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第四話

建国神話


 天が生まれ、地が生まれ、光が生まれた後


 神は地上に降り立った。


 地界に初めて降り立った場所を神は「庭」と呼んだ


 神は自らに似せて人を作り


 自らの息子たちに庭を分け与えた


 神はやがて「帝」と呼ばれるようになり、


 3人の息子たちにより支えられ、共に榮えた。


 神帝曰く

「仁を以て徳と為せ

 徳を以て庭を統べよ

 子らよ邪心勿りしか

 子らよ庭を侵す事勿れ」


 (原文)

「以仁為徳、

 以徳統庭、

 子勿邪心、

 子勿侵庭」

       大庭協約(GGC)序文より引用 


有史以来1000年に渡り、西庭国の帝家を中心として四庭家はGGC序文「子らよ庭を侵す事勿れ」の下、

各庭家の領土を侵さずを是としてきた。


西庭国、北庭国、南庭国はそれぞれ、四庭国の「外」であれば庭には当たらずとGGCを解釈し領土拡大を続けてきた。


東庭国は外であれ「他人の庭」として侵すことなく建国以来の領土を固持している。


四庭国は連合国家として「仁」という国号を有し、仁国皇帝として西庭国を最高位としつつも、




四庭国でそれぞれの統治機構があり、文化・言葉・思想も少しずつ異なり始めている。


仁建国から1000年を迎えようとするころ、


西庭国の帝家は最も友好的である南庭国に対して、近年東庭海沿岸部での海運を寡占状態にしつつあるロンデール島嶼王国への侵攻を命じる。


通商条約締結国及び軍事的同盟関係であるロンデール島嶼王国への侵攻を受け、東庭国は集団的自衛権を行使する。


ロンデール島嶼王国領にて、東庭国と南庭国は戦闘状態に突入する。


有史以来初めての庭園相撃である。


東庭国臨時編成ロンデール島嶼王国派遣防衛軍戦闘序列

※開庭暦1012年5月 第一次東南戦争開戦時

軍司令:狭嶋 氏智 中将

──────────────────────────

├─ 第1師団(ロンデール北部正面・本島防衛)

│ 師団長:鷹宮 恒一 少将

│ ├─ 歩兵第103連隊

│ ├─ 歩兵第107連隊

│ ├─ 歩兵第112連隊

│ ├─ 師団砲兵大隊

│ ├─ 工兵大隊

│ ├─ 通信大隊

│ └─ 輜重大隊

├─ 第2師団(ロンデール南部・島嶼展開/上陸阻止)

│ 師団長:桐生 正景 少将

│ ├─ 歩兵第105連隊

│ ├─ 歩兵第109連隊

│ │

│ ├─ 第301砲兵連隊

│ │ ├─ 第一大隊

│ │ │ ├─ 第一中隊

│ │ │ │ └─ 第二小隊(ロンデール湾西側島嶼配備)

│ │ │ │

│ │ │ │  〔小隊編制〕

│ │ │ │  ├─ 第1分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第2分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第3分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第4分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  │

│ │ │ │  ├─ 小隊本部分隊

│ │ │ │  │ ├─ 小隊長 水城 昴 少尉

│ │ │ │  │ ├─ 副官  古賀 軍曹

│ │ │ │  │ ├─ 観測班 3名

│ │ │ │  │ └─ 通信班 2名

│ │ │ │  │

│ │ │ │  ├─ 衛生分隊(5名)

│ │ │ │  └─ 牽引馬(4頭)

│ │ │ │

│ │ │ │     総員:40名

│ │ │ │

│ │ │ └─ (各中隊・小隊が島嶼に分散配備)

│ │ │

│ │ └─ (他大隊略)

│ │

│ ├─ 師団直轄砲兵中隊

│ ├─ 工兵大隊

│ ├─ 通信大隊

│ └─ 輜重大隊

└─ 軍直轄部隊(司令部直轄)

