ロスト
7時半。
吹奏楽部の練習が終わる時間だ。
俺は今、音楽室の前で待機している。
妖魔の狙いが何かは知らないが、野放しにはできないしな。
「和月!」
背後から俺を呼ぶ声が…
この声って…
「姫さん…なんで来たんだ」
「ふふん、あたし良いこと思いついちゃったのよねー」
「へー」
「……」
「……」
「無視しないでくれるかしら?」
「いや、なんかもう悪い予感しかしなくて」
「聞いて驚きなさい!あたしが囮になればいいのよ!」
「やっぱり…」
「や、やっぱりってなによ!!やっぱりって!」
「…あのね姫さん、俺の目的は姫さんを守ることで、妖魔退治じゃないんだよ?姫さんが危ない目にあったら本末転倒だよ?」
「…そ、それはそうかもだけど」
「姫さんはここで見ててよ。絶対、無茶すんなよ」
そのとき、
「キャーーーーーーーー」
っと女子の悲鳴が音楽室に響きわたった。
あの声は!
「吉倉!!!」
俺は夢中で音楽室に突っ込んだ。
そこにいたのはガタガタ震えて座り込んでる吉倉と、人形のようにピクリとも動かない女生徒だった。
女生徒は抜け殻のように茫然としていて、目に光がなかった。
『ダレダ、オマエ』
頭にズシンと妖魔の声が響いてきた。
「妖魔か、姿を見せろ!なんの目的でこの人を襲った!」
『イセイガイイヤツダ。ザンネンダガ、スガタハミセラレナイ。オレノナマエハ、ロスト。サクラヒメヲサガシニキタ』
「ほう?なら余計に見過ごせないな」
『ククク…ムダナアガキヨ』
そのときズズズ…と足が沈む感覚がして、足元を見ると、黒い影が俺の足を掴んで引っ張り込もうとしていた。
影系の妖魔か!
これまた厄介なやつだ。
「こい、青龍!」
俺は青龍を掴むと足下の影を目がけて突き刺した。
と、
『ククク、ザンネンダッタナ』
ロストはニヤリと不気味に微笑んだ。
そうか、実体がないから刺せないのか…
どこかに潜んでる本体を見つけないと!
そう思考を巡らせていたその時、閉まっていたはずの音楽室の扉がガラッと勢いよく空いた。
「和月!あたしも混ぜなさい!」
「姫さん!」
能天気なお嬢様が乱入してしまった…
しかも、狙われてるの姫さんなのに…
『アア!コノホウジュンナサクラノカオリ!!サクラヒメ!!』
ロストは姫さんの背後からスッと現れると姫さんの手足に巻きつくように捕まえた。
『フハハハハハハ!コレデワレハカンゼンナルヨウマ…ニ………』
俺の一撃は奴の急所を付けたらしい。
油断してくれて助かったぜ。
『ナ、ナンダ、コノカタナハ』
「そいつは青龍。妖魔を斬る為の刀だ」
『アノセイリュウガ、ゲンセニソンザイシテタ、ダ…ト……』
ロストはそれだけ言うと煙のように消えた。
「姫さん!」
解放された姫さんを咄嗟に抱き抱える。
「あ、和月、ありが」
「このバカ!!!なんで飛び出してきたんだよ!!!」
「このあたしがバカですって!?!?下僕の分際で生意気…」
「良かった…無事で」
気がつくと俺は姫さんを抱きしめていた。
ハッと我に返って姫さんのほうを見ると、真っ赤になって震えていた。
「す、すみません姫さん!!」
「き、きき気安く触らないでよ…」
そう言う姫さんの声にはいつもの覇気がなく、なんだか可愛く思えた。
「今回は姫さんのおかげで助かったよ。ありがとう。…でも、次からこんな真似すんな。姫さんの安全が絶対だからな」
「わ、わかったわよ…しょうがないから聞き入れてあげるわ」
そう言って、姫さんはスクッと立ち上がり、俺たこう言った。
「じゃあ和月、お手っ!」




