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龍人火神崎朱音

「そうだね。アイリも呼ぼうと思っていたとこ」



アイリは携帯端末を遠隔操作して、どんどん連絡を取り始める。

そこで俺はふと疑問に思ったことがある。



「なんで佐鳥先生を呼ぶんだ?」


「もしものためです。恐らく僕が思い描いている薬が試作段階で投与することになれば、朱音さんは暴れるでしょう。そのときのためです」


「俺の娘に痛い事はするなよ。あれでもまだ5歳なんだ」


「痛い目に合うのは僕らかもしれませんね…」



しばらくすると、アイリの部屋に連絡が行ったメンバーが集まった。



「おい、紅哉。なんであたしまで呼ばれてんだ?」


「俺に聞かないでくださいよ……龍一さんが言ったので…」


「セレナ、お前の夫があたしを呼んだのかよ」


「わたしも呼ばれた理由が分からないのです。龍一、説明していただけますか?」


「これから説明をしようと思っていたところです」



6年前、セレナと龍一さんは結婚した。

実は俺と舞香が学生の頃からお互いに意識していたということだったのだが、全然そんな風には見えなかったので、結婚すると聞いた時は目が飛び出すかと思った。


セレナの子供である、浅野 カケルは絶賛修行中だ。

セレナの父のクロフィードの元で毎日厳しい修行を受けているそうで、セレナと龍一の才能を見事に継いだカケルは、将来は大いに期待が出来るとクロフィードは言っていた。



「それでは、まず説明をするのでモニターへ注目してください」



龍一さんの説明はこうだ。

白が増えたのなら、バランスを取ればいい。朱音の遺伝子とニルの遺伝子を濃くすることで均衡を保たせるということ。


簡単に言ったが、これはとても難しいことらしい。

これから薬を作るのだが、まずはニルの細胞分析から入らなくてはならない。久しぶりに研究者の血が騒ぐ両親に呆れつつ、薬を作るチームのアイリ、龍一、舞香、雅文、直海、麗華。朱音の面倒を見るチームの俺、セレナ、佐鳥、クロフィードとなった。



