強襲サンドワーム
「ご飯出来たよ。二人とも降りてきて~」
下で豊姫お母さんが呼んでいる。
いつの間にか自分のベットで寝てしまっていた私はゆっくりと上体を起こす。
廊下からは、ガチャと音がして階段を下りて行く理沙。
私も髪をくしでとかしながら降りて行く。
「いただきます」
先に食べていた理沙はアジのフライにソースをかけて、熱々の白いご飯に乗せて食べていた。
癒理さんと特訓したせいか、それを見た私のお腹が『きゅ~』と鳴り、すぐさまアジのフライにソースをかけてかぶりついた。
外はさくっとしており、中はふわふわの白身。
うまいの一言に尽きる。
「どう?おいしいかな?」
「うん!今日もとってもおいしいよ!」
「おいしい。お母さんって本当に料理が上手」
娘二人に褒められて嬉しいのか、豊姫は微笑んで、気分が良いのか昔のことを語り始める。
「ん~私は普通の料理くらいしか出来なかったんだけど、お嫁さんになってからかな。腕が上達したのは。そうだね、紅哉くんの家の女将さんに料理を習っていたからかな」
「あ、お父さんの家ってメイドさんがいっぱいいたんでしょ?」
「うん。その中で、いつも美味しいご飯を作ってくれる女の人がいたの。名前は分からないんだけど、皆女将さんって呼ぶから、私もそう呼んでいたの。瑠璃さんと私はその人に色々教わって、紅哉くんの口から美味しいって言われた時はガッツポーズをしたもんだよ」
私の問いに豊姫お母さんは楽しそうに語る。
その時だった。
『ウウウウウウウウウーーーーー!!!!』
サイレンが鳴り響いた。
それを聞いた私たちはほぼ同時に立ち上がる。
「こちらリヴァイアサン並び神龍部隊長の豊姫です!はい!ええ、はい!―――」
豊姫お母さんは携帯端末の着信音が鳴る前に携帯を取り、耳に当てる。
この人の仕事が何かというと、街を警備する警察みたいなものだ。
豊姫お母さんは椅子に掛けていた制服を着る。その背中には10頭ある青い龍と白く胴の長い龍が描かれていた。
豊姫お母さんが属する組織『ドラゴンブラッド』という警備組織は、お父さんがまとめていたものだ。
街の付近に現れた魔物を直接仕留める攻撃部隊『ファーヴニル』。
攻撃部隊が到着するまで、足止めや攻撃部隊に支援物資を届けたりする補助部隊『リヴァイアサン』。
街の市民の避難活動や怪我をした人々を手当てする救護部隊『神龍』。
栞奈さんはお父さんの後を継いで攻撃部隊『ファーヴニル』の隊長を務めている。
豊姫お母さんは特別であり、『神龍』部隊と『リヴァイアサン』部隊の隊長を務めており、かなりの激務だと栞奈さんから聞いていた。
何故こうなってしまったか、というと4年前の全てが始まりだ。
あの戦いで、ファーヴニル隊長のお父さん。神龍部隊隊長のお母さん。リヴァイアサン部隊隊長の舞香叔母さんを亡くした。
理沙の特訓に付き合ってくれている、美波さんという豊姫お母さんのお弟子さんがいるそうだけど、美波さんは何度も『神龍』部隊の隊長を引き継ぐと言っているそうだ。しかし、豊姫お母さんは首を横に振るという。
栞奈さんになんで?と言っても分からないそうだ。
「もう、非難ルートは分かっているね?これからお母さんは本部に行ってくる。もう少ししたら私の部隊の人が来るから、ちゃんと言うこと聞くんだよ?」
「分かった!」
「分かったよ」
「うん、良い子良い子。それじゃ、お母さん行ってくるね」
豊姫お母さんは私と理沙の頭を少しだけ撫でて、家を飛び出して行った。
とりあえず私はその部隊の人が来るまでにアジフライを平らげてしまおうと考えてた。
「朱音ものんきなものね。これは立派な非常事態なのよ?」
「え~?だってさ、そんなこと言っても仕方ないじゃん。もしかすると帰って来れなくなるかもしれないし、その前にせっかく豊姫お母さんが美味しいご飯作ってくれたんだから、残さないようにしないと」
「まぁ、慌てても仕方ないのは分かるわよ。でも、少しくらい緊張感持ちなさいよ」
「大した規模ではなさそうだしね。今回も非難だけして終わりじゃないかな」
「そうだといいわね」
なんだかんだ言って理沙も食べかけのご飯を咀嚼する。
こんな事態でもご飯の味が変わらないことは、実に幸せなことだ。
「みんな!どうなっているの!?」
「あ、豊姫さん」
パートナーのペガサスに乗って本部へ入り、作戦会議室に入ると、既に隊長と副隊長は集まっていた。
