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第三話

建国神話


 天が生まれ、地が生まれ、光が生まれた後


 神は地上に降り立った。


 地界に初めて降り立った場所を神は「庭」と呼んだ


 神は自らに似せて人を作り


 自らの息子たちに庭を分け与えた


 神はやがて「帝」と呼ばれるようになり、


 3人の息子たちにより支えられ、共に榮えた。


 神帝曰く


「仁を以て徳と為せ

 徳を以て庭を統べよ

 子らよ邪心勿りしか

 子らよ庭を侵す事勿れ」


 (原文)

「以仁為徳、

 以徳統庭、

 子勿邪心、

 子勿侵庭」


       大庭協約(GGC)序文より引用 




有史以来1000年に渡り、西庭国の帝家を中心として四庭家はGGC序文「子らよ庭を侵す事勿れ」の下、各庭家の領土を侵さずを是としてきた。


西庭国、北庭国、南庭国はそれぞれ、四庭国の「外」であれば庭には当たらずとGGCを解釈し領土拡大を続けてきた。


東庭国は外であれ「他人の庭」として侵すことなく建国以来の領土を固持している。


四庭国は連合国家として「仁」という国号を有し、仁国皇帝として西庭国を最高位としつつも、


四庭国でそれぞれの統治機構があり、文化・言葉・思想も少しずつ異なり始めている。






仁建国から1000年を迎えようとするころ、


西庭国の帝家は最も友好的である南庭国に対して、近年東庭海沿岸部での海運を寡占状態にしつつあるロンデール島嶼王国への侵攻を命じる。


通商条約締結国及び軍事的同盟関係であるロンデール島嶼王国への侵攻を受け、東庭国は集団的自衛権を行使する。


ロンデール島嶼王国領にて、東庭国と南庭国は戦闘状態に突入する。


有史以来初めての庭園相撃である。



東庭国臨時編成ロンデール島嶼王国派遣防衛軍戦闘序列

※開庭暦1012年5月 第一次東南戦争開戦時

軍司令:狭嶋 氏智 中将

──────────────────────────

├─ 第1師団(嶼州北部正面・本島防衛)

│ 師団長:鷹宮 恒一 少将

│ ├─ 歩兵第103連隊

│ ├─ 歩兵第107連隊

│ ├─ 歩兵第112連隊

│ ├─ 師団砲兵大隊

│ ├─ 工兵大隊

│ ├─ 通信大隊

│ └─ 輜重大隊

├─ 第2師団(嶼州南部・島嶼展開/上陸阻止)

│ 師団長:桐生 正景 少将

│ ├─ 歩兵第105連隊

│ ├─ 歩兵第109連隊

│ │

│ ├─ 第301砲兵連隊

│ │ ├─ 第一大隊

│ │ │ ├─ 第一中隊

│ │ │ │ └─ 第二小隊(ロンデール湾西側島嶼配備)

│ │ │ │

│ │ │ │  〔小隊編制〕

│ │ │ │  ├─ 第1分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第2分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第3分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  ├─ 第4分隊(7名/砲1門)

│ │ │ │  │

│ │ │ │  ├─ 小隊本部分隊

│ │ │ │  │ ├─ 小隊長 水城 昴 少尉

│ │ │ │  │ ├─ 副官  古賀 軍曹

│ │ │ │  │ ├─ 観測班 3名

│ │ │ │  │ └─ 通信班 2名

│ │ │ │  │

│ │ │ │  ├─ 衛生分隊(5名)

│ │ │ │  └─ 牽引馬(4頭)

│ │ │ │

│ │ │ │     総員:40名

│ │ │ │

│ │ │ └─ (各中隊・小隊が島嶼に分散配備)

│ │ │

│ │ └─ (他大隊略)

│ │

│ ├─ 師団直轄砲兵中隊

│ ├─ 工兵大隊

│ ├─ 通信大隊

│ └─ 輜重大隊

└─ 軍直轄部隊(司令部直轄)

