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闇の中に輝きだした一つの光

「あ……あれここは…?」



時計の音だけが響く部屋のベットで私は寝ていた。

テーブルにあるお母さんから貰った携帯端末を取って時間を確認する。別に私の頭上にある大きな時計で確認してもよかったのだが、なんとなく携帯で確認したかった。


現在の時刻は深夜の午前1時。

誰かいるのかな?と思い、携帯の明かりを懐中電灯代わりにして周りにかざしてみるが、どうやらここは個室らしい。

そしてそれと同時にテーブルに置かれた手紙を取る。大分頭が覚醒してきて分かったが、ここは本部の病室だと思う。あのあと私は倒れたそうで、栞奈さんが私を抱きかかえてここに運んできてくれたそうだ。



「起きたか、朱音」


「あ、ゲオルギウス」



うむ、と頷いて騎士は背を預けていた壁から離れて私のそばに立つ。



「朱音がニルを吸収してからというもの、私の剣に龍の波動を纏うことが可能になった」


「龍の波動…?」


「まだ試していないのだから分からないが、恐らくニルの能力が使えるようになっているだろう」


「あ、やっぱりニルは私の中に……」



私はニルのことを想ってそっと胸に手を置いた。すると、黒い炎が手の平に生まれた。その炎はどこか優しさを感じ、穏やかに揺らめいていた。



「いつも私の大剣を重そうに持っていたが、ニルの馬鹿力を借りることが出来れば片手で振る事も可能になるだろう」


「女の子にあれを持てと言うのがおかしいんだよ」


「私の剣の継承で持てるはずだが、何故かお前は踏ん張って持っていたからな、これでやっと半人前というわけだ」


「もう、口を開けば私の悪口を言ってェ…」


「事実を言っているまでだ。さて、無駄話しもこれくらいにして手紙を読んだらどうだ?」


「あぁ、そうだった」



私は豊姫お母さんが書いた手紙を読み始めた。



これを読んでいるという事は、起きたということかな?

朱音ちゃんはただの疲労で倒れたそうだから、特に身体に異常はないと思う。でも、もし頭が痛かったり、身体に症状をきたすようだったらすぐにナースコールでお医者さんを呼んでね。

本当は朱音ちゃんが起きるまで傍にいたかったんだけど、地下街で起きたことは上層部に報告しないといけない事になっちゃって、ごめんね。癒理さんも面会時間ぎりぎりまでいたけれど、やっぱり隊長さんだから癒理さんも呼び出しがかかったみたい。


さて、ここからが本題。

朱音ちゃんは黒い龍を見たよね?というか当事者だから覚えていないはずがないけど、あれは紅哉くんのパートナーだった邪龍ファーヴニル。

どうして生きていたのか、どうして暴れていたのか分からないけど、明日の早朝朱音ちゃんに事情を聴くことになるから準備をしておいてね。

ゲオルギウスから少し話は聞いたけれど、やっぱり朱音ちゃんの口からきかないといけないことになっちゃったの。

この国に3体の龍がいたことは知っているよね。日本の龍が生きていたという事は国民の希望にもなることなの。難しい話は分からないと思うから、ざっくりと説明するよ。


私達ドラゴンブラッドの組織は国の国防装置として生きているから、もし魔物に襲われたりして、街に被害が及んだ場合は国に被害状況をまとめた書類を送らないといけないの。普段はそれで終わりなんだけど、龍に襲われたって書いたら、朱音ちゃんの口から是非話してくれって国のお偉いさん方が言って来たの。

もちろん朱音ちゃんはまだ子供だし、そんな大人の前で話す事なんて出来ないと思うから、私たちが事情を聞いて、それを話すと提案したけれど、ダメだって言われた。

だから、急な話だけど、明日朱音ちゃんには国会に出てもらうことになったの。大丈夫、ドラゴンブラッド幹部全員で行くから、朱音ちゃんに危害を加えようとした人は私たちが許さない。だから、安心して臨んでね。 豊姫より



