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21話 「まず、前提条件を確認させていただきたい」

「いや」


 トイフェルが勢いに乗って続けようとした矢先、声を上げたのはエルジア様だった。


「問題は一つ一つ議論していくべきだ。此処で、シェナ・ラティオ男爵の反論を聞こう」


 お、俺のターンが回ってきた。印象最悪なこの状況で。

 だが、この程度飛んできた火の粉を払う程度で済まさなければこの先の議論、アンジュが味方していくれていると言えど無事には済まないだろう。

 俺は顔を上げる。これは正論と俺の思想の戦いだ。


「まず、前提条件を確認させていただきたい。エルジア様、よろしいでしょうか?」

「許可する」


 エルジア様のお許しが出れば、俺は右手の指を3本たて話し始める。


「確認したい点は3点。俺の論文はどれも軍事転用可能である可能性が示唆されていて、そのための打診を受けていた。俺はその打診を退けて、人を殺す道具を作った訳ではない、人を殺す道具を作らない、そのことを公にするために署名をした。そして、最後、それでもその研究に国庫を開いたのは国である。以上の3点をご確認いただきたい」


 俺がそう言えば、数十秒後、エルジア様の部下だろう人物がエルジア様に耳打ちをする。


「前提条件である3点を認めよう。それらは公にされていることだ」


 よし、通った。俺は心の中で小さなガッツポーズをしながら、続ける。


「では、まず。反論その1。俺は人を殺す道具を作らない、と署名をしています。この署名の効力は絶対、エルジア様もその効力をお知りでしょう?署名は絶対、故に俺は人を殺す道具を作りません。いかがでしょうか?」


 俺の反論。とりあえずはジャブだ。これはもうすでに取り崩されてる前提。だけど、公にしておく必要がある前提だ。

 そして、そんな俺の反論に無様だ、と言わんばかりに余裕そうな笑みを浮かべるクロイア殿下が片手を挙げた。


「許可しよう、クロイア殿下」

「ありがとうございます。シェナ・ラティオ男爵、君のその署名の話については通達の時点で崩されているのを忘れたのかい?」

「……いえ、伏せられた情報があるのは貴族の皆様に失礼でしょう。だから、俺は伏せられたカードを表にしているまでです」


 別にイメージ戦をやりたい訳ではない。あとから「そんなこと言っていない」と言われるのを回避するための言動である、そう釘をさす。

 すると、クロイア殿下は自分の言動にケチをつけられた、と感じたのか僅かに目元をヒクつかせてから言うのだ。


「じゃあ、表にしよう。その署名はパラミシアの中でのみ有効である。だから、パラミシアを転覆させようと考える君にこの署名の効力はないと我々は踏んだ」


 また少し、クロイア殿下・トイフェルの側に貴族たちの気持ちが傾く。そして、エルジア様が口を開いた。


「クロイア殿下の意見については私も認めている。シェナ・ラティオ男爵が国を転覆させようと考えているのなら、その署名に効力はないだろう。他、反論はあるか?」

「あります」


 俺は声を張る。そう、あくまでアレはジャブであり、言った言わない論争をしないためのいわば見せ弾。そうして俺は口を人差し指と中指を立てた。


「反論その2。では、俺が国を転覆させようとしているという前提で話をしましょう。その場合、多くの資金が必要になる。一介の男爵家の三男坊には不相応な資金が。その資金を得るためなら敢えて国からの打診を呑むべきなのでは?だが、俺は国からの打診も断り、その特許を軍で利用することも許さなかった。故に、俺は国家転覆を企てることはしていない」

「それは!」


 俺の反論に声を重ねてきたのはトイフェルだった。だが、なにを思ったのかクロイア殿下がトイフェルを止める。そして、なにかをまた耳打ちするのだった。

 そして、代わりにクロイア殿下がまた口を開いた。


「君の論文の技術を私たちも保持した場合、それが君にとって不都合だったのではないか?パラミシア転覆と言う大仕事の前に、我々に相応の武力を持たれては困る、と。だから、君は資金と我々の武力を天秤にかけて資金を捨てた。それに他に資金調達手段がないとは言ってないからね」


