ポーカーフェイス
エアコンのタイマーはAM4時30分にオン。
千香良の起床時刻には室内が程よく温い。
それでも、冬場のAM5時は未だ暗く、窓の結露が外の寒さを物語る。
昨晩は父の帰宅と同時に部屋に戻った。
父は娘との晩酌を期待したらしく、少し、がっかりしていたが、旨い酒も、睡魔には勝てない。
思いの外、疲れていたいようで、枕に頭を付けたと同時に、朝まで爆睡。
夜中に目覚めることもなかった。
そのお陰で、今朝は寝坊せずに起床。
千香良は緩慢な動作でベッドから這い出した。
今日はセルフレベリングの打設。
630へーべーにもなると、レベリング剤は9リューベ。
生コン車2台分だ。
現場の職長は館だが、今日は龍太が手伝いに入る。
そうなると、仕切りは龍太。
多分、昼の休憩は取らないだろう。
千香良は朝から、少し憂鬱だ。
けれども、仕事は行かねばならぬ。
(今朝は~おでんのお汁で雑炊を食べて……暖まってから出かけよ。で、リンゴを剥いてもらって……丁稚が様子を見に来てくれると嬉しいな~)
千香良は、楽しみを思い浮かべながら、支度に取り掛かった。
そして、『プラスター工房ムラオカ』までの道すがら、白々と空も明るくなっていく。
運転免許を取り立ての頃は、通常20分の所を40分も掛かっていたが、今では、ついつい時速オーバー。
今日は早めに着いてしまった。
それでも、龍太は既に来ていて、軽トラに荷物を積み込んでいた。
「おっ、遅刻せずに来たな」
千香良の顔を見るなり、龍太が、からかってくる。
龍太の弄りは挨拶代わり、親愛の証だそうだ。
「どうして、そんな意地悪を言うかな~そんなんじゃ、龍乙君に嫌われるよ」
そして、千香良も負けずに応酬。
朝のじゃれ合いは日課となっている。
普段走る無口な千香良も龍太が相手だと遠慮かない。
意味もなく、息子を引き合いに出してやる。
「龍乙は関係ないだろう……千香良の方が、よっぽど意地が悪ぞ。俺はただ、乙葵から相葉家の昨日の夕飯が「おでん」だって聞いたから、絶対に千香良は晩酌するって思ったんだよ。お前は、時分のキャパシティが分らんで呑むだろう」
確かに、龍太に言うことは尤もだ。
いつもなら、父と遅くまで飲んでいただろう。
父は娘との晩酌が楽しいようで、いつまでも付き合ってくれるのだ。
「だって……お父さんが、悪いんだよ」
言い訳をする千香良は拗ねた口ぶりだ。
「まぁ、若い頃を思い起こすと、俺も似たようなもんだったからな……じゃ、館さんには直行してもらったから、行こうか」
何だかんだと言っても、やはり龍太は千香良に甘い。
そして、連れ立って現場に向かう。
代わりのない光景だった……
けれども、現場に着いた時点で千香良は意気消沈。
館の直行は理由があった。
丁稚と2人で、当たりの高さを最チェックしている。
「昨日、当たりを忘れて帰っただろう、星谷から館さんにラインが入って、2人でやっつけたらしいぞ」
龍太の言葉に千香良は無言で唇を噛みしめた。
(連帯責任なのに……)
お呼びが掛からなかったのは、半人前と扱われている証拠だ。
千香良は、何故か悔しい。
読んで下さってありがとうございます。
遅筆で申訳ない……