「明日国会行くの!?」


「そのようだな」


「うわァ……緊張してきたなァ…」


「今は寝ておけ。目の下にクマを作って国会に出席したくはないだろう」


「う、うん……そうだね…」



再びベットに潜ったものの、緊張して寝れなくなった。

そんな様子を見たゲオルギウスは、テーブルに置いてあった箱と水を持ってきた。



「え?なにそれ?」


「睡眠剤だ。これはお前の妹が置いていったものでな、どうせこの手紙を読んだら寝れなくなるだろうから、これを飲ませろと私に言って行った。出来た妹だな」


「あ・り・が・た・く・頂戴する!」



私は眉間にしわを寄せながら睡眠剤を飲む。

すると、視界がぼやけてきて急に睡魔が襲い掛かって来た。

即効性が高いものなのだろう。



「効果てきめんだな」



ゲオルギウスが笑う声と共に私は夢の世界に落ちて行った。




「ふわァ……眠い…」


「顔を洗ってこい。お前は病人ではないのだから、豊姫たちが来る前に支度をしませておけ」


「はいはい……」



もはやここで生活が出来そうなくらい設備が整っている。

ベットにテレビにトイレもシャワー室もついている。洗面台はないので、シャワーを浴びることになるのが、少々面倒だが、仕方がない。



『朱音ちゃ~ん!入るよ~?』


「あ、うん!いまシャワー浴びているから待って!」



どうやら時間は結構迫っていたみたいだ。

私は軽くシャワーを浴びて、身体を拭き、服を着て病室に戻る。

そこにはスーツを着たドラゴンブラッド幹部が全員そろっていた。いや、二人足りない。

それはお父さんとお母さんの行方を探す旅に出た、お父さんの義理の弟の彰さんと義理の妹の奏さんだ。



「朱音ちゃん、あっちに言って言葉が詰まっても私たちがフォローしてあげるから、先に話を聞かせてくれないかな?」


「俺からいくつか質問をするっす」



私が椅子に座ると、豊姫お母さんも近くに座り、直人さんはメモ帳を取り出しながら近寄って来た。

よく見ると、全員メモ帳を持っており、私の話しを一字一句記憶するつもりなのだろう。

そこから私が見た全てのことを皆に話した。

夢の世界での出来事も、あの怪しい人から言われたことも。



「ニルは今も私の中にいます」



私は昨日やってみたように、ニルの黒い炎を見せた。

それを見た幹部たちは、懐かしい炎を見て絶句していた。



「話す事は出来る……?ニルに色々言いたいことがあるんだけど…」



豊姫お母さんは震える声で私に聞いてきた。でも、それは出来ない。ニルは私に用事がある時にしか姿を見せない。



「そっか……それで、龍を10体集めることだけど、そこはアイリさんに任せていいかな」


「うん、オーケーだよ。過去に出会った龍のデータならアイリの方で控えてあるから、それを元に探索器作ってみるね」



私とそう身長が変わらない四条アイリさん。

ロシア人と日本人のハーフであり、天才発明家。ドラゴンブラッドの開発部を任される研究員だ。

もう、父親も母親も姉もこの世にはいない。



「過去に行く……何年前に戻るのですか?」



一番後ろで話を聞いていた栞奈さんが私に聞いてきた。



「えっと………――――」



どれくらい遡ればいいのだろう。



「21年前くらいですかね~。ちょっと龍一さんと連絡取ります~」


「何故龍一さんに連絡を取るのですか?」


「過去の世界に朱音さんがいたでしょ~?紅哉さんと接触したのはいつごろかな~と」


「え?私と同じ名前?」


「朱音ちゃんに言ってなかったけど、私たちが学生の頃に朱音理沙っていう女の人がいたの。舞香さんが話してくれたんだけど、あれは未来の朱音ちゃんなんだって」


「パートナーもゲオルギウスでしたしね。私達が束で襲い掛かっても勝てないほどの強者でした」


「未来の私……過去に行ったんだ…」



凪咲さんは携帯を使うために一旦病室の外に出て行った。

そして未来の私は過去に行ったことを知る。

あの怪しい人が過去に行けと言ったことは、その未来の私から得た答えなのだろうか。



「あ、でも……こんな未来があるってことは……未来の私は失敗したんだ…」


『………』



病室が沈黙に包まれた。



「この愚か者が」


「あ、いた!」



ゲオルギウスは鉄の拳で私の頭にゲンコツを繰り出した。

たんこぶが出来そうなくらいの痛さに、私は涙目になって抗議の目を向ける。



「出来なかったからなんだ。これしかないのだろう?お前はニルの情景で何を見た?あのベヒーモスと戦って本当に勝機があると思うのか?」


「む、無理だと思う…」


「ならば過去に行くしかないのだ。いま失敗することを考えても仕方のないことだろう?」


「失敗したのなら、私の鍛え方が足りなかったということです。セレナさん、師匠から任されたあなたの師匠として、これからは今まで以上に厳しく行きますよ」



栞奈さんはそう言って病室を出て行った。



「そうだね。これからは朱音ちゃんを皆で鍛えて行くから、覚悟してね」


「アイリのお姉ちゃんたちを救ってね。アイリも全力で探索器を作るから、朱音ちゃんもファイト!」


「世界の未来を朱音ちゃんに任せたっすよ!」


「こんなCランク魔術師だけどよ、皆を救いたいって気持ちは誰にも負けてねぇ。だから、俺の気持ちを朱音ちゃんに預ける!この気持ちを持って過去へ行けば成功間違いなしだ!」


