技能五輪 5
技能五輪とは技能五輪全国大会の略称で、青年技能者の技能レベルの日本一を競う競技大会だ。
そして、技能五輪全国大会に出場する選手は、満年齢23歳以下。
千香良はピンとこない話に小首を傾げている。
「多分、再来年が技能五輪の国際大会だから、それに標準を向けて、今年は2級左官技能試験だな」
けれども、高城は、お構いなし。
話を止めない。
「仮に、不合格でも1年の猶予があるから、来年、頑張れば、問題無いよ」
「あの……」
千香良は、おずおずと手を挙げる。
「何?」
今度は高城が小首を傾げる。
「私……そんな話、聞いていないんですけど……」
「嘘?当の本人なのに」
高城は、あんぐりと驚いている。
そのリアクションに、千香良は上目遣いで、冷酒を一口。
そして、頷いた。
「俺の耳に入るって事は、千香ちゃんの周りは、皆、知っていると思うよ。それにしても、本人が知らないなんて、龍太の奴は何を考えているんだ……」
高城は腕組みをして、何やら腑に落ちない様子だ。
それに対して千香良は、全くもって、現実味がない話で、気にもならない。
人事の様に、冷酒とアテを楽しんでいる。
美々から『左官技能競技大会』の話を聞いたときも、 一瞬(真逆!)と、慌てたが……
そもそも、大会なんて興味がない。
「美々には『左官技能競技大会』に出場する、って言われけど……」
千香良は黙り込む高城に堪えられない。
話の流れとして、打明けてみた。
「それは……多分、勘違いだね」
「でも、榊さんから聞いたって言っていたから、誰かと間違えているんだよ」
しかし、高城のニュースソースは左官組合のインストラクターだ。
噂には信憑性がある。
高城は返事もせずに、黙っている。
千香良は、静寂に、息が詰まりそうだ。
「失礼します」
すると、静かに襖が開く。
先程と同じく若い仲居だが、やけに大人しい。
「高城さん、お寿司が来たよ」
けれども、高城の目には映っていないみたいだ。
「あぁ、悪い……」
若い仲居は、チラッチラッと高城を伺いながら、配膳している。
千香良は、何故か目聡い。
「美味そうだ。ありがとう」
高城は打って変わって愛想が良い。
見せた笑顔に、若い仲居の頬が染まった。
(高城さん……って、やっぱり素敵なんだ)
「どうぞ、ごゆっくり」
そして、若い仲居は淑やかに去って行った。
千香良は、何もかも、が釈然としない。
さっきまで、悠長に構えていたのに……
自分で自分が嫌になっちゃう。
「千香ちゃんが、聞いていないと言うことは……親方の気が代わったんだな」
高城は龍太が千香良に告知しない理由を長々と考えていたらしく、不用意に言い渡す。
そして、千香良の顔を、凝視してきた。
「向上心がプッツリか?」
言い当てられた千香良は急に泣きそう……




