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20話 「パラミシア国家転覆容疑についての糾問会を始める」


「パラミシア国家転覆容疑についての糾問会を始める」


 そう凛々しく宣言するのは法皇庁のトップ・エルジア様だ。


「私の前に人は等しく平等であり、人は等しく法の下に裁かれる。異論はないな?」


 エルジア様の言葉に、俺とアンジュ、そして、その対面にクロイア殿下とトイフェルが立って双方言うのだ。


「「「「異論はありません」」」」

「では、此処に———パラミシア国家転覆容疑に対する糾問会を始める。それぞれ———いや、1人家紋を持たないものが居るな」


 エルジア様は困ったように髭を撫でる。それに対して、声を上げたのはクロイア殿下だった。


「トイフェルは今や私の婚約者です。なので、一時的に我が家紋に誓うことを許していただきたい」


 そのクロイア殿下の言葉にエルジア様はちらり、と今代の王……つまりはクロイア殿下の父親を見上げる。すると、王様はこくり、と頷くのだった。


「では、了承しよう。この場の発言全てが家紋に誓うモノであり、一度口にした言葉は呑み込めぬよう注意をしたまえ———では」

「「「「家紋に誓って」」」」


 その言葉を放った瞬間から俺たちの言葉は全て覆せぬものとなる。俺とアンジュもクロイア殿下とトイフェルもそれ故に言葉を放つことはまずなかった。

 故に、エルジア様が口を開く。


「ではまず、容疑の確認からだ。被告人、シェナ・ラティオ」

「はい」

「貴殿はパラミシアの国家転覆容疑がかけられている。まずそのことについて問おう。貴殿はパラミシアの転覆を望んだのか?」


 その言葉には俺は間髪入れずに答える。胸を僅かに張り、その胸に右手を当てて言うのだ。


「決して。家紋に誓って決してそのようなことは望んでいないと断言いたします」


 俺のその言葉に、この糾問会を傍聴しにきた貴族たちがざわめく。

 貴族とは……哀れな暇人が多い。故に、望んでいるのだ最高に脳内快楽物質が出る……正義という叩き棒を振りかざせる瞬間を。


「静粛に」


 だが、そんな好き勝手を許してしまっては糾問会は進まない。エルジア様の木槌の音が貴族たちのざわめきを沈める。

 そして、エルジア様は続けるのだ。


「では、提議人……聖女トイフェル」


 エルジア様に呼ばれたトイフェルは困ったようにクロイア殿下を見上げる。すると、小声でクロイア殿下はトイフェルに何かを耳打ちし、それに対してトイフェルが頷いて顔を上げる。


「はい」

「貴殿はシェナ・ラティオ男爵がパラミシア転覆を目論んでいると声明を出した第一人」

「はい」

「その理由を尋ねさせてもらおう」


 ふんふん、そう。まずは問題を提起しなければいけない。じゃないとただの言いがかりだからだ。トイフェルはそのぺったんこな胸の前で両手をきゅ、と握りしめて……まるで自分がヒロインであるというかのような顔で俺たちを見る。だけど、緊張しているのか声を上手く出せないようで。

 クロイア殿下が発言権を求めるように手を挙げた。

 その姿は支え合う夫婦のようで、アンジュの拳に僅かに力が入っている様子に俺の胸は痛んだ。


「許そう」

「トイフェルは貴族教育が始まったばかりでこのような場に不慣れです。なので、私が発言をしても構いませんか?」


 まあ、クロイア殿下ならこのような場にも慣れていらっしゃるでしょうね。だが。


「ならぬ。この場に立つ覚悟もなしにシェナ・ラティオ男爵に容疑をかけたのであれば、それこそ裁かれるべきは聖女・トイフェルということになる」


 それはそう。ずぅっと裏で引き籠ってにちゃにちゃしていたいだろうけど、いくら聖女と言ってもそんな権利はない。


「だが」


 ん?