「私はオペレーターですが、こんな私にも出来ることがあれば何でも言ってください。あなたが過去に行った時に役立てることが出来るかもしれません」


「過去の私に会ったら、もっと修行するように言ってください。皆が生きるための未来を創るために」



皆はそう言って病室を出て行く。

私はハンガーにかけられているお父さんの服を羽織り、袖をまくる。

そして左肩にはお母さんの神龍隊長の証とお父さんのファーヴニル隊長の証である腕章を装着し、堂々と病室を出て行った。



「ベストな時間を考えれば25年前に行った方がいいですね~」



車で移動中に凪咲さんは龍一さんと話した結果を報告していた。



「25年前?そうすると、紅哉さんは10歳ですね」


「小学5年生か~」



遊佐さんが計算し、俊介さんがしみじみと考える。



「その頃は丁度師匠が家出をした時期ですね」


「ベストタイミングというわけっすね」


「アイリさん、探索器はいつごろ出来そう?」


「久しぶりに本気出すから、1日あれば出来るよ~。その代わり、研究所には誰も近寄らせないでね。一人で発明することになるから、他の人が邪魔になる」


「うちの開発部が聞いたら泣きそうなコメントっすね……」



時間が動きだしたかのように感じられた。

今まで現状維持でなんとなく生きていた皆が、生き生きとしていた。

やはり、どの時代も世界を動かすのは龍なのだろうか。



『ニル……聞こえてる?あなたの存在が皆を動かしているんだよ』



車の中で忙しそうに連絡を取り合う皆を見てそう思った。


やがて車は国会議事堂に着く。

車を運転する俊介さんは、事前に貰った許可証を警備員に提示すると『いってよし』と言われて車を発進させる。


3度くらい検問をくぐると、やっと来賓用の駐車場へついた。



「堅苦しい場所……」



私は車から降りると、背伸びをした。

他の皆はさっさと行ってしまい、最後に残った栞奈さんが目で『置いて行かれますよ』と語っていた。


警備員に案内されて控室に入ると、豊姫お母さんは私にメモを渡した。


『監視カメラがあるから声に出さないで読んでね』


豊姫お母さんは笑顔で浮かべて、幹部たちと話し合いを始めた。

早速読んでみることにした。


『最初に一つ。全部話さなくていいよ。全部話すと面倒なことになるから、もし答えたくなかったら記憶が混乱していて分かりませんって答えてね。あなたは幼いのだから、まだそれで通るはず。ちなみに過去に行く事は絶対に秘密。何故秘密にするかというと、ここのお偉いさん達は自分の事しか考えないような人達だから、もし過去に行けると言ったら、あなたを拉致したり、利用しようとするはず。だから、絶対に言わないこと』



私は思わず無言で何度も頷いていた。



『私たちも出来る限りフォローすると思うけど、付添人という形だから、余り口出しは出来ないと思う。でも、傍にいるから、朱音ちゃんに危害を加えようとする者はいないはず。癒理さんは銃で撃たれても、それを撃ち落とせるほどの肉眼を持っているから、マシンガンが来ようとも安心してね』


とっても安心できる。

あの人本当に人間なのだろうか。


『変な理屈を付けられて朱音ちゃんを連れて行こうとしたら、私たちは国を相手にしてでも朱音ちゃんを守るよ。まぁ禁忌魔術師が4人もいる私たちが逆に脅しをかけることも可能なんだけどね。とにかく、ほとんど一人で喋る事になるかもしれない事は覚悟しておいてね。読み終わったらポケットに入れてね。自動転送魔術師をかけてあるから、朱音ちゃんのポケットに入れた瞬間に本部の金庫まで送られる仕組みになってるよ』


なんと優秀な魔術師だろうか。

私のお母さんは幻術が得意で、他は余りよくない成績だったそうだが、豊姫お母さんは文句なしの優等生だったそうだ。お父さんも何度豊姫お母さんに助けられたか分からないって言っていた。