├─ 独立野戦砲兵隊

├─ 騎兵偵察隊

├─ 近衛第一連隊

└─ 憲兵隊






 砲撃は止まらない。

 間隔は短く、修正は正確だった。南庭艦隊は前進を維持したまま、機械的に弾着を寄せてくる。


「第三、修正入るぞ!」


 古賀の怒声が飛ぶ。水城は空を見た。

 弾着は近い。次で捕まる。


「撃て」


 砲が応じる。

 土煙の中で位置を騙しながら応射するが、長くは持たない。


「右に寄せろ! 今のうちだ!」


 砲員が動く。

 だが転換にはまだ入れない。動いた瞬間を狙われる。


 着弾。炸裂。破片と土が叩きつけられる。


「第四——!」


 誰かが叫ぶ。爆煙が晴れたとき、そこにあったはずの砲と分隊が消えていた。

 砲は抉り返された地面に横倒しとなり、周囲に動く者はいない。


「……第四分隊に直撃、壊滅です」


 古賀が低く言う。水城は一瞬だけ目を細めた。


「……一門、喪失」


 その時、艦隊前進に伴う修正で南庭の砲撃に一時的な空白が出来た。


「……今だ。転換急げ」


 何度目かの陣地転換を水城が命じる。

 砲員が飛び出す。死体を跨ぎ、馬を操り、砲を曳かせ、位置をずらす。


 ほんの数分間。その最中だった。


「小隊長殿! 後方より分隊規模の友軍接近!」


 水城は顔を上げた。補充にしては早すぎる。

 たった今分隊が一つ吹き飛んだばかりで、もうここに届くはずがない。


 土煙の向こうから、数名が現れる。七名。その中央に、一門の九十年式が馬で曳かれていた。装具は整い、動きは揃っている。


「報告します! 補充分隊、到着しました!」


 先頭の男が敬礼した。古賀が睨む。


「どこの部隊だ」


「近衛第一連隊所属であります」


 水城は一瞬、言葉を失った。


「……近衛?」


 あり得ない。近衛は後置のはずだ。水城は即座に古賀を見る。


「……確認しろ」


「了解」


 古賀はすでに電信を叩かせていた。


「第三砲兵小隊より中隊司令部。補充分隊の件、照会」


 数秒。砲撃音だけが場を支配する。


「……中隊司令部より回答。補充は正式命令によるもの。連隊経由で承認済み、とのことです」


 一拍。古賀が声を落とす。


「……連隊の許可は出とります。出とりますが……」


 先頭の近衛兵が、改めて言った。


「正規命令による補充です」


 水城は低く問う。


「……一個分隊、丸ごとか」


「はい。人員七名、九十年式一門」


 男は続ける。


「近衛連隊には儀礼任務もあるため、砲兵編成も存在します。

 連隊長より、“近衛は弱兵と言われるが、砲兵は使える”とのことです」


 水城は「連隊長」という言葉を当たり前のように受け取ってから、一瞬、思考を止めた。


 ——近衛第一連隊長。

 東庭ひがしば 義秋よしあき

 現東庭公・東庭ひがしば 義胤よしたねの三男。


 戦場で聞く名ではない。

 少なくとも、この砲列の中で出てくる名ではなかった。


 古賀が鼻を鳴らした。


「言ってくれる」


 水城は短く判断する。


「……わかった。我が小隊はさきほど第四分隊を喪失した」


 一拍。


「貴様らをそのまま第四分隊とする。配置につけ」


「了解!」


 七名は即座に動いた。砲が据えられる。その動作は無駄がない。


 水城はそれを見ながら、なおも考える。


 近衛。


 東庭軍の編制において、連隊番号は歩兵は百番台、騎兵は二百番台、砲兵は三百番台で統制されている。

 だが、近衛だけは違う。

 番号は一桁。規模も固定されない。

 ただ一個師団のみが編成され、師団長、連隊長は公家に連なる者が務める。


「庭都守護」を主な任務とされているが、その実情は儀礼や式典への参加が大半である。

 当然その性質から、実戦に配備されることは慣例上なく、


「行進迅速、突撃鈍足」


 あるいは、貴族や公家は名を二文字で付け、庶民は一文字で付けるという四庭圏の慣習になぞらえて、


「部隊はヒトケタ、名前はフタケタ」


 などと嘲笑されてきた。


 ——そして、その一個分隊が、ここにいる。


「……訳が分からんが」


 呟く。


「撃てるなら、それでいい」


 ——少し前。


 派遣防衛軍司令部に、近衛第一連隊長東庭 義秋少将が足を運んでいた。

 軍司令狭嶋 氏智(さじま うじさと)中将への直談判である。


「閣下。我が近衛第一連隊に前進の許可をいただきたく参りました」


 狭嶋は顔をしかめる。


「……殿下。その呼び方はおやめ下さい。どうか普段通りに」


「いえ」


 義秋は即座に否定する。


「閣下は中将、小官は少将。士官学校でも一期上。

 ここでは、そのように振る舞うのが然るべきでしょう」


 ——この態度のとき、義秋は譲らない。


 二人は士官学校入学以前からの付き合いであった。狭嶋にとって義秋は後輩であり、同時に、幼少期からの遊び相手でもある。


 だが今は違う。「東庭公の三男」であり、そして「近衛第一連隊長」である。


 狭嶋は溜息を一つつき、言葉を選ばずに告げた。


「いいか、東庭少将。これは本国参謀本部の命令だ。


 近衛第一連隊は軍本営付近に後置。前線がどうなろうが、その方針は変わらん」


 一歩、間を置く。


「前線が崩壊すれば増援を投入する。

 だが、それは貴様の部隊ではない」


 そして、わずかに声を落とした。


「……貴様の気持ちも分かる」


 だが、と続ける。


「近衛第一連隊をロンデールに持ち込むこと自体が、国民感情に配慮した異例の措置だ。戦場に出した上に、東庭公の御子に何かあれば軍の面子が立たん」


 狭嶋はそこで言葉を切る。

 遠慮はなかった。

 相手が義秋だからこそ、全てをそのまま言う。


「……殿下。どうか、どうか飲み込んで下さいませ。

 殿下の軍人としての気概も資質も、氏智は十二分に理解しております。

 ……それでも、どうにもならんのです」


 義秋はしばし沈黙した。


「……氏智の兄さんがそこまで言うなら、どうしようもないんだろうな」


 短く息を吐く。


「分かった。とりあえずは後置を継続する」


 狭嶋はわずかに眉を動かす。


「……いやに物分かりが良いですな」


 義秋は肩をすくめた。


「何、何かあっても氏智兄さんには迷惑はかけんよ。そういうように運ぶ」


 狭嶋は一瞬だけ義秋を見る。


 ——全く、この御仁は。


 その言葉は、口には出さなかった。


 補充として現れた近衛分隊は、何事もなかったかのように砲を据えている。

 命令には違反していない。

 本隊は後置だ。

 これは

 ——まさしくただの補充であった。

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