「発言の補助は許そう。あくまで、主体は聖女・トイフェルだ」


 ああ、まあ、その程度はね。俺は静かにトイフェルを見る。トイフェルは多分、俺を見ちゃいない。

 たかがモブ男爵なんて敵ではないと思っているのだろう。

 俺はその事実に失笑しながら、緊張したように話し出すトイフェルの言葉に耳を傾ける。


「ま、まずは、シェナ・ラティオ男爵のこれまでの提唱した論文を皆様ご存じでしょうか?」


 声が裏返っているのが尚更庇護欲を掻き立てる。うーん、可愛いは可愛いけど……本性らしきものを知ってると失笑その2が出てきそうになる。


「まず一番大きなものはラティオ家一同の共著として出された『魔石』の論文。こちら、共著とありますがその本文のほとんどはシェナ・ラティオ男爵が記したモノ、とお聞きいたしました」


 まあ、その事に関しては公然の秘密と言うか。イエス、というのに問題はないだろう。むしろ、隠しておく方が不利益になる。

 俺がアンジュをちらり、と見ればアンジュもまたこくり、と頷いた。

 そして、エルジア様が俺に問いかける。


「魔石の論文の執筆者はシェナ・ラティオ男爵である。このことについて異論はあるか?」

「いえ、ありません。こちらに関してはラティオの発展のためラティオ家の共著としましたまでです。ですが、一部訂正を」

「許そう」

「小型化など一部の文章に関しましては、兄・ギアビスが執筆している点を留意いただければと思います」


 俺の言葉を書き留めるようにエルジア様の下に座っている男が筆を動かす。


「では、発言の続きを聖女・トイフェル」

「はい……!」


 そして、聖女トイフェルの肩にクロイア殿下の手が乗る。法廷でいちゃいちゃすんのやめてくんねーかな。中指が立ちそうだ。


「他にも人間を見分けられるぬいぐるみや、目的地を定めて着地する玩具、魔法なしに中距離での会話を可能にする玩具、そのおもちゃの位置を映し出す腕輪など……シェナ・ラティオ男爵の作る玩具の論文は……どれも軍事転用可能です」


 そこまで言い切ると、またわざとらしく「言えた」みたいな空気を出して淡く微笑むトイフェル。


(へー……)


 なるほど、俺の論文をよく読んでらっしゃる。多分、その気になれば俺の書いた論文の中身を全部挙げてくれるのだろう。


「ですが」


 トイフェルはキッ、とした鋭い視線で俺を見る。


「シェナ・ラティオ男爵はそれらの軍事転用を許しませんでした。パラミシアの国民であるのなら、パラミシアの発展のためにその論文を明け渡し発展に寄与すべきではないでしょうか?」


 そのトイフェルの言葉に貴族たちが再びざわめきだす。確かにもっともらしい。パラミシアの国民なら、パラミシアの利のために動け、と。

 うん、もっともらしい。だが、これに対しては反論ができる、が。今の俺はまだ発言権がない。


「静粛に。……聖女・トイフェル続きを」

「……はい。まず、これが私がシェナ・ラティオ男爵を疑ったきっかけです。シェナ・ラティオ男爵は……この国に寄与する気がない」


 そんなことないよ。ないけど、うん、何度も言う今の俺に発言権がない。

 でも、これ傍聴側からすると「確かに~それって国家に背いてるからじゃね?」ともなるのも事実で。しかも、聖女。この国の人気者だ。

 対して俺は一介の男爵家の三男坊。こういう戦いは少し……いや、かなり不利だった。

 俺は内心冷や汗をかきながらこのイメージ戦の負けを認めざるを得ない。


「いえ、寄与する気がないだけならまだいいと思います。……それならばまだ無欲なだけの青年であると思いますから。順を追って話しますが、アタシはシェナ・ラティオ男爵がこの国に背くためにその発想の一端を垣間見せつつも、隠匿していると考えています」


 好き勝手言ってくれる!

 これで俺にはその力を国に隠匿し、その陰で国家転覆を企てたという印象が貴族やエルジア様に着いただろう。

 こういう戦い、マジで男は不利。


「他にも論拠を上げさせてください」


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