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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第3章:戦場の血脈は、商人が握る

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シーン8:王都凱旋と、猛将の『宗旨替え』

災害級魔物『暴君蜘蛛』の討伐から二週間後。

王都アークレインの大通りは、建国以来最大の熱狂と歓声に包まれていた。


「おおおっ! 遠征軍の帰還だぞ!」

「バンザイ! 王国軍バンザイ!!」


東部辺境への魔物討伐遠征を終え、王都へ凱旋するバルザック辺境伯率いる三千の軍勢。

通常、辺境の魔物討伐といえば、帰還する兵士の数は出発時の半分以下に減り、重傷者を乗せた荷馬車が重苦しい列をなす「死の行軍」となるのが常だった。残された家族たちが、遺髪や形見の品を抱いて泣き崩れるのが、王都の悲しい春の風物詩ですらあった。


しかし、今日の凱旋パレードは、かつての常識を根底から覆す異様な光景だった。


「おい、見ろよ……兵士たちのあの顔。傷一つないどころか、出発前より血色が良いぞ!?」

「それに、なんだあの荷馬車の列は!? あれ、全部魔物の素材じゃないか!」


行進する歩兵たちの足取りは力強く、その顔には悲壮感など微塵もない。彼らの腰には特別ボーナスとして支給された金貨の袋がジャラジャラと鳴り、誰もが誇らしげに胸を張って王都の民衆に手を振っている。

そして彼らの後ろには、解体された魔物の皮、牙、爪、魔石が山のように積まれた荷馬車が、延々と数十台も連なっていた。


もはやそれは軍隊の凱旋というよりも、大成功を収めた超巨大な「交易商隊(キャラバン)」の帰還だった。


「……信じられないわ。死者がたったの数名なんて」


私は大通りを見下ろす、商会が所有する高級ホテルの貴賓室から、紅茶のカップを片手にその光景を静かに眺めていた。


「会長の構築した『影の兵站線』と、あの災害級魔物を一瞬で消し飛ばした特級錬金爆薬の賜物です。……まさに、歴史を塗り替える完璧な勝利でしたね」


背後に控えるベルノが、銀縁眼鏡の奥で感嘆の息を漏らす。


「ふふっ。でも、一番歴史を塗り替えられたのは、あの先頭を歩く猛将様かもしれないわね」


私の視線の先。

軍の先頭で白馬に跨る東部の総司令官、バルザック・ド・レグナント辺境伯。

彼はかつてのような傲慢で血統至上主義的な顔つきではなく、どこか憑き物が落ちたような、極めて実務的で冷静な指揮官の顔つきになっていた。


「きゅんっ」

窓辺に座っていたルンが、バルザックを指差して鳴く。


「ベルノ、今回の遠征での『銀花会議』の最終的な純利益は?」


私が尋ねると、ベルノは手元の分厚い革張りの帳簿を開いた。


「軍への正規物資の販売益、魔物素材の王都での独占転売益、そして……辺境伯閣下への『VIP向け特別防衛オプション』の請求分を含めまして。純利益は、金貨およそ三十万枚。我が商会の共同基金は、もはや国家予算の三分の一に匹敵する規模に膨れ上がりました」


「上出来ね」


私は満足げに頷き、紅茶を一口含む。


「それに、今回の最大の収穫は目先の金貨じゃないわ。……バルザック辺境伯が、東部辺境の主要街道における『独占交易権』と『五年間関税免除』の契約書を正式に王国に提出し、受理されたことよ」


「はい。これにより、東部の豊かな資源は全て我々の商会を通過することになります。……しかし会長、あの気位の高い保守派の筆頭である辺境伯が、よく大人しく全ての権益を我々に明け渡しましたね」


ベルノの疑問に、私はクスクスと笑い声を漏らす。


「大人しく、なんてものじゃないわ。……ほら、これを見て」


私はテーブルの引き出しから、王家の蝋封とは違う、レグナント辺境伯家の厳々しい紋章が押された一通の手紙を取り出した。

それは今朝、私の元へ極秘裏に届けられた、バルザック本人からの親書だった。


『――偉大なる銀花会議会長、リリア・アルフェイド殿。

この度の遠征における貴殿の采配、そして圧倒的な物資と資本の力に、私は己の浅薄な精神論を心より恥じ入るばかりである。

戦場の血脈とは、気合や血統ではなく、冷徹な計算と完璧な物流によってのみ保たれる。その真理を、私は兵士たちの命をもって学ばせていただいた。


つきましては、我が東部領の財政管理および、領地開発のマスタープランの策定を、全て貴商会に一任したい。我々レグナント家は、以後、貴殿の経済圏の忠実なる「盾」として機能することをお約束する――』


ベルノが手紙を読み終え、絶句して固まった。


「し、完全に……あの軍閥のトップが、会長に平伏しているではありませんか……!」


「精神論で腹は膨れないって、骨の髄まで理解させたからね」


私は手紙をパタンと閉じ、引き出しの奥へしまう。


「これで、財務院を牛耳っていたヴァルターに続き、軍部を牛耳るバルザックも私の掌の上に乗った。……王妃殿下への約束通り、王国の経済と武力は、完全に私たちの商会(エコシステム)に組み込まれたわ」


「会長……あなたは本当に、十六歳の少女なのですか? やっていることが、建国神話の覇王のそれです」


「失礼ね。私はどこにでもいる、平和を愛する可憐なモブ令嬢よ」


私はふざけてウィンクをして見せると、ソファから立ち上がり、ハンガーに掛けてあった学園指定の紺色のブレザーに袖を通した。


「さて、私の『重度の流行り風邪』も、そろそろ完治したことにして登校しないとね。お友達に心配をかけちゃうわ」


「……その可憐なモブ令嬢は、カバンの中に特級錬金爆薬を忍ばせて登校したりしませんよね?」


「やだ、ベルノったら。学校に爆薬なんて持っていくわけないじゃない。……護身用の毒針と、暗殺者用の麻痺ポーションくらいよ」


「それが普通じゃないと言っているんです……」


ベルノの深い溜息を背中で聞きながら、私は愛用の通学鞄にルンを滑り込ませた。


窓の外では、依然として凱旋パレードの歓声が王都の空に響き渡っている。

誰も知らない。この熱狂的な勝利の裏側で、一人の地味な令嬢が戦場のルールを根本から書き換え、莫大な利益と共に国家の心臓を完全に掌握したことを。


(軍事も、政治も、結局のところ行き着く先は『経済(おかね)』よ。……この王国の血脈は、もう誰にも渡さないわ)


私はモブ令嬢の無害な微笑みを完璧に顔に貼り付け、凱旋の喧騒を背に、平和な学園の教室へと向かって歩き出した。

銀花会議の次なる標的は、国内から国境の向こう側――諸外国の巨大な市場へと、すでに狙いを定め始めていた。

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