├─ 独立野戦砲兵隊

├─ 騎兵偵察隊

├─ 近衛第一連隊

└─ 憲兵隊

 砲撃は止まらなかった。間隔はさらに詰まっている。

 南庭艦隊は、もはや探りではなく確実に潰しに来ていた。


 弾着は直線的に寄る。観測、修正、再観測。その動きに迷いはない。


「第三、射界維持。第四、遅れるな」


 水城の声は短い。近衛分隊の動きは予想以上に整っていた。装填は滑らかで照準も狂わない。


「……なるほどな」


 近衛兵が応じる。


「我らは礼砲を扱ってきました。射撃には慣れております」


 古賀が声を落とした。


「確かに使えますな。だが、消耗は早いですな」


 差はすぐに出た。呼吸が荒くなり、動作が鈍る。修正がわずかに遅れ、その遅れを砲撃は許さない。


「……無理はしなくていい。手順だけ守れ」


 砲撃は続く。陣地は既に捕捉されている。留まれば死ぬ。


 そのとき、通信班が振り向いた。


「中隊司令部より!」


 水城が顔を上げる。


「砲列、段階的転進を実施せよ。位置を晒した砲は順次離脱、

 射撃を維持したまま後退せよ、とのことです」


 古賀が低く言う。


「来ましたな」


 水城は短く頷いた。

 命令は的確だった。だが、それだけでは足りない。


 どこまで下げるか。

 どの順で引くかは、現場に委ねられている。


 水城は周囲を見渡した。

 弾着の収束。観測点。火力の維持状況。


 ここはすでに“死地”だった。

 このままでは、次の収束で終わる。


「……転進準備だ」


「この位置を捨てますか」


「ああ。中隊の指示では足りん」


 水城は即答した。


「このままでは、次で潰される」


 一拍。


「北東へ出る。島影を使い、一度砲列を切る」


「……報告は」


「今やる」


 水城は通信班へ向かう。


「第三小隊より中隊司令部。

 現位置暴露済み、継続は困難と判断」


 砲声の中で、言葉を区切る。


「指示に基づき転進を実施。

 転進方向を北東に修正。島影利用、砲列再編後、射撃継続予定」


 数秒。


「……中隊司令部より了解。各小隊裁量にて転進継続せよ」


 古賀が息を吐く。


「通りましたな」


「ああ」


 水城は振り返った。


「全小隊、陣地放棄。北東へ転進。持てるものだけ持て」


 砲員が一斉に動き出す。杭を抜き、砲架を外し、弾薬を担ぎ、あるいは捨てる。馬がいななき、砲が地面を擦る。


 もはや転換ではない。

 ——一線を引き直すための撤収だった。


「急げ、動いた瞬間を狙われるぞ」


 隊列が動いた、その瞬間だった。


 着弾。


 一発が第一分隊の弾薬箱に突き刺さる。


 閃光。内部炸薬が連鎖し、爆裂が空間を叩き潰した。人が弾かれ、砲が跳ね上がる。


 第一分隊は、その一撃で消えた。


 続いて破片が横に走る。避けようとした動きが止まり、そのまま崩れる。


「第二も巻き込まれた!」


 爆発が続く。弾薬が誘爆し、横倒しになった砲が地面を滑る。巻き込まれた兵が押し潰される。


 数秒だった。それだけで二個分隊は消えた。


 煙の中に残ったのは、焼けた土と崩れた砲架だけだった。


 水城の思考が、一瞬だけ遅れる。


 何が起きたかは理解している。

 理解しているのに、次の命令が出てこない。


 任官以来、共に砲を引き、共に撃ってきた小隊だった。

 山野に散る山賊を砕き、沿岸の海賊船を撃ち抜いてきた。


 それが、もういない。


 手がわずかに止まる。


「……」


 その瞬間だけ、水城は動けなかった。


「少尉殿!」


 古賀の声が割り込む。


 水城は瞬きを一つする。

 焦点が戻る。


「少尉殿。第一、第二分隊は全滅、砲も喪失、生存者なしです。

 第三分隊は生存五名ですが、砲を喪失。

 近衛で補充頂いた第四分隊は砲こそありますが、生存二名。

 ……砲兵なら二名でもどうにか回せましょうが、近衛です」


 水城は一拍置いた。


「了解した」


 短く答える。


「第四分隊の人員と砲を第三分隊に合流させろ。

 定数通り一門七名の形になるなら上等だ」


 古賀はわずかに眉を動かした。


「……砲が残る第四分隊にではなく、

 人員のみの第三分隊へ、でありますか?」


「そうだ。何かあるか?」


「……いえ、了解しました」


 古賀はすでに理解していた。


 ——第三分隊五名で回す。

 近衛の二名は外す。


 よくやった者を、これ以上擦り潰さない。

 水城はそう判断している。


 古賀が怒鳴る。


「第三分隊聞けぇ!

 第四分隊から砲を借りる!


 第四分隊二名、松代、門倉は本部付だ!


 ——移動継続! 止まるな! 指定位置まで引け!」


「了解!」


 誰も迷わなかった。


 砲を曳き、位置を変える。

 砂を蹴り、息を切らしながら、砲列は北東へ引きずられていく。


 弾着はまだ後ろを追ってくる。


 やがて島影に入る。


 弾着がわずかにずれた。


 その瞬間を逃がさない。


「ここで止める!」


 水城の声。


「第三分隊、砲据えろ!

