33. 遅れてきた救世主
「どこの調達部隊だ?」
「B部隊です」
「B部隊か、分かった。すぐ救出に向かう。救出部隊の奴らを集めてくれ」
「はい!」
優希はそのままドアを向かうが、勇巳に止められる。
「待て、優希」
「なんだい? 兄さん。時間がないんだ」
勇巳は優希ではなく、大悟の方を向く。
「大悟さん、手を貸しては貰えないだろうか? あの異質な感染者が、何なのか分かっていないこの状況で救出部隊を向かわせるのは不安が残る。しかし、B部隊を放って置く訳にはいかない。今回だけでも構わない、お願いだ」
勇巳は腰を90度に曲げ、頭を下げた。
「……分かっ」
「俺達だけで大丈夫です」
大悟が返事をしようとした瞬間、それを遮るかの様に優希が喋り出した。
「優希!」
勇巳が声を荒げる。
「問題ないよ兄さん、僕達救出部隊は今まで沢山の修羅場をクグってきたんだ。今回だってきっとやれる、その為に毎日訓練してるんだ」
そう言って優希は部屋から出て行ってしまった。
「あのバカ」
勇巳は苦虫を噛みつぶした様な顔で呟いた。
「自信家なんだな」
「自信家……と言うよりは責任感が強過ぎるんだと思う。救出部隊は沢山の人を救ってきたと同時に、救えなかった人も同じぐらいいるんだ。自分がしっかりしていれば、そんな思いが強く残っているんだと思う。もう少し他の人を頼ってくれれば」
なるほどな、でも
「そんなんじゃ、いつか潰れるんじゃないか?」
「分かってる、でも救出部隊に優希は外せないんだ。今までは僕がなんとか優希を支えてきたが、それも限界に近い。僕は父の様にはなれない」
心の支えってやつね
「でも、今はそんな事よりB部隊が心配だ。大悟さん」
「分かってるよ。仲間の為に命張れるバカは嫌いじゃないんだ、俺に任せとけ」
「ありがとう大悟さん。それじゃあ地上まで案内するから急ごう」
「大丈夫、道は覚えてるよ。急いで行けば彼等が地上に出るまでには追いつけるはず」
「あ、いや、優希達は僕等が通って来た道を使ってはいないんだ」
「え?」
「ここには色んな道と出入口があってね、優希達はB部隊がいるビルに近い出入口に向かったと思う」
「じゃあ、その場所に」
「いや、僕等が通ってきた道以外は、出入口をシャッターで閉じてるんだ。そして、そのシャッターを開ける鍵は優希だけが持ってる」
大悟は暫し考える。
「……そのシャッターは壊しても構わないか? ちゃんと蓋はするから」
「構わないけど、かなり頑丈だよ。壊すのに時間が掛かる」
「それは問題ない。それで誰かに道案内を」
「それは勿論僕がやるよ。と言うか救出部隊と僕しか知らない道だから」
「分かった。それじゃあ宜しく頼む。エリ、ユリついて来い」
「はい」×2
大悟達は勇巳の案内の元、足早に出入口へ向かった。
10分程でシャッターの前に着くと、大悟は魔剣エスパースを取り出しシャッターを斬りつけた。
すると、シャッターに正方形の穴が空いた。
「あははっ、驚かされるばかりだよ」
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、任せたよ」
大悟達はシャッターを通り、錬金術で穴を塞いでから優希達の元へ向かった。
〜〜優希〜〜
「集まったな、これからB部隊の救出を行う」
「了解」
そこには、優希を入れて5人の精鋭が集まっていた。
「行くぞ」
優希は4人の精鋭を引き連れて行動を開始する。
シャッターの前に着いた優希達は鍵を開け、地上に上がる。そして、B部隊がいるビルを確認できる場所まで移動した。
「隊長あれを」
隊員Aはビルの出入口を指差す。
「まずいな、扉が破られている。それにビルの周りは感染者でいっぱいだ」
「どうしますか?」
「……隣のビルから侵入しよう」
優希達は感染者に気づかれない様に隣のビルに侵入し、階段で2階に移動した。
「ボーガンを」
優希は隊員からボーガンを渡され、窓から隣のビルの3階にボーガンを撃ち込んだ。
