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夢の世界でまた会おうね

それはかつて私のお父さんが従えていた漆黒の龍戦士だった。

炎でほとんど分かりにくいが、私にははっきりと見えていた。


ゆらゆらと炎が揺らぐなか、青い瞳が私を射抜く。

その瞳に感情などない。ただ、私には悪夢にうなされているような、そんな嘆きに満ちているように見えた。



『ウオオオオオオアアアアアアア!!!!!』



龍は雄叫びを上げると、マザーサンドワームに襲い掛かった。

空中から長い尾を叩きつけ、地面にめり込ませた所に顔を何度も何度も殴打する。

虐殺に見える龍の攻撃はマザーサンドワームの生命力を削って行く。



『グオオオオオオオオン!!!!』



龍は自分の3倍近い大きさのマザーを持ち上げると、そのまま空中へ放り投げた。

そして手の平に黒い球体を生み出すと、まるで打ち出す準備化のように手の平を広げて前へ突きだす。



「あれは……お父さんの技…グラビトンプレス…」



凄まじい衝撃波と共に打ち出された黒い球体は、落下し始めたマザーサンドワームの中心に当たる。

次の瞬間、マザーの身体が圧縮されるかのように押し潰され始める。

あれは重力球体。引き寄せた相手の身体を圧縮し、押し潰してしまう凶悪な技。このほかにも覇龍王圧殺というものもあるが、この技は単体限定だ。



『オオオォォォォオオオオ………』



あのマザーサンドワームをいとも簡単に葬った龍は、何かを探しているかのように周りを見渡す。



『………こだ……どこだ…』


「ファーヴニル…?」


『マスターはどこだアアアアアアア!!!!!』



オオオオン……と悲しく泣き叫ぶ龍は、死んだ主を探す。



「ファーヴニル!私だよ!朱音だよ!」



やっと立ち上がれるようになった私は、ヨロヨロと炎が逆巻く龍へ近づく。



『朱音。あれはこの世に未練がある亡霊だ。お前の声は聞こえていないだろう…』


「そんな……」



街を破壊し始めたファーヴニルは必死に自分の主を探し続ける。

その行動が、私には酷く悲しく見えた。



「朱音!これは一体どういうことですか!」


「あ、栞奈さん!」



私が振り返ると、そこには風を纏った栞奈さんがいた。

彼女の視線の先には漆黒の龍が映っている。



「ニル!?何故師匠の龍が!?」


「おいおい、どういうことだよ。旦那のドラゴンがなんで暴れまくっているんだよ」



リンはユニゾンを強制解除して癒理の隣に現れる。



「え!?ニル!?嘘……紅哉くんがいるの!?」



そこへペガサスに乗った豊姫お母さんが到着し、私に説明を求めてきた。



「お父さんはいないよ。ちょっと前に怪しい人から黒い球を貰って、それが反応したらニルが出てきたの」


「その怪しい人の特徴を教えて!もしかしたら知っている人かもしれない!」



豊姫お母さんは私の肩を強く掴んで揺さぶって来た。



「あぁあ、えっと、身長は低くて、髪は多分白髪…?目は赤かった」


「そんなまさか……でも、あり得るかもしれないけど…」



豊姫お母さんは私の肩から手を離すと、口元に拳を当てて考える素振りを見せる。

そんな豊姫お母さんに栞奈さんが近寄よった。



「豊姫さん、今はあの龍をどうにかしないといけません」


「そう、だね……今はニルを止めないと」


「どうやって止めるの?」


「これで止めるしかないでしょう」



栞奈さんはそう言って武装召喚した槍を見せる。

槍は禍々しいオーラを纏っており、これはゲイボルグの発動一歩手前と言った所だ。



「やめてください!ニルを殺さないで!」


「私も殺したくはありません。これは最後の手です。もし、朱音に渡した人が私の知っている人ならば、こうした意味がきっとあるはず。だから、それが分かるまではゲイボルグは発動させません」


