夢の世界で
「おい、起きろ」
声がする。
目を開けると、真っ白な空間に私はいた。
そして目の前には、小さな少女がいる。艶のある黒髪は腰まで伸びており、龍を思わせる鋭い眼光に褐色な肌。
身長は小学生ほどだが、少女からは年齢に似合わない雰囲気を感じる。
「え……?ニル…?」
「そうだ。ファーヴニル様だ。どうしてオレはここにいるんだろうな」
「私に聞かれても分からないけど……」
人間姿のファーヴニルは真っ白な空間を見渡してから、私に話しかけてきた。
「お別れってわけには行かなかったな」
「うん………私もあれでお別れだなんて悲しいよ」
「そうだな………それでお前はこれからどうするんだ?」
「あの怪しい人に言われた通りのことをしようと思う」
「あぁ、あいつか……何故正体を隠しているのか分からないが、あいつ本人が出たくないと言うのならオレが喋るのも悪いか………」
大きな独り言を言ってからニルは私を見据えてきた。
「なるほどな。これから龍を集めるというわけか」
「うん。10体集めればお父さんとお母さんが蘇るんだって」
「マスターと瑠璃がか?ほう、随分と胡散臭い話だな」
「私もそう思うよ。でも、嘘を言っているようには思えないし…」
「まぁあいつが嘘をつくようなたまではないのは、オレがよく分かっている。ならば本当なのだろう。恐らくマスターと瑠璃が死ぬ原因となったものを過去のうちに倒すつもりか」
「お父さんとお母さんが死ぬ原因?」
ニルは『そうだ』と頷いた。
私はお父さんとお母さんが死んだ場面に出くわしてないため、本当に死んだのか分からない。だが、ニルの口ぶりからすると死んでしまったのだろうか。
「お前の父である火神崎紅哉と母である火神崎瑠璃は何千万という魔物と相打ちと言ったが、あれは嘘だ。実際はある魔物と戦って負けた。お前達が避難したその直後に死にそうな舞香とリアがやってきて、何千万という魔物をリアが冥界送りにした。そして、冥界に送ったその後に舞香は力尽きて、リアも倒れた。さて、マスターと瑠璃は舞香を抱えて帰ろうとした時に奴はやってきた」
「何がやってきたの……?」
ゴクリと生唾を飲んでニルの言葉を待つ。
「とんでもなくでかい魔物だ。お前も授業で受けたと思うが、この世界に魔物が来るときは世界の法則である程度力を抑えた状態で召喚される。だが、その魔物は途方もなく大きかった」
「うん、実際のリヴァイアサンだって海より大きい龍だったんでしょう?」
「そうだ。だからあれには驚いた。東京一つ踏み潰せそうなくらいに大きい魔物がやってきたんだ。そいつは更に魔物を引き連れて進軍してきた。流石にオレたちは分が悪いと思った。しかし、こいつが行く先にはまだ避難が十分に終わっていない住民がいる。無謀だと分かっていても戦うしかなかった」
ニルは私に近寄って頭を引き寄せると、コツンと自分の額に額を重ねた。
ニルの記憶が私の中に流れてくる。
魔物の叫び声、そして巨大な魔物。一歩踏みしめるだけで大地が悲鳴を上げる。
そして魔物は言葉を口にした。
『吹けば飛ぶような人間よ。我の名はベヒーモス。リヴァイアサンと対となる存在だ。力を得ていま再び決着をつけようぞ』
「こいつに敵う訳がない。オレたちは時間稼ぎを試みたが、ダメだった。肝心のリヴァイアサンは倒れているし、こちらは負傷の身だ」
「ベヒーモス……」
「だが、リヴァイアサンは立ち上がった。仲間の死を直前にしてエヴォルトに至ったリアは伝承にあるような海よりも巨大と言うべき姿でベヒーモスに戦いを挑み、ベヒーモスの右目、右足、後ろ左足、背中の筋肉を口千切って死んでいった。怒り狂ったベヒーモスは次はオレたちだと言って、後はもう一瞬の出来事だった」
「…………」
頭を離したニルの表情は特に変わらない。しかし、その瞳は話すのが辛いようだが、すぐに話の続きを語る。
「リアは最後にこう言った。『ベヒーモスが再び動けるようになるのは、あと6年後です』とな」
「え!?ちょっと!あと2年で復活するの!?」
「あぁ……律儀に身体の部位を持って帰ったからな。それをくっ付けるのに手間取っているだけなのだろう。話を戻すが、それで過去に行ってベヒーモスを倒しに行くと言っているんだろうな、あいつは」
「倒せるのかな……」
「最後の最期でオレたちはパワースポットが枯渇したわけが分かった。それはベヒーモスのせいだ。ベヒーモスが世界中のパワースポットのエーテルを蓄えたせいでなくなったと気が付いた」
「あ!力を得てってそういうことなの!?」
「そうだろうな」
ニルはこくりと頷いた。それなら色々と納得のいく話だ。永久と言われていたパワースポットの枯渇。その裏にはベヒーモスが絡んでいたとは。
「再びあいつが力を取り戻せば、今度こそ世界は終わりだ。リアはもういない……完全に殺された。だから、あいつに立ち向かう術はないんだ」
「あの怪しい人が言ってたのはこういうことなんだ……それで、過去に行って力を得る前のベヒーモスを倒すということなのね…」
「恐らくな。力を得る前なら、昔のオレ達でも倒せるかもしれない。それに賭けたんだろう、あいつは」
ニルは『それで?』と言った。
「え?なにが?」
「お前に3つのうち1つ選ばせてやる。1つ目、龍を集めて過去へ戻り、力のないベヒーモスを倒す。2つ目、それともこのまま思い出を作って最期は笑って皆で死ぬか。3つ目、無駄だと分かっていても、あと2年までに力を蓄えてベヒーモスを迎え撃つか。さて、どれを選ぶんだ?」
「そんなの最初から決めていたよ。1つ目の龍を集めて過去へ行く!」
「そうか。なら、オレも力を貸そう。もしオレと同じ境遇の友を見ても、迷わず剣を抜け。泣くことが許されるのはオレだけだ。お前は過去へ行って世界を変えるためだけに剣を抜け。いいな?」
「うん!」
「よし、いい顔になったな。それじゃ、しばしお別れだ。また夢の世界で会おう」
「分かった!!またね!ニル!」
「うむ。オレはいつでもお前を見守っているからな」
小さい手の平で背中を叩かれると、ニルは踵を返して真っ白な空間を私と反対方向に歩いて行った。
ニルを退場させるわけがないですよね。ええ、私は一番ニルが気に入っているので、彼女には物語が完結を迎えるまで朱音と一緒にいてもらう形になります。
私自身物語の大体の目的はわかっているのですが、その間の話は全然考えていないので、その場の思いつきでどんどん執筆していきたいと思います!




