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22話 「ああ、彼は稀少で役に立たない無属性……故に無才のラティオだったか?」

「では、ひとつ目の争点の結論といこう。少なくともシェナ・ラティオ男爵が王立魔導学院在学中に執筆した論文は今回の争点に上がるほどのものではなかった。これを疑うということは王家の監査を疑うことになるからである」


 ちょっと暴論寄りだけどね。でも、王家の目が節穴と言うのがこの場で言われるとちょっと不味い。この場での発言は全て公式のものとして扱われる。

 故に、お互いこれ以上掘り下げんなよ?といういのがエルジア様からのお達しだった。


「では、続ける。聖女・トイフェル。ふたつ目の争点をあげるよう」

「は、はいッ……」


 聖女・トイフェルが顔を上げる。まあ、相変わらずこの糾問会はトイフェル側が有利だ。俺とアンジュはすべての争点をイーブンないし、潔白であるという証明をしなくてはいけないが、トイフェルたちは俺たちが黒である証拠を1個でも保持すればいい。


(全く嫌になるな……)


 だが、それでも第一争点をイーブンに持っていけたのだ、俺とアンジュは目も合わせずに拳をぶつければトイフェルの二つ目の争点がトイフェルの口から話される。


「これは王立学院で男子生徒から聞いた話です。その話では、シェナ・ラティオ男爵はほぼ毎日と言っていいほど夜な夜な出かけているということを聞きました。これは、パラミシア転覆のためになにものかと密会・密談をしていたのではないでしょうか?」


 ほう。……同室のやつから聞いたのか?いや、まあ、噂の出どころはどうでもいいんだけど。


「ほう」


 すると、エルジア様がパラパラと分厚い本を捲り言うのだ。


「王立魔導学院は夜半の出歩きを禁止している。だが、それでも出歩いている、と」

「はい。しかもかなりの頻度で。それは、とてもじゃないけど貴族として口が裂けても言えないような……パラミシアの転覆をさせるための話合いをしていたのではないでしょうか?」


 ああ、上手い。もし、これがただの素行不良でも正直不味い。この場で、シェナ・ラティオ男爵は不良行為に手を染める人間であるという印象がつくからだ。

 この手の印象は馬鹿にできない。正直、最初のイメージダウンだけでとどめておきたいのが正直なところなんだが……。

 俺は考える。なにをしていたのかを明かすのは簡単だ。だけど、それをした場合、魔臓のない人間を王立魔導学院が置いてくれるとは考えにくい。

 まあ、つまりは中退……。

 そこまで考えていると、アンジュが耳打ちをしてくる。


「明かしましょう。此処で黙るのはあちらの言葉を認めることになります」

「……だけど」

「今のこの状況を切り抜けるのには明かす以外の方法がありません。……もし、それ以上の王立魔導学院の在籍になにか拘りがあるなら聞きます」


 そうアンジュに問われて、俺はハッ、とした。そもそも、なんで王立魔導学院で生活するのに拘ったか、それはあの婚約破棄の夜、あの場に居るため。

 アンジュを攫うためだ。


(ああ……)


 じゃあ、もうこだわる必要はないんじゃないか?それに、王立魔導学院から除名されても俺の築いてきた論文や地位がなくなる訳ではない。

 また、別のところで頭角を現せばいいのだ。

 じゃあ。


「……そうだな。変なところに拘った。言おう」


 俺がそうアンジュに小声で告げると、アンジュは「ええ」と軽く口元を上げてくれる。


「話はまとまったか?」


 エルジア様に声をかけられ、俺はこくり、と頷く。


「1点、俺が夜半寮を抜け出して何をしていたかを話す前にエルジア様にご確認いただきたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 俺が恭しくエルジア様を見上げれば、エルジア様はその顎髭を撫でて言うのだ。


