漆黒の龍戦士ファーヴニル
また地響きが地下街を満たす。
不安の声を上げる者も出てきており、安全だと思われた地下街がいま危険に晒されようとしていた。
「この音は恐らく……体当たりしているんだ…」
「まさか突き破ろうとしているの!?」
「理沙!このことを豊姫お母さんたちに伝えて来て!ここだと電波が通じないから、一度地上に上がって!」
「ちょっと!朱音はどうするの!?」
「私はマザーサンドワームを止めに行く!」
「朱音!!!」
私は宝玉をお父さんの服のポケットに入れて家を飛び出した。
理沙がまだ何かを言っていたが、今は聞いている暇はない。
『今のお前では足止めにもならんだろう。ここで死ぬつもりか?』
「うっさい!やってみないと分からないでしょ!」
やっと口を開いたかと思えば、現実的な事しか言わない。確かに今の私ではマザーサンドワームを止める事は出来ない。
だが、注意を引く事なら出来るかもしれない。
「ただのサンドワームはBランク…!マザーになればA+まで跳ね上がる…!」
『そうだ。私の力を持ってしてでも、少々分が悪い。諦めて豊姫を呼べ』
「だーかーらー!その呼んでいる間に街が壊されたらひとたまりもないでしょ!私が言いたいのは、豊姫お母さんたちが来るまで危なくない場所まで誘導出来ればいいの!」
『なるほど、戦いはしないのか。いい判断だ。それならば私が口を挟む事はないな』
「武装召喚!」
栞奈さんに真っ先に教えられたのは、武装召喚というものだった。
英雄種だけに許されたテクニック。英雄の持つ武器だけを召喚するもので、余計にエーテルを食う防具召喚を行わないのが強み。
ドオオオオオオオオオオオオオオオン――――――!!!!
「やっぱりマザーサンドワームだ!」
子供が10m。大人で15~18m。マザーの場合30mとなる。
『オオオオオオオオオオオ………!!』
目など既に退化しており、全てを呑み込むような巨大な口の周りは鋭い牙が幾重も生えている。
身体の色は砂漠のような薄黄のようで、口がワシャワシャと動いていて大変気持ちが悪い。
そして口から垂れる唾液が建物に落ちると、建物はジューと音を立てて溶けて行く。
「えっと、こうして!もっとアレンジして!こんな感じ!」
私は走りながらアークブラストの術式を組むと、魔法陣に剣を突き立てた。
バチィイイイイ!!!
およそ60億ボルトの電圧がマザーサンドワームに襲い掛かる。
恐らく皮膚は効かないと思い、始めからマザーの口の中を狙った。
光の速度で突き抜ける雷槍は見事狙い通りの結果になったが、マザーは倒れない。
「うっそ!?怒らせただけ!?」
標的を私に定めたマザーは、建物を破壊しながらこちらへ一直線で突進してくる。
「うわあああ!」
『走ってもあちらが速いに決まっているだろう。さて、どうするのだ?』
「と、とりあえず飛び移る!」
マザーが突進してくる前に、私は建物へ飛び乗り、そこから更に上へ飛んで何とか突進を回避する。
「誘導でうまく行かないね…」
『そもそもどうやって誘導しようと思ったのだ?』
「えっと、走って逃げて」
『頑張るといい』
「チョットオオオ!!助言くらいくれてもいいじゃない!」
薄情なパートナーに対して精一杯声を上げるが、彼は聞く耳持たずのようだ。
「ハァ…ハァ…ハァハァ…!ここならもう大丈夫なはず!」
理沙は地上の入り口付近に辿りつくと、即座に携帯を取り出して母親に電話をかけた。
『もしもし!?理沙、通話が出来るってことは地上に上がってきたの!?ダメだよ!上は危ないって何度も言ってたでしょ!?』
「待って待って!いま本当に大事な用事だから、これ言い終わったら私もすぐ戻るわよ!」
『手短にね?いま、ファーヴニル部隊も被害を受けているから、私もすぐ戻らないといけない』
「地下にマザーサンドワームが出たの!いま、あの馬鹿姉が勝手に走って行っちゃって!だから、早くこっちに人回してちょうだいな!」
『それ本当!?だから、レーダーに引っかからなかったんだ……!!分かった!戦っちゃたダメだよ!?今のあなた達じゃ敵わない敵だから!』
「分かっているわよ。私もすぐ戻って朱音を呼び戻してくるわ」
『それじゃ、私も直人くんに報告したらすぐ向かうからね!』
そこで通話を切った。
理沙は携帯をポケットにしまって、来た道を走り出した。
「あの馬鹿!私にこんなこと押し付けて!死んだら許さないわよ!」
『直人くん!そういうことだから!私は地下に向かうね!』
「了解っす!」
通話を切ると、直人は机を叩いていた。
完全にやられたのだ。電波の状況が限りなく悪い地下ではレーダーがうまく働きにくい。そこを突かれて今の状況がある。
「人が足らない………紅哉先輩…瑠璃先輩…舞香先輩…」