「クロフィード、理沙はどうした?」


「理沙なら三原家に預けてきたぜ。あいつも喜んでいたな」


「お義父さんが喜んでいた?あぁ……あの人ホント表情分かりずらいからな…」


「こう見ると、普通のガキだな。どこが異常なんだよ」



クロフィードと話していると、つまらそうにしている佐鳥がニルとヴリトラと一緒に遊んでいる朱音を見ながらつぶやく。



「力が異常だそうです。これも龍の遺伝子のせいだとアイリは言っていましたね」


「佐鳥……あなたは龍一の話を聞いていなかったのですか?」


「んな、面倒なことは忘れたわ。というか、お前が聞いていればあたしはお前に聞けるからいいんだよ」


「佐鳥、お前は昔から変わっていないな。もう一度その根性叩き直してやろうか」


「あ~アンタの修行は遠慮するわ……」



佐鳥はバツが悪そうにクロフィードから顔を逸らす。

忘れていたが、この人もクロフィードと麗華の弟子だったのだ。



「んで、あたしたちは保険って言ってたのは覚えているが、何の保険だ?」


「朱音が暴れるとか…そんなこと言っていましたが…」


「子供だろ?そこまで用心することなのかよ」



佐鳥が鼻で笑う。

それを見たセレナはため息をついて、佐鳥の分まで朱音を見ることにする。



「異常はありませんけどね……」



数十分後、セレナは朱音を眺めながらつぶやいた。



「ふむ………なァアイリ。どうなっているんだ?」


「あ~出来た出来た。これ朱音ちゃんに飲ませてみて」



アイリは何やら透明な液体が入ったコップを持ってきた。



「これを飲ませるのか?」


「味はないね。ただの水クラスまでにしたから、ごくっと飲めるはず」


「俺が聞きたいのはそういう事じゃないんだが……」



俺はニルとヴリトラと遊んでいる朱音の元まで行くと、朱音は遊びを中断して俺の所まで走って来た。



「ニルとヴリトラと遊ぶのは楽しいか?」


「うん!ニル達と遊ぶの久しぶりだから楽しい!」


「良かったな。朱音、喉渇かないか?」


「あ、うん。お水が欲しい!」


「なら、これを飲むんだ」


「うん!」



娘を騙している自分に嫌になるが、本当に仕方がないことなのだ。後で何か好きなものを買ってあげよう。



「ぷはー!お水おいしい!」



朱音がコップを飲み干したその時だった。

彼女の身体に異変が起きる。



「朱音!?どうしたんだ!朱音!」


「マスター!離れろ!」


「紅哉!来るわよ!」


「何が!?」


「うぅぅぅううう!!アアアアアアアア!!」



研究所が揺れる。

そして朱音の髪色が群青に、目は碧く。

更に変化は起こる。朱音の頭には白い龍の頭部、背中には大きな翼、ぞろりと伸びるのは東洋の龍のような長い龍の尾が。

そして龍のたてがみを思わせる毛がファーコートへ変わる。

腕には鋼鉄すらも引き裂く長い爪が生え揃う。



「グルルルル………オオオオオオオオオ!!!」


「くッ!?アイリ!これはどういうことだ!」


「ダメ!薬が全然効いていない!神龍の遺伝子が暴走して朱音ちゃんの意識を奪っているの!」


「どうすればいい!」


「とにかく動きを封じて!鎮静剤打つから!」


「くそ!自分の娘に手を上げることになるとは!」


「紅哉、辛いのでしたらわたしたちに任せてもいいんですよ」


「そうだぜ、坊ちゃん。朱音ちゃんなら四条家に任せろって」


「あたしも手伝ってやる。セレナが動いてあたしが動かないわけにはいかねぇ」


「朱音ちゃん………いまこの麗華が止めてあげるわ…」



俺の前に四条家と佐鳥先生が立った。



「でも……」


「いいから、お前は下がってろ。ほら、邪魔だ」


「いてッ!」


「佐鳥!紅哉に乱暴しないでください!」


「うるせえなぁ…」



俺は佐鳥先生に突きとばされて部屋から出された。



「グルルルル…!」



朱音の頭上に色様々なオーブが浮かび始めた。

黒、黒紫、白、青、緑、灰、水、金。

朱音は口を大きく開けると、黒のオーブを呑み込んだ。


次の瞬間、朱音の身体から黒い炎が噴き出す。


ボオオオオオオオ―――――!!!!!



「む!?あれは!」


「来るぞ!」


「俺に任せろ!」



ニルが声を上げたと同時に朱音が口を開く。

クロフィードがギガンテスの能力で自身を強化して皆の前に立ち塞がる。



「ゴオオオオオオオアアアア!!!!」



視界を真っ黒に染める。

それほどまでに強力なブレスだった。



「クロフィード!無理をしないでください!」



麗華はユニゾンをすると、前でブレスを受け止めているクロフィードへ呼びかけた。



「むううう!!あともうちょいだ!そん時に佐鳥!お前がセレナと麗華を援護して突っ込ませろ!」


「あいよ!」



そしてブレスを受け止めきると、佐鳥がガトリングをぶら下げる。


ガガガガガガガガガガガガガガガガ――――――!!!!!!


乱射を始めた。

朱音は微動だにせず、目だけ佐鳥に向けて尻尾を数回床に叩きつける。

そして朱音の姿が消える。



「なに!?」


「ガァ!!!」



佐鳥は直感のみで背後に現れた朱音に向けて、回し蹴りを放つ。

前へ突っ込んだセレナと麗華は呆気にとられ、佐鳥の蹴りは空間に現れたドラグシールドによって防がれる。



「グルアァ!!」



龍の牙が佐鳥の肩に食らいついた。



「いってぇえええええ!!」


「すまん!朱音ちゃん!」



そこへクロフィードが強烈なタックルを決めて朱音を吹き飛ばす。



「大丈夫!?佐鳥!」


「いってぇ…あいつ噛みやがった……」



佐鳥は自分で包帯を用意して肩に巻きつけて行く。

その上から麗華が回復の魔術で治療をする。



「あのブレス……ニルのか?」


「あぁ、あれはオレが龍の里にいた頃に放てた本物のカオスブレスだ」


「あの子もう…龍そのものじゃない…」



瓦礫からノロノロと現れた朱音は、口から黒いオーブを吐きだすと、次は青いオーブを呑み込む。

次は朱音周辺の空中に水の塊が浮かび始めた。



「あれはリアか!?」


「そうだと思うわ……まずいわね…」



朱音の目が青く光る。

すると、空中に浮かぶ水が一瞬で氷になり、それは槍となってセレナたちに襲い掛かる。



「父上!わたしが行きます!」


「おう!佐鳥の治療が終わるまで頼むぞ!」



セレナは駆けだした。

正面から飛来する氷の槍を接触スレスレで躱し、朱音との距離を詰める。

すると、朱音に変化が起きた。今まで氷の槍を放っていたのが急に止んだのだ。


セレナは何故攻撃が止んだのか分からなかったが、これはチャンスだと思い朱音へ肉薄する。

そして彼女はそこで気付いた。朱音が緑のオーブを呑み込んでいることに。



「緑……グリンデルですか。いいでしょう、その勝負受けるとしましょう」


「オオオオオオ!!!」



朱音の雰囲気が変わる。先ほどまで水のように流れるエーテルの波動が、今は荒々しく乱れているのだ。

緑のオーラを纏った拳がセレナに迫る。

セレナはそれをぎりぎりで躱し、カウンターで朱音の頬へ拳を入れる。



「ッ!?」



手応えがおかしい。確かにカウンターが入ったのだが、朱音はビクともしない。

朱音はセレナの腕を掴むと、力任せに投げようとしたが、急に足がカクンと折れたのである。


それは佐鳥だった。

ライフルを構えた佐鳥は朱音の足の関節を狙い、態勢を崩したのである。



「クロフィード!セレナ!麗華さん!あたしが作った隙を無駄にするな!」



3人は一瞬で理解すると、まずセレナは腕を振り払ってお返しとばかりに鳩尾へ拳を叩き込む。



「ガッ!はッ!」


「どおおおっせい!」



前のめりに倒れそうになった朱音へ、追撃としてクロフィードが後ろから抑えにかかる。

そこへ鎮静剤を持った麗華が朱音の首筋へ注射を入れた。



「あ……あぁ…」



朱音は焦点の定まらない目をしながら顔だけ俺に向けると、そのまま意識を失った。



「ふぅ……やれやれだ…」


「とんでもない子でしたね。危なくわたしの腕が折られるところでした」


「余り気分がいいものじゃないわね……朱音ちゃん、ごめんね…」


「くっそ…肩が外れてやがる…」



佐鳥はライフルを投げ捨てると、左手で無理やり右肩の脱臼を治す。

俺は意識を失っている朱音に駆け寄ると、娘は規則正しい寝息を立てていた。


子龍となった5歳の女の子朱音ちゃんです。5歳ですか、そうですか。ふむ、特に深い意味はありませんわよ?

ただ可愛いなぁと。

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