「ほう、なにが確認すればいい?」

「俺の、魔臓の有無を」


 俺の言葉に動揺の空気が伝播する。エルジア様ですら、一瞬俺がなにを言っているのか理解できてない風だった。

 貴族たちももちろんざわめいている。


「魔臓の有無だって……?」

「いや、魔法が使えるならあるだろ」

「学院の生徒なんだよな?」

「なんだってそんなことを……」


 そんなざわめきにエルジア様の木槌が落とされる。


「静粛に!シェナ・ラティオ男爵、貴殿は王立魔導学院の生徒……つまりは、魔法を使える人間だ。そんな人間に魔臓の有無を確認するのは少々滑稽なことではないか?」


 そう。普通ならそうだ。すると、クロイア殿下が手を挙げる。


「許可する、クロイア殿下」

「はっ。……彼、シェナ・ラティオ男爵が魔法を行使していたのは公然の事実です。授業で行使していたのを僕もまたこの目で見ています。よってこれは茶番に過ぎないッ、ただの時間稼ぎだ!」


 まあ、普通はそう思うよね。普通は。

 そして、エルジア様は俺を見て言うのだ。


「我々も概ね同意見だ。時間稼ぎに付き合う気はない。故に聞こう、その言葉の真意を」


 エルジア様の厳しい視線が標本ピンのように俺に突き刺さる。

 だけど、これは時間稼ぎはない。正当な反論だ、だから、俺に痛いところなど微塵もなかった。


「俺には魔臓がありません。そして、深夜、大気の魔力が満ちる時間に心臓に魔力を貯蔵することで魔法を行使していました」

「なっ」

「……!」


 アンジュ以外の全員の視線が俺に突き刺さる。王立魔導学院の生徒だというのに魔臓がない、とか、心臓に魔力を?どうやって?とかそんな意見の乗った視線がどんどん俺に突き刺さる。


「そんなことがッ……いやッ……」

「嘘です!大気から魔力を貯蔵?そんなこと聞いたことがないッ……!」


 法廷が一気に混乱を極める。そんな中、そんな混乱に冷や水を被せるような声が響いた。


「では、クロイア殿下、シェナ・ラティオ男爵の魔力属性を覚えておいでですか?」


 ぴしゃり。その声によって場内の視線がアンジュとクロイア殿下に分散する。急に視線が集まったクロイア殿下は一呼吸を置いて口を開いた。


「ああ、彼は稀少で役に立たない無属性……故に無才のラティオだったか?」


 あー、これは直接馬鹿にされましたね。だけど、クロイア殿下は気づいていないだろう。今、クロイア殿下は自分の墓穴を掘ったことに。


「ええ、では、何故無属性であるか論理を立てて説明をできますか?」

「できるものか。王立魔導学院の教師がみな首をかしげているのだ」

「では、質問の角度を変えましょう。大気の魔力の属性は?」

「そんなものな———」


 クロイア殿下の口がそこで止まる。そう、大気の魔力に属性と言う指向性はない。魔臓という人の指向性が乗る臓器から生産される魔力には属性が現れる。

 だから、大気から取り込んでいる俺の魔力には属性がない。無属性なのだ。


「お分かりいただけましたでしょうか?エルジア様、シェナ・ラティオ男爵の魔臓の有無の確認と、属性のチェックを再度要請いたします」


 ナイス、アンジュ。俺がアンジュを見れば、相変わらず表情は硬いままで。でも、その表情が頼もしく見えて。

 俺は笑みを浮かべて言うのだ。


「イデーア侯爵令嬢の言う通り、一連の確認はこの法廷を進行するうえで大事なものとなると思います。どうか、ご懸命な判断を」


 俺がそう恭しくお辞儀をすれば、エルジア様は一度ため息をついて木槌を鳴らした。


「これよりシェナ・ラティオ男爵の魔臓の有無、及び魔力属性の確認を行う。その準備に寄り、一次閉廷。再開は30分後とする!提議人と被告人は控え室のみ行き来可能とする!」


(勝ったな……)


 すべてにではない、とりあえず第2争点は俺の勝ちである。そんな確信を抱いて、俺とアンジュは控え室に一旦戻るのだった。


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