ボーガンの矢にはロープが括り付けられており、矢の先端はフック状になっている。
プシュルルルルー……ガシッ
「よし、引っ掛かったぞ」
飛ばされた矢は3階の窓から中に入り、先端のフックが何かに引っ掛かった。
「それじゃあ、俺の出番ですね」
隊員Bは小柄で素早い。なので彼が素早く隣のビルに渡り、あちらのロープをより強固に括り付け直す。
「任せたぞ」
「はい」
隊員Bはロープにぶら下がり、隣のビルへと渡っていく。
そして、無事あちらに渡り切るとロープを固定し直し、OKサインを出した。
優希達はOKサインを見ると、1人ずつ渡って行き、全員無事にB部隊がいるビルに辿り着いた。
「よし、ここからが本番だ。気を引き締めてけ」
「了解」
優希達は上の階に行く為に階段へと向かった。すると、階段の周りには、巨大な凹みがいくつも付けられていた。
「な、なんだこれは?」
優希は巨大なコンクリートの凹みを見て、未だかつて感じた事の無い不安が頭をよぎっていた。
「た、隊長。どうしますか?」
「……い、行くしか無いだろう。上にはB部隊が救出を待ってるかも知れないんだ」
「了解」
優希達は慎重に階段を登っていき、4階に着いたところでオーガ擬が目に入った。
そして、そのオーガ擬の周りには調達部隊専用の服を着た人達が倒れていた。
「あ、あれが兄さんの言っていた変異した感染者なのか? B部隊の連中はもうダメだな、感染者が反応していない」
感染者は生物が死ぬと途端に興味を無くし、食べるのをやめてしまう。そして死んだ者は、新たな感染者として動き出す。
「た、隊長」
「しっ。いいか、ゆっくりと後ろに下がるんだ。絶対に音を立てるなよ」
「は、はい」
救出部隊は一歩、二歩、三歩とゆっくりと音を立てない様に下がっていく。が、しかし隊長の1人がコンクリートの破片を蹴ってしまう。
その音に気付き、オーガ擬がこちらを向いた。
まずい!
「全員散らばれ」
優希は瞬時に指示を出し、全員が散らばる。
だが、一瞬動くのが遅れた隊員が捕まり、腕を食い千切られた。
「ぐあぁ」
「や、安田」
「諦めろ、安田はもうダメだ。奴の気が逸れてる内に隠れるんだ」
「は、はい」
救出部隊4人は物陰に隠れた。
安田が死に、安田への興味が失せたオーガ擬は適当に徘徊し始めた。
優希はオーガ擬の動きに注意しながら指で他の3人に指示を出し、その3人は指でOKサインを出した。
暫くオーガ擬が歩く音だけが響いたが、隊員の1人が行動を開始する。
その隊員は、オーガ擬が通り過ぎた瞬間にボーガンを発射し、オーガ擬の頭に命中させた。
「やった!」
だが、オーガ擬は頭に刺さった矢を無視し、その隊員に向かって走り出した。
クソッ、頭に刺さったのに
「全員でかかれ」
優希は指示を出す。
3人は一斉にオーガ擬に飛び掛かった。が、オーガ擬はそれを無視してボーガンを撃った隊員に噛み付いた。
「ギャー」
そして、オーガ擬は噛み付いた隊員を優希目掛けてぶん投げた。
優希はその隊員諸共、吹っ飛ぶ。
数m飛ばされた優希は立ち上がろうと動き出すが、体に激痛が走り立つ事ができない。
そして、他の隊員の処理が終わったオーガ擬が優希に向かって走り出した。
クソッ、俺はこんな所で死ぬのか。ごめん、兄さん。みんなを守れなかった……
死を覚悟した優希には今、全ての動きがスローに見え、オーガ擬が自分に向かって来てるのをゆっくりと感じていた。
徐々に大きくなるオーガ擬の足音。
しかし優希はそんな状況にも関わらず、オーガ擬では無く、オーガ擬の右後ろにある窓をずっと見つめていた。
あれは?
その窓には何か小さい点の様な物が見えていた。そして、その小さい点は徐々に大きくなり、優希がそれを人だと認識した瞬間、窓を突き破りその勢いのままオーガ擬の頭を蹴り飛ばした。
オーガ擬はそのまま吹っ飛び、壁にめり込んだ。
オーガ擬を蹴り飛ばした人間、それは正しく大悟であった。
優希の涙が頬を伝う。
優希はこの瞬間を生涯忘れる事はないだろう。