 三分で再編! 五名で回せるな!」


「了解!」


 返答は即座だった。

 疲労は限界に近いはずだったが、迷いはない。


 誰も第四分隊の二名を呼ぼうとはせず、

 自然と持ち場を詰めた。


 近衛の二人は、そのまま本部側へ合流する。

 それでいいと、全員が分かっていた。

 この死地にあってなお、労う気概がまだ残っていた。


 砲架が落とされ、照準が合わせられる。


「撃て」


 砲は応じた。火力は、まだ生きている。


 他の島嶼でも同様だった。各砲台が消耗しながら撃ち続けている。誰も崩れてはいない。ただ耐えている。


 二日目。


 第301砲兵連隊全体の評価で言えば、転進は間に合っていた。


 北東へ引いたことで、弾着はわずかにばらける。

 島影が視界を切り、観測精度が落ちたのか、落着の収束も甘くなる。


 完璧ではない。

 だが、致命的でもない。


「……少し楽になりましたな」


 古賀が低く言う。


 水城は頷く。


「一発目を外させれば十分だ」


 その“十分”を積み重ねるしかない。


 散開した各小隊も同様に動いていた。


 撃ち、位置を変え、また撃つ。


 砲列は一所に留まらない。

 島嶼全体が、細く動く火線になっている。


 時折、通信が入る。


「第一、第二小隊、共に損害大なるも射撃継続中!」

「第四小隊、弾薬残少! だが持たせると——」


 雑音に掻き消されながらも、

 まだ撃っていることだけは分かる。


 水城の小隊も同じだった。


 一個分隊まで人も砲も減り、余裕はなくなっている。


 それでも砲は動き、指示は通る。


「第三、次弾用意」


「装填よし」


「撃て」


 音は変わらない。

 ただ、間が詰まらない。


 それでもいい。


 撃てている限り、

 戦線はまだ生きている。


 一日を通して、大きく崩れた部隊はなかった。

 それが、この日の戦果だった。


 三日目。


 南庭艦隊が、再び前進に転じる。


 砲撃は止まらないまま、その距離だけが確実に詰まっていく。


 停滞は許されなかった。


 周辺島嶼の制圧を後回しにし、

 当初から本島への強行上陸を選んだ以上、

 この段階で押し込まねば意味がない。


 損害を承知で距離を詰めてきているのは明らかだった。


 さらに一つ、異変があった。


 後方にいるはずの大型輸送艦が、

 戦闘艦の間を抜けるようにして前に出てきている。


 上陸部隊を乗せたまま、

 より浅い射界へ踏み込んできていた。


「……随分なことをしますな」


 古賀が低く言う。


「こちらの砲撃も大分目減りしたからな、急がせてるんだろう」


 水城は短く答えた。


 上陸を成立させるために、

 艦隊全体が速度を上げている。


 距離を詰めるということは、

 同時に、撃たれる距離に入るということでもある。


 それでも前に出るということは——

 向こうも余裕がない。


「……来るぞ」


 水城は頷く。


「撃て」


 弾は低く伸びた。着弾、水柱。修正。


 そのとき通信が入る。


「観測班より! 敵主力艦に命中弾!」


「上部構造付近に被弾!」


 どの砲かは分からない。観測線は重複している。


 さらに続報。


「戦艦『護風』、艦橋付近に被弾!」


 近年、艦艇の装甲化は急速に進んでいる。主装甲帯を小口径砲で抜くことは難しい。


 だが、艦橋付近となれば話は別だ。防御は薄い。


 命中すれば影響は大きい。


「続けろ」


 さらに報告。


「輸送隊列に命中弾多数!」


「大型艦火災発生——内部爆発」


 一瞬の沈黙。


「輸送艦一隻、爆発炎上! 撃沈の公算大!」


 兵が呟く。


「……当たったか」


 別の声が返す。


「俺たちだ」

「さっきの弾だ」


 疲労の中に確信がある。


 どこの砲が当てたかは分からない。


 だがこの場にいる者にとっては、それは自分たちの戦果だった。


 水城も、ここまでの損害に見合う成果を誰もが欲していることを理解していた。


「……燃料か」


 遠く黒煙が立ち上る。


 砲撃は続くが、敵の前進は鈍る。


「距離を取る気だな」


 古賀が言う。


 水城は答えない。

 ただ次の射撃を指示する。


 残っているもので撃つ。


 それができる限り、戦いは終わらない。


 小隊は、まだ生きている。


 それだけで十分だった。

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