「ドラゴンブラッド幹部ご一行様と火神崎朱音様は移動してください」



豊姫お母さんは私の手を握って一緒に部屋を出た。

先頭を直人さんと癒理さんが歩き、最後尾は凪咲さんが歩く。日本なのに何故か敵地に来た気分になった。

まるで皆私のガードマンみたいだ。



「こちらでお待ちください」



漆で塗られた高級そうな木の扉の前で待たされる私たちは、その時をじっと待った。



「議員が出揃いましたので、どうぞお入りください」



直人さんと癒理さんは扉を開けて中へ入って行く。

がやがやと騒いでいた議員が一斉に静まり返った。

私達は議員を一望できる台まで昇ると、声が響く。



『えー、では、昨日さくじつの龍が出現した、という件について話して貰いましょうかね』



全員手持ちの資料で大体の事は分かっているくせに、わざわざ説明させるつもりなのか。

私の口がへの字になったのを見た俊介さんはにやにやしながら、肩の力を抜けと小声で言ってくれる。

いちいち腹を立てていたらきりがないと言っているのだ。



『そこは私が説明いたします』



遊佐さんが議員の嫌な目をものともせず、私から聞いた話を自分なりにまとめて、手持ちの資料よりも分かりやすく議員へ説明していく。



「遊佐さんを連れてきて正解っすね」



説明し終えると、遊佐さんは私を安心させるために少しだけ微笑んだ。



『それで、龍を倒したということですが、本当に倒したんですかね?かくまったりしているんじゃないのですかね?』



下種な笑いをする議員に私は怒りを覚えるが、さっきの俊介さんの言葉を思い出して気持ちを落ち着かせる。



「ここはあなたが喋りなさい」


「は、はい」



癒理さんが腕を組みながら私に言うように促す。

止めを刺したのは自分なのだから、自分で言わないとダメだ。



『えっと、ちゃんと倒しました。私のパートナーの剣はドラゴンスレイヤーと言って、龍殺しの剣です。感触も確実に殺りましたし、消滅も確認しました』



ふぅ、と息を吐くと豊姫お母さんは笑顔で迎えてくれる。



『ふむ、私が気になるのは何故龍が出たということなんですよ。そこは分かりますかね?』



私は再び壇上に立って言葉を口にする。



『それは分かりません。あの時は龍が出たことよりも暴れている龍を止めなくちゃ、止めなくちゃって思っていて、考えている暇なんてありませんでした』



余計なことは言わなくていいって言われた事をしっかり守る私は偉い!



『これから他の龍が出現する可能性はあると思いますか?』


『正直分からないです。本当に出てきたこと自体私たちが驚いているので……』


『本当は分かっているんじゃないかね?龍のことについてはあなた達が一番分かっているでしょう』


『え、えっと、本当に分からないんです』


『そう言われてもねぇ……こちらもそんな抽象的な事を聞きたいんじゃなくて、具体的な事を聞きたのだよ』


『現在調査中であるため、憶測な発言は控えていただきたい。それにこんな中学生になったばかりの女の子を大の大人が寄ってたかって責めるのはどうかと思います』



栞奈さんは私でも寒気がするほどの殺気をたぎらせてマイクで発言する。



『付添人は黙っていなさい!こ、これは当事者と我々の対話なのだぞ!』



栞奈さんの殺気を受けて声が震えながらも議員は反論する。



『付添人であると同時に我々は家族だ。朱音は火神崎紅哉と火神崎瑠璃が我々に託した大事な家族なのだ。貴様らみたいな飲んだくれ公務員とはわけが違う。貴様らはここでただ永遠に終わらない議題について話し合っている最中も、我々は常に命を張って街を守っている。防人を舐めるな。もし、これ以上朱音を責めると言うのならば、俺達が相手になるぞ。もちろん口ではない、拳でだ』



いつも『了解っす!』とか言っている直人さんが凄く男前に見えた。



『君!発言には気を付けたまえ!我々は国の議員だぞ!?』


『議員がどうした。こんな所でふんぞり返っている事しか出来ない議員が禁忌魔術師4人を相手にするだと?愚かな。それに我々にも発言権は認められている。付添人だからどうした。我々は朱音に喋らせるという最大限の譲歩をしたつもりだが、貴様らは子供相手だと舐めて彼女の話しを全く聞かず、自分の考えを押し付けて無理やり認めさせようとしているじゃないか。彼女の発言をこれ以上乱すというのであれば、我々は国に牙をむくことになる。発言に気を付けるべきなのは、貴様らという事を忘れないことだ』