 まあ、流石と言うかこういう論戦には慣れていらっしゃるなあ。最悪なことに。まあ、でも、これも見せ弾。じゃあ、此処で大詰めだ。そう俺が口を開こうとした瞬間だった。アンジュが肩をとんとんと叩く。

 そして、俺の耳に口を寄せて言うのだ。


「次は私が出てもよろしいでしょうか?」

「……ああ、頼んだ」


 些か俺ばかりが前に出過ぎていたのだろう。此処で攻め手の交代を言い渡されてしまった。だが、此処で俺が俺がって言うほど俺も狭量ではない。

 俺は一歩下がった。


「では、3つめの反論は私からさせていただきましょう。エルジア様、問題ないですよね?」

「問題ない」

「ありがとうございます。では———3つめの反論です。先ほど、シェナ様がご確認した前提条件の3つめを覚えておいででしょうか?聖女・トイフェル」

「お、覚えてます。研究のために国庫を開いたのは国である……でしたよね?」


 そんなトイフェルの言葉にクロイア殿下はハッ、とする。


「アンジュッ!」

「お黙りください。クロイア殿下、貴方には問いかけていません。……ああ、あと、私と貴方はもう婚約者ではないのですから、イデーア侯爵令嬢とお呼びください」


 おお、おお……。強い。アンジュめっちゃ強い。


「クロイア殿下、今はイデーア侯爵令嬢の反論中だ。イデーア侯爵令嬢の問いかけがない限り言葉はお控え頂こう」

「クッ……」


 そして、クロイア殿下も封殺される。俺はなんとなくアンジュのやりたいことが分かった。そして、クロイア殿下は……俺あまり殿下のこと知らないけど。多分、卑怯だ、とか論拠なき感情論を振りかざそうとしたのだろう。でも、それも許さない。

 そこで、俺は感じる。ああ、アンジュもまたクロイア殿下を見ていないのだ、と。アンジュの敵は聖女・トイフェルなのだ、と。


「続けても?」

「問題ない」

「では、聖女・トイフェルにも確認が取れましたので。学院……王立魔導学院の研究のために国庫を開かれる際には倫理・国益・資金などの面において国の監査が入ります。シェナ様の研究は署名に寄り軍益にはなりませんが、それでも今後の未来を担う子供たちに寄り添うものだ、と国益になると判断してその研究は監査を通りました」


 これは事実だ。軍の利益にはならない=直接的な国益にはならない。だけど、国の子供たちの今の笑顔を作るものだ、と俺の研究は監査を通っている。


「それがどう反論になるんですか……?」


 トイフェルのアンジュの言いたいことを理解していない目。ああ、マジか。理解していないのか。

 俺はトイフェルを高く見積もりすぎていたかもしれない、とちょっと呆れてしまう。


「こちらを問題にし続けるということは、シェナ・ラティオ男爵の研究を監査した王家のモノにもシェナ・ラティオ男爵の息がかかったモノがいる……ということになりますが、よろしいでしょうか?」


 意訳、「え?お前、王家に疑いの目を向けるの?」。俺はアンジュの口から放たれる肉を削ぎ落す鞭のような言葉にゾクリ、と背筋を震わせる。

 そして、同時にトイフェルが半歩下がる。だけど、まだトイフェルにも余裕があるのかグッ、と持ちこたえて。そして、エルジア様が口を開いた。


「ほう、聖女・トイフェルはパラミシアの転覆を目論むものが王家に仕えるものの中に居る、と」

「あっ、いえ、ッ……」


 聖女・トイフェルの怒りに満ちた視線が一瞬アンジュを貫く。だが、アンジュにはそんな視線なんて一切効かなくて。


「居ても可笑しくはありません。ただ、王家を疑うつもりはない、ですッ……」


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