豊姫の声に気が付いたのは、神龍部隊副隊長の上条 美波。茶髪をボブカットにし、ふんわりとした物腰の彼女は豊姫の弟子である。
鉄の槍を携えて椅子に座ってるのは栞奈 癒理。ボロボロになったマフラーを着用している姿は、どこか忍者を思わせる。
氷のような髪色とそこそこの顔立ちの青年は苦い表情でモニターを眺めている。
彼の名は氷室 直人だ。
直人は今は亡き火神崎舞香の弟子であり、ファーヴニル部隊でも活躍する事が出来る組織の要となる存在だ。
癒理の隣に座るのは、朱色の髪色をした少女。実際の年齢は結構行っているのだが、童顔のせいか年齢よりも酷く若く見える。
眠そうにしているのは、これはいつも通りだ。
彼女の名は火宮 凪咲。ファーヴニルの副隊長である。
そして隊長でも副隊長でもない男が一人椅子に座っている。
彼の名は朽木 俊介。ファーヴニル部隊に属する戦闘員だが、彼は昔の馴染みということと、凪咲の師匠という事からこの場にいる。
最後に扉を開けて入って来たのはOLを思わせるスーツを着た女性だ。
「遊佐さん、状況は?」
「はい、今モニターに表示します」
遊佐と呼ばれた女性は、この組織をサポートするオペレイターのリーダーだ。
サイレンを鳴らすよう呼びかけたのも彼女であり、この街のシステムを全て管理しているのも彼女だ。
「恐らくはぐれたサンドワームが、この街にいる住民のエーテルを感じ取って接近している模様。危険度はBです」
「おおう、Bか。ここ最近CとかEばっかだったしな。ちょっと調子乗り始めている新兵辺りにでも訓練ついでにやらせるか」
「と、熱血師匠はこう言っていますが?隊長はどうするんですか?」
俊介の発言に凪咲が視線だけを向けて癒理に判断をうかがう。
「我々の部隊だけで殲滅できる相手です。俊介さんの言うとおり、訓練相手として活用させてもらいましょう」
「そうっすね……でも、癒理ちゃんと俊介さんは街の警備に当たった方がいいと思うっす」
「ん?なんでだ?まぁ確かに凪咲のイフリートで一発だろうけどよ…」
直人は先ほどからモニターを見つめており、その表情は険しい。
彼は舞香の弟子だ。舞香からありとあらゆる戦術パターンを仕込まれ、作戦を立てるのは実際直人に任せられている。
「もしものためっすよ。サンドワームの特徴は地中に潜ることっす。それで都市に侵入されたら対応に遅れるということっすよ」
「ん~、一応土属性魔物対策として地中100mまでは厚さ50cmの鋼鉄の板で塞いでいるけど」
「私は直人くんの作戦でいいと思うよ。今回はそこまで危険度は高くないし、さっさと終わらせて帰ろうね」
大丈夫なんじゃないかな~という美波の言葉を遮って豊姫が作戦の決定させる。
そしてドラゴンブラッド総隊長の豊姫の言葉により、作戦が決まった。
一番最初に席を立ったのは癒理であり、それに続いてファーヴニル部隊が退室していく。
「豊姫さんと美波ちゃんは街の警備ということでオーケーっすよ。俺はここで指揮を取るっす」
『了解!』
二人も部屋を出て行き、それぞれの役目を果たすために出動する。
「ほら、行くわよ」
「あ、うん。待って」
神龍部隊の隊員が理沙と私を迎えに来ていた。
私は自室のクローゼットから、黒色の服に大きな翼を広げた『ファーヴニル』部隊と総隊長を現す赤色の紋様が入ったお父さんの服を着込んだ。
ダボダボだが、袖をまくれば着れない事はない。
この服には耐熱やら、防弾やら、いろいろと金がかかっている服だ。まぁ着ている一番の理由は尊敬する父親の服だからという事であり、男物でもファッションということにすればカッコいいものだ。
「お、お待たせ~!」
「やっぱりそれ着てたのね」
「お父さんの服を忘れることなんて出来ないよ。理沙も舞香叔母さんの着てるじゃない」
「わ、私が着ている理由は、この服には舞香叔母さんの術式が使いやす用に改造された特殊仕様の服であり、これを着ると私の―――」
「分かった分かった。ほら、行こう」
苦しい言い訳を始めた理沙の手を引っ張って外へ出る。
外には神龍部隊の隊員が2人おり、ここから走って非難するそうだ。
移動速度上昇の魔術を使えば、あの非難場所まであっという間だ。
先刻習ったばっかりの術式を自分なりに組み上げて発動させる。
「よし!出来た!」
「これくらい当然よ」
足が軽くなり、隊員が先に走って行くと私と理沙も置いて行かれないように付いて行く。