直人さんの言葉に国会は静まり返った。

勢いをそがれた議員たちは何を話したらいいのか分からず、ただ沈黙の時間が過ぎる。



「ちょっと言い過ぎたっすね……でもまぁ、こうしないと朱音ちゃんが可哀想っす」



いつもの直人さんに戻った彼は苦笑いを浮かべながら私を見ていた。

司令官に恥じない見事な弁舌だった。

昔のお父さんを見ている想いだった。お父さんも威厳に満ちた喋り方をしており、仕事が終わると家に帰って私と理沙の枕にされるようなふにゃけたお父さん。



「ううん、私も朱音ちゃんが責められていて、直人くんが言わなかったら私のペガサスが行っていたと思う」



にこにこと笑っているのに、何故か怒りを感じる笑みに私は引きつった笑顔しか浮かべる事が出来ない。



『では、こうしよう。もし、の話しだ。もし他の龍が現れたとしたら、君はどうするのかね?』



落ち着いた声音と共に私は問いただされた。



「あれは金崎元総理……そして私達を積極的に支援してくださる味方の議員さんです。もうご老体なのですが、とても賢明な方でおられます」



私に耳打ちしてくれたのは美波さんだった。私を見つめるおじいさんは、優しい目をしていた。若い者たちに希望を託すような、そんな穏やかな感じがする。

味方と聞いて私は少しだけ気持ちが安らいだ。



『倒さないとダメですね……龍を倒した時に、彼女はもし他の龍に出会ったら、迷わず剣を抜けって言いましたから』


『そうか。皆さん、聞きましたかな?この少女はまだこんなにも若いのに覚悟を決めていらっしゃる。我々が目にもしなかった出来事をその小さな背中に背負っているのだ。そんな少女の信念を曲げようとする行為は人間の価値を下げると思わんかね』


『しかし……この者たちが龍をかくまっているとすれば…』


『その時は私が責任を取ろう。よろしい、ならば今よりドラゴンブラッドは私の管轄下に置くとする。異論があるのならば、私の元へ来るといい』



私が頭にハテナマークを浮かべるなかで、豊姫お母さんたちは目を見張っていた。



「えっと、どういうこと…?」


「金崎さんは元は総理っす。彼の発言には他の議員にはない重みというものがあるっすよ。それに金崎さんが総理大臣を辞任したのも歳からっす。政治に詳しい人なら、こう言うっす。金崎より賢明な日本人はあと50年生まれないだろうってね。そんなお方が俺達を管轄下に置くって事は、もう誰も手出しが出来ないことっすね」


「日本国民にも慕われる金崎さんの発言を覆す事が出来る議員はいまこの世の中にいないと思われます。もう、これは決定事項に近いですね。横暴だと思われますが、彼の発言はそれすらも無視できるほど強い」



直人さんが勝利の笑みを浮かべる。

首相はここにはいない。もはや決定事項だろう。



『異論はないようだな。よし、ドラゴンブラッドの諸君は追って連絡をうするため、ひとまず下がるといい』



私達は議員に礼をするわけではなく、金崎さんに礼をして国会を後にした。


再び警備員に案内されると、そこは先ほどの部屋ではなく、金崎さんの部屋だった。

しばらくソファで座って待っていると、ドアが開いた。



「やぁ、さっきはご苦労さんだったな。大辺おおべよ、お茶を淹れてくれ」


「はい、わかりました」



私達は立ちあがって再び金崎さんに礼をする。

金崎さんはにっこりと笑って自分の椅子に腰を下ろした。

秘書の若い男の人は、私たちにお茶を淹れてくれた。



「良かったのですか?私たちを管轄下に置いて」


「いいのだ。逆にああしないと場は収まらんかっただろう。私の言葉もまだ使えるようだ」



豊姫お母さんが遠慮がちに聴くと、金崎さんは最もなことを言った。



「しかし、朱音さんは本当に愛されているようだな。まさか我々を敵に回してまで発言を取消しにさせるとは」


「い、いえ、俺は金崎さんを敵に回したわけじゃないっす。でも、あれくらい言っておかないと他の議員は調子に乗るっすから」



豊姫お母さんと直人さんが金崎さんと難しい会話を続けて行く。

しかし、こんな他の議員の悪口を言う事を言っていいのだろうか。



「あの、栞奈さん……監視カメラとかないのですか…?」


「ありますが、ここの監視カメラはあなたのお母さんが永久幻術を施したため、瑠璃さんを超える魔術師が現れない限り、監視カメラにはいつも通り書類を片づける金崎さんが映っているはずです」


