47話 陳興道会戦8
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程なくして二正面を相手どっていた名前も忘れるような提督の座乗艦が炎上し、遂に叢雲お待ちかねのスタークが三正面で戦わされる羽目になる。
そうなる前に逃げるだろうと確信していた笹本は予想される退路に船団を伏して配置していた。案の定スタークは第6艦隊ともう一つのベトナム宇宙軍が向きを変えるより早く回頭して逃げ出した。手始めは航宙母艦がスターク艦隊の背後に落とした宙雷が炸裂する。
宙雷というのは足が遅い航宙母艦などが抱えている武器で、宇宙空間に浮遊させるか、搭載された異次元碇で固定し、敵の艦船が当たると爆発する武器である。
小さなエンジンが内蔵されているので、任意の場所に配置できる。これの欠点は味方が当たっても民間の宇宙船が当たっても爆発するところだろう。
今回はその心配は何一つ無い。正面から宙雷区域に突っ込み、カウントした全ての宙雷が触雷したのが分かっているからだ。それでもスタークは逃げる。後列の航宙母艦を追い抜きながら。その航宙母艦は航宙機を次々離艦させて抵抗を試みながら。
生憎笹本には敵の航宙機がパイロット入りなのか全てがリモートなのかは分からないが、要は撃ち落とせば良いだけの話だ。
「各艦対航宙機武装用意。うるさいハエを撃ち落とせ」
笹本からの指令に先頭を走る艦船から答える。機銃や小さめなレーザーガンも咆哮を始める。
「ケンジ、航宙機がハエなら艦船はさしずめハエが集る犬の糞ってとこだな。ご機嫌じゃないか」
アリーナが笑いながら無線を飛ばす。
「そりゃ良いや。糞コロもハエも撃ち落とせ!」
小鳥遊君もノリノリだ。多数の航宙機隊は対艦武装の他に25ミリ機銃を積んで出撃している。艦船を苛めた後は帰りに航宙機とドッグファイトを展開している。第6艦隊の航宙機隊は異様にそのドッグファイトが上手い。どうやらお互いを相手に模擬戦をしているようだ。
「笹本君、各航宙母艦に航宙シミュレータを搭載してるのは国家連邦政府の艦隊ではうちだけなんだよ」
ウルシュラが航宙機隊の活躍について種明かしをしてくれた。
逃げるスターク艦隊は間もなく第一奇襲ポイントに差し掛かる。一番目の奇襲は大場家の父サムライダディこと忠道さんだ。
成否よりも各エンブレムホルダー達にある程度の指揮をして貰うのを目的としている。笹本から見たら味方の方が多数だし、色々試してみる好機なのだが、相手からしたら失礼極まり無い話だろう。
戦場のど真ん中で下手したら命のやり取りしてるさなかにOJTなんかしてしまうのだから。
忠道さんの分隊は笹本の期待を裏切らず側面攻撃をしてくれた。ただその側面攻撃は恐ろしい程広域に広がり、そして超至近距離からだった。斉射が始まってみるみるスタークの艦船が崩壊していく様は壮観ではあるが奈何せん忠道さんは接近しすぎだ。誘爆したらどうする気でいるのだろう。
その心配を払拭したのはウルシュラだ。
「オオバパパはかなり研究してるね。あと50メートル近かったら誘爆してるよ。しかしありゃ誰も真似なんか出来ないよ」
現に斉射後、すぐに電磁レーザーによる掃討戦まで始まっている。
「忠道さんはその辺で後退して合流してください。今度はユボーさん、頼みましたよ。スタークを仕留めなくても良いです。艦船に最大限のダメージをお願いします」
「分かってるわよ。私を出汁に何回騙し討ちしたら気が済むのよ」
笹本は簡単に答えた。
「奴らの心がへし折れるまで」
「ササモト。あなたいつか敵に呪い殺されるわよ。ルーイ」
忠道が開けた大きな穴を避けてエチエンヌ・ユボーの分隊がスタークに側面攻撃をかける。
