなかった。
だけど、分からないことは凄く気持ちの悪いことだから。アタシはクロイア殿下に問いかける。
「あのシェナって男の人……予想以上に罪を認めませんよね……」
「あ、ああ。そうだね。そりゃ、此処が処刑されるかどうかの瀬戸際なんだ、足掻くだろうさ」
「まだ、罪を認めて嘆願すれば処刑は免れるかもしれないですのに……」
「いや……」
クロイア殿下は静かに首を振る。知ってる、それは無理だということは。
「それは無理だ、国家転覆罪は重罪。どんなに才能のある人間でも処刑は免れないよ。そして、それに与したアンジュもね……」
アンジュ、あの女。あの女の名前を出されてアタシの頭はカッ、と沸騰する。アタシはクロイア殿下にしなだれかかって言うのだ。アンジュ・イデーアを忘れさせるように。
「クロイア殿下に相手にされないからって国を転覆させようとする女、手を切って正解ですよ」
そして、私は手の中で指輪についているピンク色の宝石を割って言うのだ。
「大丈夫ですよ、クロイア殿下には聖女がアタシがついています」
それは主人公のみが使える特権。攻略アイテムだ。今のアイテムはアタシの言葉を信じやすくするアイテム。正直、これのおかげで4股が成立していると言っても過言じゃなかった。
「ああ、ああ。僕にはトイフェルだけだ、トイフェル……」
「はい、クロイア殿下」
殿下ってばメンタルよわよわ。アタシはクロイア殿下の腕の中でほくそ笑みながら、クロイア殿下をよしよしと慰めるのだった。
【Side:シェナ】
「いやはや……」
俺は控え室で備え付けの設備でアンジュに紅茶を淹れてもらって一息つく。
「まさか俺の秘密をバラすことになるなんてな……」
「そうですね。知ってしまえばなんてことのないモノなんですが……ああも言われてしまうと公表するしか道はありませんでした」
紅茶を啜ってふう、と息を吐くアンジュ。
「いやまあ、いいんだけどさ……」
「けど?」
「これから『あいつ魔臓ないんだよな』って見られるんだなと思うと……」
「それ以前に在学ができるかどうか……」
だよね!まあ、そこはいいんだ。俺が王立魔導学院に行きたい理由なんてアンジュに会うためでしかなかったから。
「ふぅー……しかし、第一争点もまだ途中だけど第二争点も補助してくれてありがとな。1人だったらあそこまで大立ち回りできなかったと思う」
「……いえ、シェナ様1人でもきっとできます。私は立ち回りやすいように整地したに過ぎません」
なんか、アンジュの中の俺の評価高くない?そんなことを思いながら、俺は紅茶を啜る。
「さて、第三争点以降どう出てくるかな……」
「トイフェルを舐める訳ではありませんが、彼女はそんなに詰めが得意ではありません。なので、きっとクロイア殿下頼みになると思いますよ。そして———」
「クロイア殿下の手の内は痛いほど知っている、か?」
「はい」
なんというか、改めて思う。アンジュ有能過ぎでは?この人を国母にしないとかちょっとそれはアンジュへの侮辱なんじゃないですかねえ、とか俺はついつい思ってしまう。
いや、嫌だけどね!アンジュは俺の!
そんな子供じみた自分の考えに苦笑しながら「そういえば」と切り出す。
「なあ、アンジュ」
「なんですか、シェナ様」
「あー……その、な。アンジュはさ俺の婚約者な訳じゃないか」
その問いかけにアンジュは頭の上にハテナを浮かべながらゆるりと頷く。
「家同士の調印が済んでいない上に、クロイア殿下が勝手に進めた婚約ですけどね」
うぐ。それは否定ができない。否定はできないけど……俺は口を開く。
「アンジュは、もし、クロイア殿下が再び婚約して欲しいと言ったら俺との婚約を破棄するか?」
その問いを投げかけた瞬間だった。色の灯っていたアンジュの表情から色が、抜け落ちた。
「そんなこと……」
「ないとは言い切れない。特に今回、俺が無罪を勝ち取ってトイフェルの言動が全て疑わしくなった場合、アンジュの件についても国の調査が入るかもしれない」
俺はアンジュをまっすぐ見る。
「冗談を……言っている雰囲気ではありませんね」
アンジュが両手を握り合わせる。
「そうですね。確かに、全てトイフェルが悪かったという結論になったら……その時はそう言うこともあり得るかもしれません」
俺の胸がズキン、と痛んだ。やはり、アンジュとは此処でどうなろうとお別れなのだろうか、と。
俺の手で、アンジュを幸せにはできないのか、と。
そんな感情が俺を支配する。
「でも、私は正直悩んでみようと思っています」
「え……?」
「なにが私の幸せなのか、少し悩んでみてもいいかな、と」
「それは……」
どうして、その問いをする前にアンジュは花も綻ぶ笑顔で言うのだ。
「私はずっと家を繁栄させることが幸せで、責務だと思っていました。でも、ラティオの屋敷で、アンジュ・イデーアの責務の脱ぎ捨てて生活する日々はとても楽しく……人はこれを幸せと言うのだろう、と確信までは行きませんが、そう感じました」
胸に手を当てて、ラティオの家での日々を思い出し、噛みしめるように言うアンジュの姿はラティオの家での日々を本当に幸せと感じてくれているようで。
「だから、私は……全てが終わって落ち着いたら一度自分の幸せとは何かを考えてみたいのです」
ああ、そう言われたら何も言えない。俺の側に居て欲しいとも、クロイア殿下の元に行かないでほしいとも。
ただ一つ言えるのは———。
「じゃあ、絶対に勝たなくちゃな。アンジュの幸せのために」
「ええ、少なくとも……国の兵器にはなりたくありませんから」
俺とアンジュがそう笑み合っていると、こんこん、とドアがノックされた。俺が「はい」と返事をすると———。
「すべての準備が終わりました。再度、会場へお越しください」
それはエルジア様の部下の人間だった。俺とアンジュはお互いに頷きあい、そして立ち上がる。
「シェナ様に無罪を」
「アンジュに勝利を」
そんな言葉を交えて、俺たちは再び糾問会の会場である王宮の広間に向かうのだった。