「良かったァ……」



栞奈さんは槍を地面に突き立てるだけで、何か解決策はないのか思案しているようだ。

豊姫お母さんは本部と連絡を取っているのか、無線機で通話している。



「お父さんならこういう時どうするかな……」


『マスタァアアアア!!!』


「ニル……」



昔はよく遊んだものだった。ニルは人間の姿にもなれるので、少女の姿になったニルとよくかけっこをしたものだ。

お父さんとお母さんが仕事で忙し時はニルが相手してくれたし、面倒臭そうにしながらもかまってくれた。



『朱音、こっちに来なさい』


「え?」



懐かしい声で誰かに呼ばれたような気がした。

私は導かれるようにふらりふらりとどこかへ歩いて行く。



「あれ?癒理さん!朱音ちゃんは!?」


「ん?今ここにいたはずですが……」



私は街を破壊するニルに導かれるように歩く。



『朱音、あなたがすべきことは分かるかしら?』


「だ、誰?あなたは誰なの?」


『そんなこと、今はどうでもいいわ。もう一度問うけれど、あなたが今すべきことは分かるかしら?』


「わ、分からないよ!だからこうやって迷っているわけだし…」


『それもそうね。私ではあの宝玉は応えてくれなかった。でも、あなたには反応した。あなたはニルに選ばれたのよ』


「選ばれたって?」



噴水の広場に着くと、そこへ漆黒の炎を纏ったニルが頭から突っ込んできた。



『ウウゥゥウウ………頭がァ…痛い…割れるように痛い…』


「ニル……」


『何故こんなにも悲しいのだ………』



ニルは頭を抱えながら涙を流していた。

私は背中の大剣に気が付いた。これは龍殺しの剣。龍にとっては天敵の剣だ。



『もう何も聞こえない、目も見ないのだ。そこの魔術師……オレを殺してくれ…眠いのだが、眠れないのだ……聞こえているよな?』


「うん……分かった。私があなたの悪夢を終わらせてあげる………ちょっと疲れちゃったんだよね。ゆっくり休むといいよ」


『やるべき事は分かったかしら?』


「いま分かった。これは私にしか出来ない役目だと思う」



私は光を放つ聖剣に手をかけた。

ホルターから剣を抜くと、悪夢にうなされる一体の邪龍に聖剣アスカロンを向けた。



「お父さんとお母さんと舞香叔母さんがなんで私にこの龍殺しの剣を預けたのか分かった気がする。こうなる事を予期していたのか分からないけど…ね」



目の前には苦しむ漆黒の龍戦士ファーヴニルがいる。かつては共に遊び、共に同じ飯を食い、喧嘩したりと思い出がいっぱいあった。

目を覚まさせてあげなくては。彼女を安らかに眠らせてあげなくては。こんな苦しい悪夢ではなく、良い夢を見せてあげなくては。

だから、私は剣を握る。ニルを倒すのではない。眠らせてあげるのだ。


苦しむ彼女を見ると、私も涙が出そうだ。



「どうしてこうなっちゃったんだろう……」



私は歩きだす、一歩一歩思い出を振り返るように。



「良い夢見られるといいね。それじゃあ、バイバイ……」



私は大剣を両手で握り、飛んだ。そして巨大な龍の心臓へ一直線に大剣を突き立てる。


ザシュウウ――――………



『うぐぅ!!ぐッ……ぬううう!』



心臓を貫かれたニルは立っている事がままならないのか、そのまま地面へ倒れる。

そして身体を形成していたエーテルが少しずつ散って行く。



『朱音……だったのか………そうか…これは現実なのか…』


「ううん、これは夢だよ。目が覚めればきっといつも通りに戻ってるから……今はゆっくり休んで…ね?」


『夢か……夢だと…いいな……こんなマスターのいない世界など、間違っている……あぁ………なんだか眠くなってきたな…』



もうほとんどニルの身体は消滅していた。

下半身は既に消えており、身体の崩壊も残すは上半身のみで、その上半身も既に消えかかっている。



『また……皆で遊園地に行きたいものだ………』


「行けるよ…うん、きっと行ける。君が夢から覚めたらお父さんに言うといいよ。お父さん、働いてばっかだから、有休が有り余っているはずだよ」


『そいつはいい………それじゃ…オレは一足先に夢から覚めるとしよう……さらばだ、夢の世界の朱音よ…』


「うんうん……じゃあね…ひぐ…うぐ…うぅうう……」


『泣くな……お前はあの火神崎紅哉の娘なのだ………それにオレは消えるわけではない……オレはいつでもお前を見守っている………だから……』



強く生きろ………と、残してニルは消えて行った。

ニルは分かっていた、これが現実だと。それでも、夢であると信じて最後は笑顔で消えて行ったのだ。

そして消えたニルの身体から黒い光が出現し、それは私の身体に吸い込まれて行った。


カラン―――私はアスカロンを手放した。アスカロンは光になって消える。



『おめでとう。これであなたはファーヴニルの力を手に入れたわ』


「………ニル…お父さん……」



今の私は何も聞きたくなかった。

私はニルが先ほどまでいた証の足跡を見た。



「いなくなっちゃった……せっかく会えたのに………もう、お別れなんだ…」


『お別れじゃないわ。ニルはあなたの剣の中に生きている。だからね、私からお願いがあるの』


「なに…?いまの私は機嫌が最高に悪いんだけど…」


『龍を救ってあげて……ニルはたまたま私が回収出来たのだけれど、他の子は見つからなかった。これは龍を従える両親から生まれたあなたにしか出来ないの』


「私にしか……?」


『本当に龍の血を引く者として龍を回収して欲しいの。そうすれば、世界をやり直すことが出来るかもしれない』



何を言っているのかさっぱり分からない。



『豊姫たちが気付くまで少し時間があるわね。いいわ、少しだけ話をしましょう』



どこからか聞こえる声に私は耳を傾けた。



『おに……いえ、火神崎紅哉から話は聞いたかしら?龍の里の話を』


「えっと、神様に襲われちゃって皆逃げてたんだよね?」


『なら話は早いわ。龍たちは時代こそ違うけれど、ある宝具を使ってこの世界にやってきたと言われているの。龍の里というのは、天界と言われる宇宙の概念から外れた場所にある。そこは時間軸からも外れていて、時間の流れがない場所。そこから時間の流れのある場所へ移動したという事は、時間跳躍してきたことを意味するの』


