ポーカーフェイス 5
昼休憩は現場に向かう途中にコンビニで調達した、おにぎりを順番で立ち食い。
龍太も館も、5分もせずに食事を済ませて、作業に戻った。
本当に今日は時間との戦いだ。
何とも慌ただし。
千香良も未だサッシが填め込まれていない出入口に凭れたて、明太子のおにぎりを、頬張っている。
前以て、聞かされていたので覚悟はしていたが……
出来れば昼休憩は現場事務所に行きたかった。
時刻は昼を過ぎた頃。
現場監督達も食事をしているはずだ。
「千香良、飯、食ったら、現場事務所で珈琲、買ってきて」
そこに嬉しい使い走り。
千香良は龍太の言葉に気持ちが逸る。
現場事務所に赴けば、丁稚に会えるかもしれない。
それならば……
千香良は咀嚼を早めて嚥下する。
「今、行ってきます」
「おい、小銭入れ……」
「立て替えときま~す」
「直ぐに帰ってこいよ」
龍太が一言念を押す。
普段から投げかけられる常套句だ。
なのに、千香良は心中を読まれたみたいで後ろめたい。
「分ってますよ~」
それでも、いつもの調子で返事を返すと、現場事務所に向かって走っていった。
上気した頬を撫でる、冷えて外気も心地よい。
乙女心は不可解不思議。
丁稚のどこが良いのだろう。
千香良は首を傾げながらも、顔が緩んで仕方が無い。
そして、現場事務所の前で深呼吸。
ドアを開けると、何食わぬ顔で室内を見渡した。
それなりに、人で満ちている。
すると奥のテーブルに丁稚と、もう1人の若い監督がコンビニの袋を脇に弁当を広げているではないか。
千香良は悟られないように、自動販売機に脚を向けるが明らかに鼓動が早くなっている。
しかし、誰が何を悟るのだろう?
思考が可笑しい。
それよりも、密着してくる背後の人に気が付かないのは……
「相葉さん、お疲れさま」
案の定、背後から名前を呼ばれて飛び上がる。
目の前で新藤が悪びれずに、ほくそ笑む。
「新藤さん……脅かさないで下さい……心臓が止るかと思った……」
千香良は腕を胸の前で交差して竦んでいるも、言葉を返す。
「ごめんね~ごめんね~」
新藤が笑顔を湛えて、随分前に流行ったギャグを口にする。
たわいもない。
けれども、この手の悪戯に怒るようではガテン系の女は務まらない。
千香良も脱力すると微笑んだ。
「飯?」
「昼はおにぎりを立ち食いで……お使いで、珈琲を買いに来ました」
「そう、ご苦労様。僕は丁稚達を探しに……いた、いた」
新藤が丁稚達の方へ向かって腕を上げる。
そして、気配に顔を向けた丁稚達が一礼。
ただ、星谷だけが続けて黙礼。
どうやら、千香良が視界に入ったようだ。
千香良も会釈を返すが、途端に表情を無に切り替えた。
星谷だって、表情は無に等しい。
(あれ?)
意識するほどのポーカーフェイスは、お互い様なのかも知れない……
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