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朱音の遺伝子

「ニルー!」


「うごォ!?」



車から降りてヴリトラと話していたニルの元へ、朱音はニルの背中へ抱きついた。

小学生並みの身長しかないニルにとって5歳の朱音とは言え、押し倒されるのには十分な身長だった。



「りゅ、龍族のオレが倒されるだと…?」


「ヴリトラもこんにちは!」


「はい、こんにちは。今日も可愛いわね、朱音」


「待たせたな」



ニルの背中へ顔を押し当てている朱音を俺は引き剥がして、チャイルドシートを取り付けた後部座席に乗せる。

ニルも後ろへ乗り、4人乗りのこの車ではヴリトラが前に来るようになる。



「紅哉、アイリはどこにいるのかしら?」


「多分開発部にいると思うんだが…」



後ろでニルと遊んでいる朱音に目をやりながらヴリトラと会話をする。

異常など見られないのだが。



「おとーさん、どこに行くの?」


「お父さんの会社だ」


「おとーさんの会社!?久しぶり!」



車に揺られること数十分で、本部に帰って来た俺は受付で舞香の居場所を聞くと、既に開発部に向かっていると言う。



「アイリー!アイリはいるか!」


「アイリさんなら、地下の自室にいますが」


「ありがとう」



ヴリトラに抱えられた朱音は、興味津々と言った所で周りをキョロキョロと見渡している。

この歳では、初めて見るものが多く、全てが新しい発見に満ち溢れているのだろう。


地下に来ると、ここからは研究員も開発員もいなくなる。実質地下の人員はアイリ一人で間に合っているというのが現状だ。

そもそもアイリ並みの天才を完全に理解することが出来る人員など舞香くらいしかいないし、上の研究員もアイリが分かりやすいように噛み砕いたものを量産しているに過ぎない。



「アイリ、俺だが」


『舞香ちゃんから聞いているよ~ポチっとな』



扉が開くと、中は機材だらけの部屋だった。

歩けないことはないが、歩きずらいことには変わりはない。



「良いタイミングね、お兄様」


「舞香叔母さん!」


「おば……ええ、そうよ、舞香叔母さんよ」


「いい加減慣れたらどうだ。立場的にもお前は叔母なのだしな」


「慣れようと努力はしているわ。でも、ほら、私ってまだまだ若いじゃない。叔母さんというのはもっと皺が寄って来た人を言うのであって…」


「分かったから、この話は何度目だ。それでアイリに何をさせる気なんだ」



カタカタとパソコンを弄るアイリが顔を上げた。



「んとね~、朱音ちゃんはとりあえず、あっちの部屋で遊んでて貰えるかな」


「ニル」


「あいよ。ほら、朱音。あっちでオレと遊ぶぞ」


「うん!」



実験室のような部屋に連れて行かれた朱音は、その中にあるおもちゃでニルと遊び始めた。

それを少しだけ見届けて俺はアイリと舞香に目を向ける。



「私とアイリで瑠璃の話を聞いたけれど、なんだか朱音の力加減がおかしいそうなのよ」


「力加減?」


「おもちゃを素手で握りつぶしちゃったり、お絵かきをしているとクレヨンを折っちゃったりね」


「そうね、アタシも思う所があったわ。さっき紅哉が朱音を迎えに行ったときのことなんだけど、ニルが朱音に押し倒されたのよ。いくら背後からの不意打ちとは言え、アタシたちはこれでも龍族よ。5歳の女の子に倒されるほどヤワじゃないわ」


