汚い食堂 7
『プラスター工房ムラオカ』の仕事は、主に野丁場。
月曜日からの3日間、千香良は龍太と一緒にマンションの現場で下地塗り。
マンションの新築工事では、壁・床・天井などの大部分で左官工事が必要だ。
けれども、千香良は住宅や店舗などの町家仕事が好き。
材料で言えば、モルタルよりも、漆喰や珪藻土。
壁紙や、カーペットで隠れてしまう下地剤よりも、左官職人の腕の善し悪しが顕著に表れる漆喰や珪藻土が塗りたいのだ。
それでも、今日、塗った外階段はノースリップタイルを貼って、完了。
仕上がりが人の目に触れる。
たかが階段だけれども、出来映えには満足できた。
「真逆、今回も、墨出しの間違え、なんて事は無いだろうけど、注意はしてくれ」
軽トラの窓を降ろして、龍太が大きな声で、再確認をしてきた。
今日は、初めから龍太は直帰の予定で、車も2台で来ている。
「了解です」
敬礼で答える千香良は『プラスター工房ムラオカ』に帰るべく、車に乗込む。
「あぁ、それと丁稚と……星谷と飯、行くんだって、奢ってもらえよ」
(えっ?何で知っているの……私、話していない)
千香良は、ここの所、現場で龍太と殆ど話をしていない。
マンションの現場には余所の左官屋からも応援に来て貰っている。
龍太は次期親方。
顔見知りの職人達と親睦を深めるのも仕事の内。
なので、千香良は構ってもらえない。
それでも、昨日、一昨日は元ヤン城島が連れてきた拓哉少年の話を聞かせてくれた。
早く家を出たいそうだ。
16歳で親元を離れるなんて千香良には考えられない。
『僕は勉強が嫌いで、家は貧乏なんで、職人になりたいです』
拓哉青年は至極シンプルな理由で職人の道を選んだらしい。
左官屋を選んだ理由は、小学校3年生の時に『アカデミーイベント』に参加したことがあるから。
『千香良はどう思う?』
千香良は聞かれて『後輩が出来ると嬉しい』と素直に答えた。
後輩の面倒=仕事が増える、という発想は微塵もない。
実際に、小僧として入って来るのは、4カ月間も先だが……
正直な話、今からワク、ワクしている。
そして、車に乗込むと、千香良は先ずはラインをチェック。
すると、星谷のアイコンに①。
【明日、身体丈夫ですか?】
千香良はスマホを胸に抱くと、返信を考える。
まだ、館も一緒なのか、気にしているのだ。
するとチコンと再び星谷のアイコンに①の印。
【新藤さんも一緒です】
言いようのない雑感に、千香良のテンションは一気に下降。
【了解です】
ビジネス仕様の返事を返した。
読んで下さってありがとうございます。