「いない人達は仕方がないです。そんなこと、誰もが分かっていることです。それでも、みんないない人達の分まで頑張ろうとしています。直人さんに出来る事はたくさんありますよね?」
「そうっすね。曲がりなりにも作戦隊長を任されたこの身。最後までやりきってやるっす!」
分かっていた事だ。人が足りないことなど、とうの昔に分かっていた事だ。
「癒理ちゃん聞こえるっすか!」
『ええ、なんでしょう』
「マザーサンドワームが地下街に出現したっす!いま豊姫さんが向かっているけど、癒理ちゃんの位置からなら、若干そちらの方が速いはずっす!お願い出来るっすか!?」
『了解。こちらファーヴニル部隊、凪咲に現場を引き継ぎ、部隊長のみマザーサンドワーム撃退に向かう』
「豊姫さんが言うには、朱音ちゃんが一人で足止めしているそうっす!正直言ってやばい状況っすから、出来るだけ現場へ速く向かってくださいっす!」
『了解……』
呆れた声で癒理は返事をした。
「凪咲さん、俊介さん、私は地下街に向かいます。このままあなたに現場を引き継がせますので、よろしくお願いします」
「りょ~か~い」
「あいよ!癒理さんがいなくてもこのまま押し切れそうだぜ!安心して地下に行きな!」
15mはあろうサンドワームを俊介は炎を纏った足で遥か彼方まで吹き飛ばす。
凪咲の炎を得た俊介に死角はない。
凪咲はユニゾンしてイフリートを纏っている。アマゾネスな格好に身の丈以上はある大きな斧を片手で振り回したり、ブーメランのようにして使う。
癒理はそれを一度だけ見て、走り出す。
虚空に指を走らせる。
刻むルーンは『風』だ。発動すると、癒理の速度が更に上がり、地下街に行く入り口までかけて行く。
「きゃ!」
『オオオオオオオオオオ……』
マザーは周り全てを呑み込むつもりだ。竜巻に巻き込まれるかのように吸い上げられていく建物。
私は電灯にしがみついてこれをやり過ごそうとする。
しばらくしがみついて耐えていると、吸い込みが収まった。恐る恐るマザーの様子を窺うと、なにやら腹が膨らみ始めたではないか。
「まさか!吐き出す気!?」
『そのまさかだな』
『ヴォエエエエエエエエ!!!!!』
「きゃああああ!きちゃない!!」
粘液がついた瓦礫が口から吐き出され、散弾のように私へ降り注ぐ。
大剣を地面に刺して、大剣に隠れるように身を低くする。
ガキン―――!カン――カン―――――ドオオン!!と何やら色々当たっているようだが、何とか退けられているようだ。
「も、もう来ない?」
『オオオオオオオオ!』
「え?」
やけに声が近いな~と思ったら真上にマザーがいた。
マザーは口を閉じてついばむように、何度も何度も私を狙う。
「ぐう!剣の歯が!立たない!」
避けに専念するが、しかしそれでも当たるものは当たってしまう。
大剣で受けた腕の骨がミシリという音を立てる。
「い―――!!!いったい!!!!」
ゲオルギウスが当たる直前で防御に力を回してくれなかったら、完全に折れていた。
そのことを考えたら背筋が凍る思いだった。
『朱音!横だ!』
「え!?うわああ!?」
何とマザーは巨大な胴体を振るうってテール攻撃を行ったのだ。
圧倒的な範囲に避ける場所もなく、私は野球ボールのように吹き飛ばされた。
「あがッ!うげ!う、うぅ…」
何度かバウンドして地面を滑る。止まると、体中から血が滲みだし、足が全然動かない。
ゲオルギウスがいなかったら本当に危なかった。
あんなの普通に喰らったら、受ける前に破裂死してしまう。
『オオオオオオ』
「大分時間は稼げたかな…」
『うむ、上出来だろう』
「私の身体、もう動かないよ…」
『あれを喰らったのだ。即死しないだけマシというものだろう』
マザーは私の真上に来ると、また吸い込みを始めるのか口を開き始めた。
「やだ……やだやだ!死にたくない!」
『私も動けないのだ……すまない』
『オオオオオオオ…!』
マザーが吸い込みを始める瞬間、私は最後にこの世にいない人の名を呼んだ。
「助けてよ……お父さん…」
すると、謎の少女から貰った宝玉が輝きだした。
『オオオオオオ!?』
黒い光を放つ宝玉から黒い炎の剛腕が飛び出し、マザーを殴りつけた。
そして光が一際強くなると、そこには黒炎で形成された龍が顕現していた。
地をしっかりと踏む足、まるで鞭のようにしなりながらも棘が生えた尾。艶のある黒い鱗に盛り上がった肩の筋肉と剛腕。顔はスラリと伸びて、龍を象徴する長い角は2本生えていた。
「え…?ファーヴニル…?」
話の区切り方というのは大事ですよね。私はつくづくそう思うのです。あの週刊少年マンガとか、あの終わり方が絶妙で『え!?ここで終わるの!?うわ~次めっちゃ気になる!』という終わり方をされると次も買わないと!と思うわけですよ。という感じで、私もそこのところを心得て頑張っていけたらな~と思っております。