「あ~ニルも驚いていたな。俺は笑って済ませたが、お前やニルにとってはおかしなことだったのか」


「それでちょっと朱音ちゃんから血を貰いたいんだけど……紅哉くん…いいかな……?」



注射器を見せるアイリは物凄く遠慮がちに聞いてきた。

仕方ないことなのだろう。これで朱音の身体の異常が分かるというのならば。



「あぁ、分かった」


「んじゃ、朱音ちゃんを呼んでくるね」



おもちゃを携えて不思議な表情をする朱音にアイリは注射器を見せた。

すると――――



「やァー!注射やだー!アイリの馬鹿―!!大っ嫌い!」


「うっ……朱音ちゃんに大っ嫌いって言われた………アイリもう立ち直れないかも…」


「こら!暴れるな!さっさと注射されろ!」


「ニルも何するのー!注射やーやー!」



ニルに押さえつけられている朱音は涙目だ。やはり子供にとって注射というのはピーマン以上の難敵かもしれない。



「ごめんね……朱音ちゃんの身体の具合を見たいから…出来るだけ痛くしないようにするから!」


「朱音、後で遊んでやるから今は我慢してな?」


「う、ぅう……怖いよォ…」


「お~流石お兄様。あんなに嫌がっていた朱音が暴れなくなったわ」



それから数分後、完全に泣いてしまった朱音を慰めるためにニルとヴリトラがかり出される。

俺と言えば、娘の泣く姿など見たくもなく、アイリの傍で説明を聞いていた。



「次に紅哉くんと舞香ちゃんの血を貰うね」


「あぁ、分かった」


「いいわよ」



そして俺と舞香、その後にニルとヴリトラの血を採り、検査機にかける。



「やっぱり……」


「私も薄々思っていたわ」


「朱音の遺伝子がおかしいな……」


「朱音ちゃんの身体にある龍の遺伝子が人間の方にまで侵食しているみたい。ニルちゃんの遺伝子は抑え目だけど、神龍の遺伝子が強すぎるみたいだね……」



螺旋状に連なるはずの二つの遺伝子の中に白色の遺伝子がどんどん赤色の遺伝子を染めて行っているのが分かる。

俺は赤と黒。舞香は赤と青。ニルは黒。ヴリトラは黒紫。そして朱音は、赤と白と黒である。

これは瑠璃のパートナーである神龍の遺伝子の白だ。

龍二つ分の遺伝子はあまりにも強すぎて人間の遺伝子を侵食しているらしい。



「これが続くとどうなるんだ…?」


「極端な話になるけど……角が生えるかも…」


「は?角…?」


「龍化しちゃうってことね。このまま神龍の遺伝子が侵食を続けたら、朱音は小さな龍になるってこと」


「おいおい冗談だろ……どうすればいいんだ?」


「ん~………遺伝子の上書きなんか聞いたこともないけど……それにアイリはこっちの分野は余り詳しくないの……龍一さんなら何か分かるかも…」


「龍一さんか……確かまだ家にいたよな」


「お兄様、私が行ってくる。テレポート、許可してくれるわよね?」


「もう学生じゃないんだから、自分で判断しろ」


「はいはい」



俺をからかってから舞香はアイリの部屋から消えていく。

高校生のころ、過去に舞香は一度だけ魔術を失敗している。それはこの空間転移であり、失敗と言っても座標を間違えただけであって、ただクラスメイトにパンツ見せただけだ。

本当は椅子に座る形で転移するはずだったのだが、座標を間違えて天上付近に転移してしまったということだ。

しかし、教師にとってはそれは大変よろしくないことらしく、事情も知らない俺が兄という理由だけで厳重注意をされた。

学生の頃は俺の許可なく転移術式を使う事を禁止したためか、今でもこうやって舞香はからかってくる。


可愛いものだと思うが、いつまでも兄にべったりというのもいただけない。

そろそろいい歳なのだから婿の一人くらい貰ってこいと言いたい。

が、しかし、これを言うと舞香はかなり不機嫌になる。



「お兄様、今の時代でそんなことをしている場合があるかしら。ないわよね、別に私は一人でもいいですし、子供なんて面倒なだけじゃない。お兄様は瑠璃と豊姫とさっさと子作りしてもっと増やせばいいのよ。そうすれば炎道家も火神崎家も四条家もひゃっはー子孫がたくさんできたぜ~ってなるから、それでいいの。私が急いで子供を作ったところで朱音と理沙との年齢が離れるじゃない?それも可哀想よ。だからつまり、私は一人でいいって言っているの。アイリをご覧になりなさい。私たちより年上にも関わらず研究一筋よ。これぞ研究者の鑑よね―――――」


「分かったから!!!」



と、マシンガンの如く打ち出される言葉に俺はいつもため息が出る。

出来過ぎた妹も大変なのだ。


それから数分後に舞香は戻ってきた。

その隣には龍一さんがキョロキョロと周りを見渡しており、自分の身に何が起きたのか分からないそうだ。



「龍一さん、早速で悪いが、これを見てくれないか?」


「え?ええっと……これはDNAですか?」


「うん。これ見てほしいの」


「なんですかこれは……ここまで複雑なDNAは初めて見ましたよ。3色ですか……全く違う遺伝子でありながら、複雑に絡まり合っているこれは…」


「赤が朱音ちゃん自身の遺伝子。黒がニルちゃんの遺伝子。白が神龍の遺伝子。これぱっと見てどう思う?」


「神龍の遺伝子が朱音さんの遺伝子を侵食していますね。このままでは神龍の遺伝子に呑まれて、朱音さんが龍になってしまいます」



龍一さんは険しい表情を浮かべて画面を見ていた。



「龍一、あなた何か策はないのかしら」


「少しお時間をください。これを解析して対抗手段を練ります。アイリさん、雅文さん、直海さん、四条家全員と佐鳥さんを呼んでください。僕とアイリさんだけでは、難しい問題です」


だいぶ更新が遅れましたね。

まぁ本編の方はそれなりに更新をしているのですが、こちらはなんというか、余り書きすぎると本編のネタバレが凄いゾ~ってなるのであまりかけないのですよね……いえ、言い訳ですスミマセン。

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