本来頭でっかちの激情家であるエチエンヌではあるが、今回の狙いは余りにも明白な上に分かりやすい。しかも自分が勝たなければならないという気負いも少ない。エチエンヌは皮肉たっぷりではあるが穏やかだった。
「ブーリ!」
こちらは無理のない位置から順調に斉射を開始した。派手さは無いが安心して見ていられると笹本は安堵した。
「華が無い攻撃ですね」
思わず各務原が呟いたのを、笹本は聞き逃してはいない。
「華は無いけどユボーさんは無理を通して道理が引っ込むって諺を地で行く人だから。あれで良いんだよ」
スタークが案の定エチエンヌの攻撃を嫌がり向きを変えた。
「予定通りだ。サントス、次は君の番だよ。ユボーさんは本隊に合流してください」
二人から気分が上がる了解を貰い、笹本も調子が良い。
サントスもこれまた側面攻撃だ。エチエンヌとは反対側から仕掛ける形になるが、これも笹本の狙いどおりだ。軽巡洋艦は小粒な印象だが、サントスなら万一反撃されても粘り強く防御出来るから割り振る事が出来る。
その斉射は防御が得意なサントス自身が、こうされたら困るなといった感じの斉射だった。艦隊を球の一部になるように配置し、回避しようとどこに移動しても斉射の餌食にされそうな感じに斉射した。
スターク艦隊に放った奇襲部隊はまだ多数ある。
叢雲は高速戦艦による突き抜け攻撃。
大場雄哉の駆逐艦200隻によるナハトドンナー。
大場霰の重巡洋艦200隻による斉射。
大場霙の駆逐艦100隻によるナハトドンナーからの肉薄電磁レーザー掃射。
スタークの艦隊は逃げている内にみるみるその数を減らし、見る影も無い有り様だ。
「ふ。見たか知ったか分かったか。これこそが騙し討チスト永遠の夢『十面埋伏の計』ですな」
笹本が誰に言うでもなく解説した。
「『騙し討チスト』って何よ?開き直るにしても乱雑だわ」
エチエンヌは呆れている。
「宙雷から数えてまだ9回しか騙し討ちしてませんが」
各務原が奇襲の回数をカウントして十面ではないと言い出した。
「安心してください。十面目は今から始まります」
確かに十面目のエンブレムホルダーは存在した。見慣れた赤地に黄色のS。グェン提督その人だ。
指揮官としての力量は大したこと無いが、もはや散々奇襲を浴びた艦隊の数は80隻程度。パトロール艦隊でも餌食に出来る数だ。笹本はグェン提督にだけは旗艦への攻撃をお願いしていた。スタークはもはやそれに抵抗すら出来なくなってしまっている。逃走中に9回もの奇襲側面攻撃に心の方が萎えたのだ。
「糖尿病患者は疲労しやすいからね。逃げるのにまで疲れたんだろ」
笹本がポツリと呟く頃、それに答えたかのようにパトロール艦隊が放った連装ロケットミサイルが旗艦に3発命中し、それを合図にスターク艦隊の残党が全て機関停止し、降伏を打診してきた。
「あれ?生かしてボロボロになるまで逃げ続けて貰う気でいたのに」
「いや!なにその幽霊船プロジェクト」
思わずエチエンヌ・ユボーが計画に驚愕する。
「まあ良いさ。使い道は有りそうだ。身柄の確保急いでください」
羅針盤座α陳興道の戦いは、ベトナム、国家連邦政府宇宙軍連合艦隊が大勝し、降伏3512名、敵の重軽症者322名を叩き出す結果になった。時は宇宙開発歴286年12月22日。都合の良いタイミングの勝利だった。多くの兵員が24日から7日にかけて有給を申請していた為笹本もグェン提督も頭を悩ませていたのだ。
大勝は出来たが公国の背景も工業力もまだ掴めていない。人種差別と言う前時代的な敵との戦いはまだ続くのである。
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