「え、永久幻術…!?」



永久幻術。固有結界に匹敵する禁忌魔術の一つであり、その名の通り相手に解けることがない幻術を永久に続けさせる魔術だ。

これは術者が死んでも続く。だから永久幻術なのだ。相手が死ぬまで見続けるこの永久幻術は使用することは禁じられているが、まさか自分の母親が魔法使いの領域に足を入れていたことに驚いた。



「あなたの部屋にある写真立てがあるでしょう?あれも永久幻術で作られた動く写真です」



栞奈さんはお茶請けで出された草加せんべいをぼりぼりと食べる。

私も栞奈さんの話を聞きながら草加せんべいをいただく。



「これは秘密ですが、奏さんは固有結界の実現に成功しています。世間で知られることはないですが、彼女は正真正銘の魔法使いです。浮遊魔法の実現にも成功していますし、成功していないと言えば平行世界移動でしょうか」


「平行世界移動?」


「聞いたことがありませんか?この世界と全く同じ世界がいくつもあることを。そういう鏡合わせのような世界を平行世界と言います。パラレルワールドとも言いますが、つまり平行世界移動とはその名の通り別の世界にワープすることを意味します。舞香さんが得意とした瞬間移動魔術の上位互換と言った所ですね」



なるほど、と思った。奏さんとは幼いころに数回しか会ったことがないが、どこか舞香叔母さんと似ていたと記憶している。

しかし、あの人が魔法使いだったとは驚きだ。



「研究費用は我々の方から落としておこう。君達は龍の捕獲に専念してくれ」


「いつもすみません……施設代から全て肩代わりしてもらいまして…」


「無能力者の私にはこれくらいしか出来ないからな。君達には期待をしているのだ。もし、世界を変えることが出来るのならば、それにかけてみたくなったのだ。頑張ってくれ」


『はい!』


「はい!」



一泊遅れて私は金崎さんの期待に添えるように声を出した。

そんな私を見た金崎さんは、孫を見るように穏やかに笑った。



「では、失礼いたします」



そして車に乗ると、どっと疲れが出た。



「うわァ……疲れたァ…」


「お疲れ様だね、朱音ちゃん。今日はゆっくり休むといいよ」


「うん……自室で寝る…」


「朱音、16時にいつもの場所に集合ですよ。いくら疲れていようとも、鍛錬を怠るのはいけない」


「はい!」



ガタンガタンと心地の良い車の弾みが私の眠気を誘い、私はゆっくりと瞼を閉じた。



「どうやら方針は完全に決まったみたいだな。アイリも色々張り切っているようだ」


「あ、ニル」


「声が出せないのはもどかしいものだな。豊姫がオレに話しかけて来た時は、声を出したかったのだが、出ることはなかったな」


「豊姫お母さん、残念そうにしていたね……」



ニルは真っ白な空間で今日あった出来事をモニターのような巨大テレビで見ていた。

どの視点も見覚えがあるのだが、あれは私から見た視点だろうか。



「オレは死んでいるからな。死んだ者がこうしてお前と喋れていること自体に感謝しなければいけないようだがな。さて、次の龍はオレが特別に教えてやろう」


「え!?場所知っているの!?」


「そうだ。あいつはオレの隣にいたからな」


「誰!?誰なの!?」


「ヴリトラだ。ヴリトラはオレたちが死んだあの場所で眠っている。宝玉になっていないが、怨念として残っているはずだ。あいつを楽にしてやってくれ。お前の剣で倒せば、この空間に来ることが出来る。そこでまた会おう」


「うん!分かった!ヴリトラも助けてくるね!」



ニルは座ったままだが、私から遠ざかって行く。

名残惜しいが、また彼女と会話することが出来ると思えば我慢できた。


次助けるべき龍はヴリトラだ。


私は決意を胸に目を覚ます―――――


え~と、随分とご無沙汰名気もします……現在私は忙しさの極みでして、なかなか更新することができないんですよね。いま書いている時間も午前3時になろうとしていますし、そろそろ眠いわけです。

しかしまぁ、本当はメインストーリーを書くべきだと思うのですが、どうも気分が乗らなかったので、こちらを投稿しました。

ふむ、読んでくれている人はぼちぼちいますが……これからもっと増えますように!(小声

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