非難の際に車を使う事は許されない。当然使えばパニックになって渋滞する事が目に見えているし、どんなに遠くても徒歩で避難場所まで行かなくてはならない。
神龍部隊とリヴァイアサン部隊が市民を安全に誘導してくれるおかげで、今まで一度もパニックを起こした市民はいないそうだ。
「ねェねェ、何の魔物がきているの?」
「サンドワームだそうです」
私の問いに若い男性隊員が答えた。
私に敬語を使う必要はないのだが、総隊長の娘ということもあり、萎縮してるのだろう。
「サンドワーム……確かBランク級の魔物だったわよね」
「ええ、迎撃に凪咲副隊長が向かっております」
「栞奈さんは~?」
「栞奈部隊長は待機、とのことです」
「指示を出したのは直人さんね。もしもの時のために攻撃隊の槍である栞奈さんを控えさせておくということかしら」
「えっと~、理沙が書いた小学校の作文は~」
「わわわあああ!!やめなさい!!!!」
「将来直人お兄さんのお嫁さんになる~だっけ?」
「殺す!!」
「おっと、危ないよ~」
いきなり魔術を使ってきた理沙に対して私は武装召喚をして、ゲオルギウスの剣である、聖剣アスカロンを取り出して防御する。
「まぁ落ち着いて落ち着いて。避難所に行ったら色々聞いてあげるから」
「朱音が私を怒らせたのでしょう!?もう、全く!」
本気で怒っている理沙に私は軽い気持ちで『めんごめんご』と言ったら、火球が飛んできた。
「……………」
癒理は60階建てのビルの屋上に立っていた。
ボロボロのマフラーを口元までくいっとあげて、街の状況をうかがう。
「旦那が亡くなってからもう4年か」
「リン…」
癒理の隣に一人の英雄が姿を現した。現代を大いに楽しんでいると思わせる流行のファッションに身を包んだ青年の名はクーフーリン。
「彰と奏は旦那と瑠璃を見たという嘘か本当か分からない情報を手にして行っちまった。四条家はもうアイリしか残っていない。ホント色々変わっちまったな」
「師匠を失ったのは大きい。無感情になれたあの私が……今でも師匠の事を考えると心が揺さぶられる」
「結局お前も人ってことだよ。誰かの死を何とも思わない奴なんていないんだ。旦那の後を追おうなんて考えるなよ?」
「当たり前です。師匠とセレナさんは私に朱音を託した。彼女を一人前にするまで、私は死ぬことは許されない」
「なんだかんだで生き延びちまったからなぁ………オレの能力もあるかもしれねぇけどな」
「生き残る事だけなら、あなたはゴキブリのようにしぶといですからね」
「ちょ、お前!あんな黒光りと一緒にするなよ!寒気するじゃねぇか!」
リンは我が身を抱きしめる。それを見た癒理は微笑を浮かべた。
「ふぅ、避難所に着いたね」
「人がいっぱいね」
地下街と呼ばれる人口の街は、明かりで何とか歩けるくらいに暗い。
ここは地上と別隔離された空間であり、地上へ通じる道が壊れてしまえば、上に行けなくなってしまうのがたまにきずだけど。
だが、非難場所としては打ってつけの場所だ。例え地上が火の海になろうともここにいれば安全だし、知能がない魔物はここへ通じる道を決して見つけることは出来ない。
何故ならここへ通じる道には強力な幻術が仕掛けられており、ほぼ入り口を見つかる事はない。
危機感のない子供に至っては、遊びまわっており、これを何かのお祭りだと思っているのだろうか。
私はそんな地下街を歩いて第2の我が家へ向かう。
もし、地上へ帰る事が出来なくなった場合のために、豊姫お母さんがここにも住居登録して貸家がある。
私は1件建ての貸家の前まで来ると、私専用の鍵を取り出して家へ入った。
「うわ、しばらく非難してなかったから埃っぽいね」
「まだ警戒態勢解除になるまでかかるでしょうし、掃除でもしようかしら」
「うん、ここも私たちの家なんだし」
押入れから掃除機と雑巾を取り出して掃除を始めた。
伊達に週2回掃除をしているわけではなく、私と理沙はてきぱきと掃除を済ませて行く。
「うおおお!なんだか見るみる綺麗になっていくって気持がいいね!」
「そうね。お母さんが掃除をしろって言ったのも、この感覚を味わってほしいからかしら?」
30分ほどであらかた掃除が終わってしまい、掃除機を使っていた私は、まだ雑巾で窓を拭いている理沙のために、自分のと理沙の紅茶を作るべく、お湯を沸かす。
「私は終わったから、紅茶作るね」
