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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第7章:熱狂の球根(バブル)と、空売りの魔術師

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シーン5:地下尋問室と、天才相場師の再就職(ヘッドハント)

王都の地下深くにひっそりと存在する、銀花銀行の『特別尋問室』。

窓一つない冷たい石造りの部屋の中央で、かつて王都を熱狂の渦に巻き込んだ天才相場師ユリアンは、椅子に縛り付けられ、恐怖に歯の根をガチガチと鳴らしていた。


彼の背後には、巨漢のガストンが腕を組み、仁王立ちで睨みを利かせている。


「ひ、ひぃぃ……! た、頼む、殺さないでくれ! 金なら返す! いや、今はないが、必ず別の相場を作って倍にして返すから!!」


紫色のスーツをボロボロにしたユリアンが、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをする。

重厚な鉄の扉が開き、そこに現れたのは、漆黒のコートを目深に被った私と、銀縁眼鏡を光らせるベルノだった。


「……倍にして返す? 呆れたわね。他人のお金(資本)でギャンブルをして負けた分際で、まだそんな寝言を言っているの?」


私が冷ややかな声で言い放つと、ユリアンはビクッと体を震わせた。


「お、お前が……銀花会議のトップか……! てめえ、よくも俺の完璧な計画を……!! 現物を大量に投下して市場をクラッシュさせるなんて、そんな反則(ルール違反)が許されると思って……!」


「ルール違反?」

私はフッと鼻で笑い、彼を見下ろす位置に立った。


「ルールを作っているのは私よ。……そもそも、現物の裏付け(バックアップ)もない空虚な『権利書』だけで、無限に相場が上がり続けると信じていたあなたの設計(デザイン)が三流だったのよ」


私は漆黒のコートのフードをバサリと脱ぎ捨てた。

現れたのは、冷酷な金融覇王の素顔――まだあどけなさの残る、十六歳の少女の姿だ。


「なっ……!? が、ガキ……!? お前みたいな小娘が、あの悪魔みたいな『空売り(ショート)』を仕掛けたっていうのか!?」

ユリアンは信じられないものを見るように目を剥いた。


「ええ、そうよ。私が全て計算して、あなたから市場の富を根こそぎ奪い取った。……ユリアン、あなたは投資家から集めた資金を全て失い、今や莫大な『借金』だけが残っているわね」


私はベルノから一枚の書類を受け取り、ユリアンの目の前に突きつけた。


「これが、あなたが抱え込んだ損失の総額よ。……さて、どうやって落とし前をつけてもらおうかしら。王都の地下水道で、死ぬまで強制労働(スライムの餌)にでもなる?」


「ひっ……!! 嫌だ、死にたくない! 頼む、なんでもする! 靴でも舐めるから、命だけは……!!」

ユリアンは完全にプライドをへし折られ、情けなく泣き喚いた。


私はその姿を冷徹に観察しながら、心の中で小さく舌を出した。

(ふふっ、完全に心が折れたわね。……でも、こんな頭の回る男をただの奴隷として使い潰すのは、資本(じんざい)の無駄遣いよ)


ユリアンは確かに詐欺師だが、市場の心理を読み、大衆の『強欲』を煽ってコントロールする手腕は本物だった。私がいくらシステムを作っても、今回のようにその隙を突いてバブルを引き起こすイレギュラーは今後も現れるかもしれない。

それなら……。


「……命だけは助けてほしいのね?」


私が静かに問いかけると、ユリアンは狂命に首を縦に振った。


「ええ、いいわ。死人に借金は返せないもの。あなたのその『大衆を騙す才能』、私が買い取ってあげる」


「え……?」

ユリアンが間の抜けた声を出す。


私はベルノに目配せをし、今度は『雇用契約書』と書かれた分厚い羊皮紙をテーブルの上に広げた。


「今日から、あなたを銀花銀行の『市場監視および高リスク資産運用部門』の特別顧問に任命するわ」


「は……? し、市場監視……?」


「そうよ。あなたは誰よりも、人間の強欲とバブルの仕組みを理解している。だから、これからは私の下で働き、王都の市場に現れる『あなたのような詐欺師(第二のユリアン)』をいち早く見つけ出し、事前に叩き潰すのがあなたの仕事よ」


いわゆる、毒を以て毒を制す。

最高のハッカーをセキュリティの責任者に雇うようなものだ。


「もちろん、給料は歩合制。成果を出せば、あなたが抱えた莫大な借金から少しずつ差し引いてあげる。……まあ、完済するまでには、ざっと『八十年』くらい無休で働くことになるでしょうけど」


「は、八十年……!?」

ユリアンが絶望に顔を引きつらせる。


「嫌なら、今すぐスライムの餌よ」

「や、やります!! 喜んで働かせていただきますぅぅぅ!!」


ユリアンは縛られたままの体をよじり、契約書に血判を押す勢いで頭を擦り付けた。


「よろしい」


私は満足げに頷き、ガストンに命じてユリアンの縄を解かせた。


「ベルノ、彼の部署の立ち上げと監査はあなたに任せるわ。少しでも不正をしようとしたら、即刻……分かるわね?」

「承知いたしました、会長。骨の髄まで、我が商会のために働いていただきましょう」

ベルノが銀縁眼鏡の奥で、ユリアン以上に悪魔的な笑みを浮かべる。


「あ、悪魔だ……。この商会は、人間の血が通ってねえ……」

ユリアンが床にへたり込み、ガタガタと震えながら呟いた。


「褒め言葉として受け取っておくわ。さあ、これからは銀花銀行の立派な『社畜(エリート)』として、私の平和な日常を守るために死ぬ気で働きなさい」


私はくるりと背を向け、漆黒のコートを翻して尋問室を後にした。


(やったわ! これで市場の面倒な監視業務を、タダ同然で丸投げできる『超有能な人材』をゲットできた! これで私の夏休みは、さらに完璧なものになるわね!)


冷酷な金融覇王の仮面の下で、究極のモブ令嬢は、自分がサボるための新たなシステムの完成に、心の底から歓喜のステップを踏んでいた。


大衆の熱狂を操った天才相場師は、こうして見えざる手によって完全に調教され、私が世界を怠惰に支配するための『新しい歯車』として組み込まれたのである。

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