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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第5章:重すぎる金貨と、紙の魔術(バンキング)

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シーン5:帝都上陸と、金本位制(ゴールドスタンダード)の崩壊

魔導機関車の開通から数ヶ月後。

私とレオンハルト公子は、豪華絢爛な装飾が施された帝国の特命船に乗り、大陸西部を統べる『ヴァレリウス通商帝国』の帝都・ヴァルハイドへと降り立っていた。


「……さすがは大陸一の経済大国。どこを見ても、嫌になるくらい金ピカね」


私は護衛用の地味な外套を羽織りながら、馬車の窓から帝都の街並みを見上げた。

道行く貴族たちの馬車は黄金の装飾で彩られ、建物の屋根にはふんだんに金箔が使われている。街全体が「我々はこれだけ本物の黄金(とみ)を持っているのだ」と力強く主張しているかのようだった。


「帝国の絶対的なプライドは、地下金庫に眠る莫大な『金塊』によって支えられているからね。彼らにとって、金(ゴールド)こそが神であり、唯一の正義だ」


向かいの席に座るレオンハルトが、自嘲気味に笑う。


私たちが帝都へやって来た目的はただ一つ。

『銀花銀行・帝都支店』の設立許可を、帝国の皇帝(あるいはその代理人)から直接もぎ取ることだ。


馬車はやがて、白亜の巨大な帝城へと到着した。

謁見の間に通された私たちを待ち受けていたのは、皇帝ではなく、実質的な政務を取り仕切る第一皇子――レオンハルトの異母兄である、マクシミリアンだった。


「……ほう。我が愚弟が、辺境の小国から『紙切れ』を売りつけに帰ってきたと聞いて、どんな顔をして笑ってやろうかと思っていたが」


豪奢な玉座にふんぞり返るマクシミリアン第一皇子は、酷薄な瞳で私たちを見下ろした。


「わざわざこんなガキの女商人を連れてくるとはな。レオンハルト、お前は本当に帝国の恥だ。その紙幣とやらも見たが、あんな燃えやすいゴミを『金貨と同じだ』と言い張るなど、狂人の戯言としか思えん」


マクシミリアンは、事前にレオンハルトが提出していた『銀花銀行券』の見本を、忌々しそうに床へ投げ捨てた。


「兄上、ご決断を。この銀行券を帝国の公式な決済手段として認めなければ、我が国はアークレインの圧倒的な物流スピードに置いていかれます。これは時代の……」


「黙れ!!」


マクシミリアンの怒声が謁見の間に響く。


「我々ヴァレリウスの富は、絶対不変の『金』によってのみ保証される! どこの馬の骨とも知れん小娘が刷った紙切れに、帝国の経済を委ねるだと? 笑わせるな! 銀行設立の許可など絶対に下ろさん! 即刻、この国から立ち去れ!!」


完全なる拒絶。

金本位制(ゴールドスタンダード)を信仰する保守派からすれば、私の紙幣システムは国家の根幹を揺るがす「詐欺」にしか見えないのだ。当然の反応である。


レオンハルトが焦りの表情を浮かべ、反論しようと口を開きかけた――その時。


「……そうですか。それは大変残念ですわ」


私はモブ令嬢の仮面を脱ぎ捨て、一切の感情を排した氷のような声で口を開いた。


「な、なんだ貴様。まだ何か言うことがあるのか?」


「許可が下りないというのなら、仕方ありません。銀行の設立は諦めて、大人しくアークレインへ帰りますわ。……ただし」


私は床に落ちていた銀行券の見本を拾い上げ、指先でピンと弾いた。


「本日この瞬間をもって、銀花会議は『帝国における全ての商品取引の決済』において、金貨の受け取りを完全に拒否いたします」


「……は?」

マクシミリアンが間の抜けた声を出す。


「お言葉ですが、第一皇子殿下。現在、帝国の商人たちが扱っている高級魔導具、特級ポーション、そして希少な魔物素材の『八割』は、我が銀花会議がアークレインから輸出しているものです」


私は一歩前へ出て、冷酷な笑みを浮かべた。


「明日から、私たちが輸出する商品は、全てこの『銀花銀行券(紙幣)』でしか買えなくなります。金貨を何万枚積まれようが、商品は一切お渡ししません。……欲しいものがあるなら、アークレインの王都本店まで金貨を持ってきて、この『紙切れ』と交換してから出直してきてくださいな」


