王国(キングダム)
「魔淵君。君の撮影した映像はなかなか興味深いよ。公安5課のメンバーにはまだ隠れた能力がありそうだな。特に田原とかいう新任捜査官の能力は私にも理解不能だ」
窓の無い広く殺風景な部屋の中央に置かれた椅子にひとりで座らされているマブチに、どこからともなく響く声が話しかけていた。
「サカガミがやられることは想定内だったが、まさかカキハラが生け捕りになるとはな。少々5課を甘く見すぎていたようだ」
「モニターだなんだと面倒くさいことやってないで、とっとと殺せばいいんじゃないのか?なんなら俺がやってやるぜ、総督さんよ」
「まあ殺すのはいつでもできる。彼らを生かしておくのも計画の内なのだ。今のところはな」
マブチに総督と呼ばれた男の声が答えた。
「計画?その計画とやらは俺には内緒なのか?そもそもどうしてあんたは俺の前に姿を現さない。命を助けてもらったことは恩に着るが、少々気に入らないな」
マブチは不機嫌そうに言い放った。
「失礼は承知の上だし申し訳ないとは思っているよ。私は君を買っている。いずれ顔を突き合わせてすべての計画を話すときが来るだろうが、しばらくは我慢してくれたまえ」
「ふん。まあいいだろう。総督の命令に従って刃月は同級生から血液を採取しているが、まだ足りてないのか?」
「刃月君はよくやってくれている。君もよく女生徒たちに手を出さずに自制してくれているな。正直驚いているよ。おかげであまり目立つことなく少女たちの血液が集まっている。しかしまだ不足なのだ」
マブチはじっと座っているのに耐えかねたかのように立ち上がり、部屋の中を歩き回り始めた。
「それであとどれほどの血液が必要なんだ?殺さずに血液を集めるのはなかなか骨が折れるんだぜ」
「出所後に刃月君の母親以外で君が殺したのはひとりだけだな。しかし量の問題じゃないんだ。我らの国王陛下はグルメでな。霊力の高い処女の生き血を所望なのだ」
「国王陛下か。総督もだが、その王とやらにはいつ会えるんだ?」
「不敬な男だな。まあそこが良いところでもあるのだが。君も国王陛下にはいずれ謁見することになるだろう。それまでは刃月君とともに働いてくれたまえ」
**町3丁目での戦闘から3日後の午後に藤太は県警本部の公安部にやって来た。
部屋には片桐、工藤、そして神谷も居た。
片桐が藤太に話しかけた。
「田原君、いつも急な呼び出しですまんな。いろいろ進展があったんだ」
「覚悟はしているさ。それで進展とは?」
「まず最初に女吸血鬼の妙子が口を割った。奴らの組織は『王国』と呼ばれているらしい。首領は総督と呼ばれているらしいが、会ったことはないそうだ」
「秘密結社だな。組織の構造は末端には知らされていないのか。王国なのに首領が総統というのもヘンだが、組織名がわかっただけでも進展だな」
「彼女たち夫婦への命令は主に電話なんだそうだ。上司は部長と呼ばれている」
「首領が総統なのに中間管理職が部長か。階級に整合性が無いから組織図が見えない。徹底してるな」
「やつらは人間をスカウトしてMに仕立てるわけだが、スカウトするのは主にその部長たち。しかし稀に総督自らスカウトすることもあるらしい。まあ幹部候補生なんだろうな」
「どういう基準でスカウトしてるんだ?」
「心に闇を抱えた者らしい。あの人狼と吸血鬼の夫婦は若いころに子供を失っているが、調べてみるとと今でいうところの児童虐待死だったようだ。コウモリ男は有名人だったよ。柿原という男で、君も知っているだろう、17歳の少年が起こした児童連続殺人事件」
「少年法に守られて釈放された奴だな。しかし俺が・・今の俺が生まれる前の事件だろ?それにしちゃ若いな」
「奴も不老不死なんだろうな。釈放されてもネットで本名もバラされたし、日本中どこに行っても心休まる暇もなかったろうよ。そこに付け込まれたんだな」
「なるほどね・・で、他には?」
「王国の計画のひとつが分かった。これを見てくれ」
片桐は傍らのテーブルから手に取った新聞の記事を藤太に見せた。
・・・世界のミイラ展に出展予定のミイラが盗まれる。
有名なエジプトのものを筆頭に、世界各地で発見されたミイラを展示するイベントらしい。
カネのかかる大がかりなイベントだが、マニアックな展覧会における事件なので、記事は小さい。
「これがどうした?」
「開催に向けてあちこちからミイラが日本に輸送されているわけさ。そのうちのひとつ、イギリスのロンドン郊外の教会地下で近年発見されたミイラが昨日港から忽然と消えた。盗まれたんだ」
「それが王国の仕業だと?」
片桐は含みのある笑みを浮かべた。
「実は盗まれたというのは表向きでね、我々公安部が保護したんだよ。詳しくは神谷さんに話してもらおう」




