恋をしている場合か? 6
「全国大会って『全国左官技能競技大会』?」
千香良は思い当たるワードを口にしてみる。
「あれ?お兄ちゃんから聞いた話なんだけど……千香良じゃなかったんだ。お兄ちゃんの情報源も当てにならないな~知り合いにの左官屋さんは千香良だけじやないもんね。でわ、聞かなかったことで……」
千香良の反応に美々はあっさりと話を覆し、頭をペコリ。
胸の内を吐き出したばかりで、面倒な話は抜きにしたいのだろうか……
それとも、咄嗟に箝口令と判断したか?
「だよね」
いずれにしても、千香良は美々の勘違いに寧ろ納得。
一瞬(真逆!)と、慌てたが……
絶対、おかしい。
左官職人なって3年目。
『左官技能競技大会』にエントリーなんて分不相応も大概だ。
冗談にもならない。
「次はレモン杯かな……」
美々はどうやら、飲食に本腰を入れる模様。
飲み物のメニューを手にすると、呼び出しブザーを押した。
折角の飲み放題。
当然、千香良も右に倣え。
美々からメニューを見せてもらう。
「もう、お兄ちゃんの話って登場人物が多くて、苗字を言われても右から左に忘れちゃうよ」
そして、美々が榊の愚痴を溢すと、流れで千香良は千登世の悪口を……
たわいも無い話しは、口にした側から忘れていき、取り留めない。
飲み物の追加を頼み、頼みと、2時間の飲み放題など、アッという間に過ぎていく。
先程、デザートを持ってきたスタッフが、飲み放題のラストオーダを聞いていった。
「そうそう、思い出した。千登世さんがね、恋愛したいならコミュニケーション能力を磨けって。男も女も顔より知性だって。千登世さん性格は度外視だもん、笑える」
美々はケラ、ケラと楽しそう。
然程、酔っているようには見えないが、どうやら、笑い上戸らしい。
けれども、酒に強い力は一方に代わらない。
いつの間にか忘れていた星谷について思い出す。
「ねぇ、そんなに蘊蓄、言うってことは、お兄ちゃん、もマッチングアプリしているのかな~」
それでも、酒の力は本人ですら、思いも寄らない言葉を吐かせる。
千登世は星谷と同世代、婉曲ながら参考までに……と思ってみたいだ。
「ナイ、ナイ。アレは遊び人と非モテが使うアプリで、しかも、ハイリスクでロウリターンだって。友達の一件で私も、そう思うな……もう、あの娘との友情もフェイドアウトするかも……」
美々がしんみりと肩を落とした。
急激に酔いが回ってきたらしい。
今日中が門限の千香良も、そろそろタイムリミット。
デザートも食べ終えている。
「行こうか」
「あぁ~来週には、試験の結果が分かるけど……自身ないな~、でも、先ずは己の確立。陸上部の監督に良く言われよ~」
美々が酔いを覚ますべく、気合いを入れて立ち上がる。
そう言えば、美々が簿記2級の試験を受けた話は兄の千登世から聞いた。
恋よりも、美々は仕事に家事と忙しい。
陸上部の練習で延々と走っていたのを思いだす。
緩緩と生きてきた千香良とは違う。
たまには羽目も外すだろう。
千香良!
本当に恋をしている場合か?