「時間跳躍?」


『まぁ、簡単に言えばタイムトラベルよ。龍の里を出た瞬間からも時間の流れのある場所に出るけれど、龍は色々な世界に飛ばされた。それで、私の考察では一度タイムトラベルをした龍ならば、もう一度過去や未来に飛べるのではないか?ということよ。色々調べた結果、出来ることが判明したわ』


「え?本当に!?タイムトラベル?が出来るの!?」


『出来るわ。でも、条件がある。それは、発動する者が龍であること』


「私、龍じゃないよ」


『そうね。でも、あなたの親の身体には龍と契約した際に烙印が刻まれた。それは龍の証であり、微力ながらも龍の遺伝子があなたの親の身体に埋め込まれたのよ。それで、龍の遺伝子を持った親から生まれたあなたは、曲がりなりにも龍であり、正真正銘龍の血を引く者なの。さて、話を戻すわ。それで条件だけど―――』


「待って待って!私は龍なの?人間じゃないの?」



人間だと思って生活していたら龍だった?笑い話にもならない。



『何を勘違いしているのか分からないけれど、あなたは人間よ。ただ龍の遺伝子を持っているだけで、れっきとした人間だから安心なさい』


「そ、そうなの?よかった……」


『それで、タイムトラベルするためには1体の龍だけじゃ力が足りなかった。最低でも10体。10体の龍が揃わないと出来ないらしいの』


「10体?」


『ファーヴニル、リヴァイアサン、神龍、ヴリトラ、グリンデル、アジダハーカ、ティアマッド、リンドヴルム、バハムート。この世界に残留思念として残っている龍よ。まだ私が確認していない龍もいるかもしれないけれど、これを狙って今回みたく、その剣で止めを刺しなさい』


「みんな………リアも神龍もヴリトラもグリンデルもアジダハーカも!私の友達だよ!?今のニルみたくやれっていうの!?」


『ええ……悲しいけれど、やって欲しいの。大丈夫、彼女もそれを願っているから……』


「願っているって……」


『あなたには重荷を背負わせてしまうかもしれない。ずるい言い方になるかもしれないけど、これに成功すれば火神崎瑠璃も火神崎紅哉も蘇るかもしれないの』


「お母さんとお父さんが!?」



私はその言葉に強く反応した。あの二人が蘇るということはどういうことなのか。



『まずは龍を集めなさい。彼女たちも今のニルみたくうなされているわ。だから、休ませてあげなさい。私からもお願いするわ』


「あなたは誰なの…?」


『それは言えない。さて、私からは以上よ。ニルを取り込んだことによってあなたは龍が近くいれば感じ取れるようになった。それでうまく探しなさい。それじゃ、私は行くわ』


「あ!待って!」



私の声に反応せず怪しい人は行ってしまったようだ。そして怪しい人が去ってから、1分くらいすると、栞奈さんと豊姫お母さんと理沙が駆けつけてきた。



「朱音ちゃん!大丈夫!?あの龍は!?」


「朱音!お父さんの龍がいたって本当!?」


「朱音、師匠の龍はどこですか?気配が感じられないようですが」



3人に問い詰められた私は、緊張の糸が切れたのか、倒れるように気絶した。



「朱音ちゃん!?大変!衰弱している!癒理さん!このまま抱えて本部の病室までお願い出来る!?」


「分かりました。彼女に事情を聴くのは起きたからにしましょう」


「朱音!しっかりしなさい!」



癒理は朱音をお姫様抱っこすると、そのまま入り口まで疾走する。

天馬のペガサスを置き去りにするほどの速度で走るというよりも、小刻みにジャンプして移動する癒理は感じていた。

この朱音から懐かしい龍の波動を。


なんだかアホみたいですけど、自分で話を書いていて泣けてくるってどうなんでしょうね。それほど感情移入しちゃっているのかな~と思うわけですが、私ってこういう友達同士の激突と別れってめっぽう弱いほうでして、みなさんはどうでしょうか?愛犬が死んでしまったり、大事にしていた物が壊れてしまったときとか、色々ありますよね。

ペットの話というのは、大体泣けるものであり、よくうちの親も犬の話をテレビとか本で読んでいたりすると、ポロっと涙をこぼしているときがありますね。

全然話と関係ないことを書いていますけど、あとがきは自由ですから!

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