「ありがとう。私ももう少しで終わるわ」
お湯が沸いた所で、紅茶を淹れる。確か、理沙はミルクティーが好きなはずだ。
私はレモンティーが好きなので、レモン汁を少々入れるだけで済む。理沙のためにお湯を淹れる前に少しだけ牛乳をあっためて紅茶と一緒に混ぜて完成。
中学生の私に紅茶のおいしい淹れ方など分かるわけもなく、のめればいいのだ。
「終わったわ。手を洗ってくるわね」
「おつかれィ!一服と行きましょうや!」
「おじさん臭いわ」
「ちぇ」
露骨に嫌そうな顔をした理沙にふてくされながらも、テーブルに自分のレモンティーと理沙のミルクティーとお菓子のビスケットを置いた。
私は特にやることもないので、テレビのリモコンを取ってテレビを点ける。地上では、サンドワームとファーヴニル部隊が戦っているところが中継されていた。
「あ~訓練用として戦っているんだ。だから、俊介さんも栞奈さんもいないんだ。凪咲さんは監督してるのかな」
手こずっている様子のファーヴニル部隊を頬杖をつきながら、ビスケットを一つ手に取って口に運ぶ。
「そのようね。今年に入ってまた新しい新兵さんが入団したそうだから、実戦訓練を積ませる意味での相手なのかもしれないわね」
「そうとしか考えられないけどね。まぁサンドワームなら大丈夫だと思うよ。それに、あのサンドワーム子供っぽいし」
「確かに小さいわね。サンドワームって普通のサイズは15m程度でしょう?」
「うん。これ、どうみたって10mくらいしかない」
手洗いを終えて椅子を引いて私の淹れたミルクティーを飲む理沙と一緒にテレビを見る。
「はぐれたのかしら」
「群れからってこと?」
「ええ、サンドワームって群れで動く習性があるって聞くから」
すると、突然家のドアが開いた。
チャイムも鳴らさず入って来た人物は一言で言えば怪しい。
朱音と理沙はほぼ同時に臨戦態勢を取り、いつでも魔術が発動できる状態になる。
「あなたは誰?私の家に何の用?」
「火神崎朱音、あなたに届け物よ」
「私?」
声は女性だ。背も小さいし、フードから少しだけ見える瞳は赤い。
理沙に視線を移すと、『気を付けなさい』と目が言っており、私は無言で頷いた。
「私の力では、これが限界だった。ごめんなさい」
「え?何を言っているの?」
「それじゃ、私はこれで」
謎の少女は私と理沙に背を向けて家を出て行った。
私と理沙は慌てて家を飛び出して彼女を追おうとしたが、その姿はもうなかった。
「何者…?」
「私に聞かれても分からないわよ…」
とりあえず私たちは家に戻ってケースを開ける。
中に入っていたのは、黒色の宝玉だった。
「なに…これ?でも、懐かしい感じがする…」
「奇遇ね……私もとても懐かしい感じがするわ」
私は恐る恐る宝玉に触れる。しかし、何も起こらない。
「え?なにこれ?」
「何も起きないわね…」
手に持ったり、光にかざしたりしてみたが、何も起こらない。どうなっているのだろう。
「後でお母さんに聞いた方がいいかもしれないわね」
「そうだね。でも、あの人私の届け物って言ってたけど」
「ドラゴンブラッドの開発部に行けば分かると思うわ。アイリさんに調べて貰った方がいいかもね」
四条アイリ。超人が生まれることで有名な四条家の次女。天才的な頭脳と発展をきかせて学会では知らぬ者はおらず、世界でも3本の指に入るほどの天才だ。
しかし、四条家はアイリだけになってしまった。父親のクロフィード。母親の麗華。長女のセレナも既に亡くなっており、毎日汗と涙が分からないくらい流しながら仕事に没頭しているという。
「ん~早く警戒態勢解除されないかな~」
「そうね。私もこれが気になる―――――」
その瞬間家が震動で揺れた。
カップが倒れるが、二人とも既に飲み干しており、カランとガラス特有の音と共にテーブルを転がる。
「まさか…!やっぱり理沙の読みは当たっていた!」
「え!?どういうこと!?」
「サンドワームは群れで行動する。ここまではいいね?次が問題なんだよ。サンドワームは団結力が高い。だから、もし、はぐれたサンドワームが子供の場合……」
「嘘でしょ!?」
ということで、朱音編も無事にスタートいたしましたね。これから読んでくれる人が増えていくとうれしいかな~と思います。メインの方と少しテコ入れされているところが出てくるかもしれませんが、そこ方ご理解いただければと思います。




