恋をしている場合か? 5
千香良に釣られて美々も嘆息。
言葉に出さなくても察したようだ。
難しい顔をしている。
千香良は星谷に馳せるを思いから、現状に帰る。
高校時代の美々は取り敢えずクラスでは千香良達のグループに入っていたが、形だけ。
陸上部の練習に心血を注いでいた美々とは、校外では遊んだ記憶は無い。
けれども、今は千香良の親友だ。
憂いは晴らしてあげたい。
「でも……分からないよ。友達にも、やっている娘がいるけど、普通に付き合ったりしているみたいだから……」
(でも、直ぐの別れるけど……)
千香良の脳裏にマイナスな心の声も……
しかし、勿論、口にしない。
そして、マッチングアプリの利用者は百合。
百合は三上の高校時の同級生だけあって、才色兼備なのだが……
以前は、10歳上のサラリーマンだの、オリンピックの強化選手だった水泳インストラクターだの……
自慢げに話してした。
けれども、最近では話を聞かない。
就職活動も忙しいのだろうが……
百合に場合、単に飽きたのだろう。
百合は清楚の見掛けに寄らず、齢、20歳にして百戦錬磨の強者。
いずれにせよ、マッチングアプリなど利用しなくてもボーイフレンドには事欠かない。
そして、噂で聞いたのが、幼馴染みの恵子。
ヤリモク女らしい。
千香良が思うに、2人とも恋愛経験が豊富。
騙されるよりも、騙す方に分類される。
「まぁ、そんね話も聞くけど……それって、男を見る目が出来ている場合でしょ」
確かに、美々の交友関係は中学、高校の元陸上部絡み。
恋愛上級者とは考え難い。
多分、恋バナを聞かされた相手は、その内の誰か1人だろう。
千香良も美々も物思いに沈黙。
そこに、先程のスタッフが、先ずは生ビールを黙ってテーブルの置いていく。
今は、愛想の無いのが有り難い。
「改めて、やっとかめ」
ビアグラスを掲げた美々が方言で戯けてみせる。
場の空気を変える為だろう。
有り難い。
「でも、あの娘は明らかに騙されている」
しかしながら、憤懣やるかたない。
口元の付いた泡を拭って美々が訴える。
その勢いに、千香良も何となく、同感。
こと、恋愛に置いては当事者の目は曇りがち。
そして、何故か友人の第六感は鋭い。
けれども、他人の色恋沙汰など、どこまで行っても想像の域を越えない。
決めつけるには無理がある。
否定するには確証が必要だろう。
「でも……何で、騙され確定?」
「そりゃ、相手の男に婚約者がいるからだよ」
「え?知っている人だったの?」
千香良は口元に近づけたビアグラスを、一旦テーブルに。
驚いて開いた口がふさがらない。
容易ならぬ事態が起こっているようだ。
「それが、偶然。地元の少年野球チームの監督でさ~ホント、世間って狭いよ。それが、かなりのイケメン。だから友達が自慢げに写真をみせてきたときに、どこかで……?って思ったのよ。ほら、私もランニングの前にグランドで準備運動をするから……無意識に見ていたんだろうね」
美々は一旦、話を切って頷いている。
すると、テーブルの上には、先付けの、おばんざいと刺身の盛り合わせが、無言で置かれた。
美々が苦笑いを見せている。
余りにも無愛想なので、話の邪魔にならないのが、可笑しいようだ。
けれども、話が佳境で料理に箸が付けられない。
「それで?」
「で、案の定、スーパーで遭遇して発覚。兄さんと一緒だったから、実家を2世帯にリフォームしたいって、相談してきた。ご近所だから、兄さんとは顔見知りらしいの……婚約者は大学の同級生だって。もう~マッチングアプリ関連の恋バナは絶対に聞かない。友達が見す見す処女奪われて……あぁ~悔しい!新婚家庭を壊してやりたい」
「それで、教えてあげたんでしょ」
千香良としては1番の重要事項と思う。
「無理」
けれども、返ってきた答えは無情。
時は既に遅く、美々の友人は完全に盲目状態。
美々がさり気なく、二股とか妻帯者とかネガティブな話題に出したところ、話を反らされて、お終い。後は、惚気るように、最近は彼、忙しいんだよね……って微笑んでいたらしい。
「薄々分かっているようにも取れるけど……下手に教えると、逆ギレ?どうかな?」
「うん……ネットって便利でさ、調べたら逆恨みされるだけって、書いてあった。無責任だけど、恋愛って究極の自己責任だから……他って置くしかないみたい。食べよ」
美々はテーブルの料理に箸を伸ばす。
厄介事を話したことで多生はストレスを発散出来たようだ。
千香良も料理に目を向けた。
おばんざいは、コンニャクの白和え、ジャコと万願寺の炊いたん、カボチャと小豆の従兄弟煮、揚げと切り干し、そして千枚漬け。
細長い角皿に小鉢を5つ並べられている。
そして、ガラス皿に盛られた刺身はマグロとサーモン。
どれも美味しそうだ。
「ホント、こんな話して反省。千香良は恋をしている場合じゃないのに、御免ね。全国大会出るんだって?」
美々の言葉に、千香良は箸を伸ばした手を止めた。




