恋をしている場合か? 4
美々は榊工務店の経理と同時に家事も担っている。
出掛けるとなると、何かと慌ただしいのだろう。
一心地付いた安堵から、思わず、ぼやいてしまったようだ。
それにしても唐突だ。
千香良は当惑も露わに美々を見据えた。
「あっ、悪い……聞こえちゃった」
美々が肩を竦める。
「うん……ちょっとビックリしたけど・・・何かあったの?」
千香良は着たままだったコートを肩から外しながら、問いかける。
「まぁ……色々…」
同じくコートを脱いだ美々はラベンダーのアンサンブル。
ボタンがパールで品が良い。
けれども、体裁が悪い話しなのだろう。
背もたれに身体を預け押し黙る。
同時に水を運んでくるスタッフの姿が目の端に写る。
黒字の襟元に手毬模様と和を主張した制服だ。
しかし「いらっしゃいませ」と、テーブルにおしぼりと水を置いたスタッフの爪に驚愕。
白地にゴールドのフレンチネイルは撃的な長さ。
加えて、パールとラインストーンでデコレーション。
何より、メイクが派手で嫌でも凝視してしまう。
ユニコーンの髪は辛うじて手鞠柄のバンダナで隠されているが、とても、お運びとは思えない。
そして、おざなりにコースの確認をすると、踵を返す。
飲食業は人手不足で採用条件を緩和させている、と聞くが……
アルバイトだろうか愛想が良いとは言い難い。
美々が後ろ姿に目を呉れた。
付き合いが親密になると本性を目の当たりにする機会が増える。
何事にもストイックな美々は他人にも厳しく当たりも強い。
「大学生かな?」
「どうだろう……千香良をライバル視しても勝てないっちゅうの」
千香良は美々の言葉に苦笑いを返すしかない。
美々曰く、見た目命の人種は自分よりも優位な存在に敵意を向けるらしい。
母に借りてきたモノグラムのバッグが癪に障ったのだろうか……
それとも、ラメ混の白のモヘアが拙かったか?
いずれにしろ、解せない。
千香良は一介の左官職人にすぎないのに……
それよりも、美々の話が早く聞きたい。
話の如何によっては星谷の話は出来なくなる。
千香良は出足を挫かれたのだ。
「で、何があったの?」
「マッチングアプリよ」
美々の一言に千香良は深い吐息を吐き出した。
聞かなくても予想がつく。
千香良は男性が多い環境に身を置いている手前、マッチングアプリについては良からぬ話を耳にする。
所謂、ヤリモクだ。
次いで眉間に皺が寄る。
(ひょっとしたら……星谷さんも?)
どのみち星谷が浮かび上がる千香良だった……
読んで下さってありがとうございます。
相変わらずの遅筆で……御免なさい。