「なっ……!? き、貴様、たかが一介の商会が、大帝国の商流を止めるというのか!!」


「ええ、止めます。……だって、重い金貨なんて馬車で運ぶのも数えるのも面倒なんですもの」


私はドレスの裾を翻し、優雅にカーテシー(淑女の礼)をして背を向けた。


「では、第一皇子殿下。……帝国の商人たちが『どちら』を選ぶか、高みからゆっくりと見物させてもらいましょう」


私は呆然とするレオンハルトの袖を引き、謁見の間を足早に後にした。


***


それから、わずか三日後のことである。


「た、大変です、第一皇子殿下!!」

帝城の執務室に、財務官が血相を変えて飛び込んできた。


「どうした、騒々しい! アークレインの小娘が泣きを入れてきたか?」


「ち、違います!! 帝都中の商人たちが……大商人から末端の小売商まで、一斉に国庫の金庫にやって来て、『持っている金貨を全てアークレインへ送金しろ』と暴動寸前の騒ぎを起こしております!!」


「なんだと!?」

マクシミリアンは立ち上がり、信じられないという顔で財務官の胸ぐらを掴んだ。


「ど、どういうことだ! なぜ帝国の商人たちが、自国から金貨を持ち出そうとしている!」


「ア、アークレインの物資が完全にストップしたからです! 薬師ギルドにはポーションがなくなり、魔導具屋は空っぽ……。彼らは商売を続けるために、どうしても『銀花銀行の紙幣』を手に入れなければならないのです!!」


財務官の悲痛な叫びは、マクシミリアンの理解を超えていた。


「だからといって、帝国の誇りである金貨を、あんな胡散臭い紙切れと交換する馬鹿がいるか!!」


「背に腹は代えられないのです! しかも、銀花会議は『今なら金貨と紙幣の交換手数料を無料にする』というキャンペーンまで打ち出しており……商人たちは『金貨を抱えて店を潰す』より『紙幣を手に入れて商売を続ける』ことを選んだのです!!」


これが、基軸通貨を握る者の絶対的な暴力だ。

商品(モノ)を独占している私が「この紙でしか売らない」と宣言した瞬間、紙幣はただの紙切れではなく『生存に不可欠なチケット』へと変わる。


商人たちにとって、国家のプライドや金本位制のイデオロギーなど知ったことではない。目の前の利益と生活を守るためなら、彼らは喜んで自国の金貨を売り払い、私の紙幣を求めるのだ。


「ば、馬鹿な……。では、今、帝国の金貨は……」


「はい……! この三日間で、帝都市中に出回っていた金貨の実に『六割』が、アークレインの銀花銀行本店へと流出(キャピタル・フライト)しました! 帝国の経済は完全に干上がっております!!」


「……っ!!」


マクシミリアンは絶望に目を剥き、その場に崩れ落ちた。

軍隊を動かしたわけでも、魔法を撃ち込んだわけでもない。ただ「決済通貨を指定した」だけで、大帝国の富は瞬く間に国境を越え、私の地下金庫へと吸い上げられてしまったのである。


***


同時刻。

帝都の港に停泊している特命船のVIPルームで、私はグラスに注がれた葡萄水を優雅に傾けていた。


「……報告によれば、帝国の市場から金貨が完全に姿を消し、大パニックが起きているそうだね」

レオンハルトが、窓の外の混乱する帝都を見つめながら、畏怖の念を込めて呟く。


「当然よ。国家の富(血液)を一気に抜かれたんだから、急性の貧血を起こして倒れるに決まっているわ」


私はグラスを置き、冷酷な商会主の顔で微笑んだ。


「でも、私は優しいから。死にかけの帝国に、ちゃんと『輸血』をしてあげる準備はあるわ」


「輸血……まさか」


「ええ。帝国の国庫に眠っている全ての金塊を担保として私に差し出すなら……帝国の市場に、必要なだけの『銀花銀行券』を融資(貸し付け)してあげる。そうすれば、経済はまた元通りに回るわ」


レオンハルトは息を呑んだ。

それはつまり、ヴァレリウス帝国が完全に通貨発行権を失い、アークレインの(私の)経済圏に完全に飲み込まれるという『無条件降伏』を意味していた。


「さあ、第一皇子殿下が白旗を上げるまで、もう少し帝都観光を楽しみましょうか。……次のお買い物は、国家を丸ごと一つ、よ」


モブ令嬢の静かでえげつない経済侵略は、何万の軍勢よりも確実に、大帝国の息の根を止めようとしていた。

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帝国からの輸出品の対価を紙幣で受け取って、それを支払いに回せば良いのでは…
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