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馬車一台から始める異世界物流  作者: 甘藷屋


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第17話 断る仕事

第17話 断る仕事


 二件を一度に運んだ翌日。


 朝から仕事はなかった。


 ロイの背中を拭き、昨日使った縄を干す。


 それから荷台の床を掃いた。


 昨日は二人の客から金をもらえた。


 今日はゼロ。


 差が激しい。


「暇そうだな」


 兄が店の奥から顔を出した。


「見れば分かるでしょ」


「昨日は忙しかったのに」


「毎日ああなら楽なんだけどね」


「毎日あったら今度は大変なんじゃない?」


 俺は箒を止めた。


「それは、なってから考える」


「そういうこと言うと来るぞ」


「何が」


「大変なのが」


 兄は勝手に笑って店へ戻った。


 縁起でもない。



 昼を過ぎても依頼はなかった。


 明日はボルクの仕事もない。


 乾物屋からも何も聞いていない。


 こういう日は、少し前なら落ち着かなかった。


 今も落ち着いているわけではない。


 ただ、店を回っても荷物がない日はある。


 それくらいは分かってきた。



 午後、ベルナー商会の帳場で父から紙を分けてもらっていると、入口から男が入ってきた。


 見覚えがある。


 以前、営業で回った店の一つだった。


「ベルナー運送の子、いる?」


「僕です」


「ああ、よかった。明日頼めないか」


 一気に気分が変わった。


「行き先はどこですか?」


「アルネス。革袋が六つ。朝出して、明日中に着けばいい」


 アルネス。


 問題ない。


「大丈夫です」


「じゃあ頼むよ。朝、店へ来てくれ」


 男は店の場所を確認して帰っていった。


 父が帳場の向こうから俺を見る。


「前に営業したところ?」


「うん。初めて仕事来た」


「よかったね」


 その一言だけだった。


 俺は紙を受け取る。


 昨日とは別の店。


 少しずつ増えている気がした。



 その日の夕方。


 乾物屋の女主人が来た。


 手には見覚えのある紙を持っている。


「明日、アルネスへ五箱お願いしたいの」


 嬉しい。


 でも先に別の感情が出た。


 荷台の大きさを頭に浮かべる。


 革袋六つ。


 乾燥果物五箱。


 袋の大きさをまだ見ていない。


「朝から別のアルネス行きが入ってます」


「同じ方向なら一緒に行けない?」


「荷物を見てからなら」


「じゃあ見てみる?」


 すぐ店へ向かった。



 乾燥果物の箱は、いつもの大きさだった。


 五箱。


 これだけなら問題ない。


 あとは革袋。


「返事、少し待ってもらえますか」


「明日の朝までには決めてほしいわ」


「その前に必ず来ます」


 店を出る。


 もう夕方だ。


 革袋の店へ急ぐ。



 まだ閉まっていなかった。


 男は荷物を見せてくれた。


 六袋。


 一つ一つが思ったより大きい。


 中身は革の端材らしい。


 重さはそれほどでもない。


 ただ、かさばる。


 荷台を思い浮かべる。


 詰めれば入るかもしれない。


 でも、隙間まで押し込むような積み方になる。


 乾燥果物の箱の上に革袋を重ねるのも嫌だった。


 逆に箱を上へ置けば、今度は安定しない。


「明日、ほかにも荷物を積む予定なのか?」


 男が聞いた。


「はい。乾燥果物が五箱です」


「無理そうなら、うちを先に受けてるんだから気にしなくていいぞ」


 その言葉で少し楽になった。


「ありがとうございます。これは予定通り運びます」


「よろしく頼む」


 店を出た。


 乾物屋へ戻る。



 女主人はまだいた。


 俺の顔を見ただけで、何となく察したらしい。


「載らなかった?」


「入らないことはないと思います。でも、無理に積みたくないです」


「そう」


「明日の分は、すみません」


 口にした瞬間、思ったより悔しかった。


 せっかく向こうから来てくれた仕事だった。


 女主人は怒らなかった。


「仕方ないわね。急ぎじゃないから、別の人を探すわ」


「次なら――」


 言いかけて止める。


 次なら空いているとは限らない。


「また日が合えばお願いします」


「ええ。その時は早めに聞くわ」


 店を出る。



 通りを歩く。


 断った。


 たったそれだけなのに、妙に引っかかった。


 仕事がなかった頃は、荷物一つでも欲しかった。


 今は荷物があるのに、自分から断った。


 馬車一台。


 荷台一つ。


 ロイ一頭。


 当たり前のことなのに、今日はその大きさがやけに小さく見えた。



 翌朝。


 革袋を六つ積む。


 大きい。


 昨日見た時より、馬車へ載せるとさらに場所を取った。


「これに五箱は無理だな」


 兄が横から見て言う。


「頑張れば入りそうだけど」


「じゃあ入れれば?」


「やだよ」


 積めるだけ積むのと、ちゃんと運べるのは違う。


 昨日の判断は間違っていなかった。


 そう思っても、断った仕事が戻ってくるわけではない。


 縄を締める。


 荷物が袋なので、箱ほど形が揃わない。


 一つが沈めば隣も動く。


 途中で緩まないよう、何度か押して形を整えた。



 アルネスまでの道は順調だった。


 雨もない。


 門前も混んでいない。


 革袋を届ける。


 受け取り先では二人が出てきて、袋を倉庫へ運んだ。


「六つ、全部ある」


「中は確認しますか?」


「今日は数だけでいい。縛りも切れてないし」


 受け取りをもらう。


 昨日断った乾燥果物が頭をよぎった。


 もし載せていたら、今頃はもう一軒へ向かっていた。


 考えても仕方ない。



 帰り荷を探す。


 一軒目。


 ミレア方面はなし。


 二軒目で、小麦粉の袋が三つ見つかった。


 行き先はミレアの手前。


 受ける。


 まだ荷台には余裕がある。


 もう二軒回った。


 一つは方向違い。


 もう一つは荷物が大きすぎた。


 さすがにそこまで都合よくはいかない。



 小麦粉を三袋載せてアルネスを出る。


 行きは荷台いっぱいの革袋。


 帰りは三袋だけ。


 馬車は軽い。


 ロイも楽そうだった。


 でも、俺の気分は軽くならなかった。



 ミレアの手前で小麦粉を降ろし、受け取りをもらう。


 そこからは空荷で帰る。


 ベルナー商会へ着くと、父が荷台を見た。


「今日は帰り荷あったんだ」


「途中までだけど」


「十分じゃない?」


「まあね」


 父は俺の顔を見る。


「何かあった?」


 昨日の乾物屋の話をした。


 仕事が重なったこと。


 両方載せるのは嫌だったこと。


 先に受けた方を優先して、乾物屋を断ったこと。


 父は聞き終えてから、少しだけ考えた。


「それでいいんじゃない?」


「そうなんだけど」


「断るの嫌だった?」


「嫌だった」


 父はそこで笑わなかった。


「僕も嫌だよ」


「父さんも?」


「売れない時より、売れるのに渡せない時の方が悔しいこともあるからね」


 それだけ言って、店へ戻った。



 ロイの馬具を外す。


 背中を拭く。


 水を替える。


 いつもと同じことをしているのに、昨日からずっと乾物屋の五箱が頭に残っていた。


 荷台を掃く。


 空になった床は、朝よりずっと広く見えた。


 昨日は、狭く見えたのに。

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