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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第3章:戦場の血脈は、商人が握る

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シーン6:最前線の解体部隊と、魔物という名の「資源」

進軍開始から二週間。

東部辺境の最深部、魔物たちの巣窟である『黒大樹の森』の入り口に、我々銀花会議が構築した前線基地(兵站拠点)はあった。


「第二大隊、帰還! 負傷者三名、すぐに治療用テントへ!」

「剣の刃こぼれが酷い! 予備の長剣と交換を頼む!」

「おう、熱いスープと特製パンが沸いてるぞ! 順番に並べ!」


前線から数キロしか離れていないにも関わらず、基地内は驚くほど機能的で、そして活気に満ちていた。

戦場から泥と血にまみれて帰還した兵士たちは、すぐに石鹸で手を洗い、魔力草の軟膏を塗り込み、熱々の戦闘糧食を胃に流し込む。欠けた武器は、待機している鍛冶ギルドの職人たちが瞬時に予備と交換し、その場で研ぎ直しを始める。


補給と休息のサイクルが完璧に回ることで、遠征軍の致死率は歴代の討伐戦と比べても異様なほどの低さを維持していた。


私は基地の小高い丘に設営した自分の天幕から、その完璧な「戦場の血脈」を見下ろして満足げに頷いていた。


「……会長。前線の部隊が、大型の『鉄甲熊(アイアンベア)』を三頭討伐したようです。これでこのルートの脅威はほぼ排除されました」


ベルノが分厚い帳簿を抱えながら報告に上がる。


「そう。バルザック辺境伯の指揮は、補給さえ万全なら確かに優秀ね。……ところでベルノ、その討伐した鉄甲熊の死骸はどうしているの?」


「はっ。基本的にはそのまま放置するか、悪臭を防ぐために深い谷底へ蹴り落としているとのことです。高貴な騎士たちにとって、魔物の死体を漁るなど『卑しい行為』だそうですから」


その言葉を聞いた瞬間、私のこめかみにピキリと青筋が立った。


「……谷底へ、蹴り落としている?」


「は、はい。何か問題でも……?」


「大ありよ!!」


私は天幕の椅子からガタッと立ち上がり、漆黒のコートを翻して叫んだ。


「鉄甲熊の毛皮が王都の防寒具市場でどれほどの高値で取引されているか知っている!? 爪は良質な武具の素材になるし、肝は強壮剤の特効薬よ! それを……谷底に捨てるですって!? まるで金貨の山をドブに投げ捨てているようなものじゃない!!」


私の烈火の如き剣幕に、ベルノはビクッと肩を跳ねさせた。

前世の記憶と商人としての魂を持つ私からすれば、未開拓の魔物生息域は「宝の山」そのものだ。それを「卑しい」の一言で捨てるなど、万死に値する愚行である。


「ベルノ! 今すぐ前線の全部隊に布告を出しなさい! 『魔物素材の特別買い取り制度』をスタートするわ!」


「か、買い取り制度、ですか?」


「ええ! 討伐した魔物の死骸を、状態良く基地まで持ち帰った部隊には、その場で『現金』か『特別嗜好品(高級酒やタバコ)』のボーナスを支給するの。同時に、王都からなめし革職人と解体屋のギルドをありったけ呼び寄せなさい!」


私の容赦ない指示に、ベルノは顔を引きつらせながらも即座に手配に走った。


数時間後。

前線基地の一角は、信じられないほどの熱気に包まれていた。


「おい、この毒尾蠍(ポイズンスコーピオン)の甲殻、傷が少ねえから銀貨三枚で買い取ってくれたぞ!」

「マジかよ!? よし、次の戦闘はなるべく胴体を傷つけないように、関節だけを狙って仕留めるぞ!」


高貴な誇りを重んじていたはずの騎士や歩兵たちが、目の前で支払われる「現金ボーナス」の魅力にあっさりと陥落していた。

彼らは血眼になって魔物を狩り、その死骸を荷車に乗せて意気揚々と基地へ持ち帰ってくる。もはやそれは聖戦というよりも、巨大な「狩猟ビジネス」の様相を呈していた。


持ち込まれた魔物は、私が手配した解体職人たちによって次々と解体されていく。

血抜きされ、皮を剥がれ、部位ごとに防腐処理を施されて木箱に詰められる。基地の裏手には、あっという間に高価な魔物素材の山が築かれていった。


「……き、貴様らぁぁっ!! ここをなんだと思っている!!」


そこへ、最前線で指揮を執っていたバルザック辺境伯が、血相を変えて怒鳴り込んできた。

彼は巨大な鉄甲熊を解体している職人たちと、金貨を受け取ってホクホク顔の部下たちを見て、顔を真っ赤にして私を睨みつける。


「アルフェイドの小娘! 王家の威信を懸けた聖戦の陣地を、薄汚い屠畜場(とちくじょう)に変える気か! 騎士たちに小銭を握らせて、誇りを穢すとは何事だ!」


バルザックが腰の剣に手をかけんばかりの勢いで詰め寄ってくるが、私は一切動じず、懐から一枚の羊皮紙を取り出して彼の胸に押し付けた。


「怒る前に、これを見てちょうだい。辺境伯閣下」


「なんだこれは……『損耗率レポート』?」


「ええ。買い取り制度を始めてからの、あなたの部隊の負傷率の推移よ」


バルザックは羊皮紙に目を落とし、そして絶句した。

そこには、今日の午後から部隊の負傷率が劇的に低下しているデータが記されていたのだ。


「魔物の素材を高く売るためには、無駄な乱戦を避けて、罠や連携を使って綺麗に仕留める必要がある。……結果として、兵士たちは無謀な突撃をやめ、極めて冷静かつ効率的な戦闘を行うようになった。おまけに、小遣い稼ぎで士気は最高潮よ」


私はふわりと微笑み、バルザックの目を真っ直ぐに見据える。


「戦争はただの殺し合いじゃない。莫大な利益を生み出す巨大な『生産工場』にだって変えられるの。……兵士は死なず、懐も潤い、私の商会は莫大な資源を手に入れる。誰一人損をしていないわ。違うかしら?」


「……っ」


バルザックは、手に持った羊皮紙と、遠くで嬉しそうに高級酒の瓶を傾ける部下たちの姿を交互に見つめ、ギリッと奥歯を噛み締めた。

伝統的な騎士の誇りか、それとも現実的な部下の命と利益か。


「……貴様という奴は、本当に、血も涙もない徹底した商人だな。魔物の命すら、金貨の重さでしか計れんのか」


「ええ、最高の褒め言葉として受け取っておくわ」


バルザックは深い溜息を吐き出し、ついに反論を諦めて踵を返した。

「……背後の汚れ仕事は貴様に任せる。だが、前線の戦闘の邪魔だけはするなよ」


「もちろんですわ、辺境伯閣下」


私は優雅なカーテシーで彼を見送る。


「きゅるっ!」

私の足元で、ルンが解体作業からこぼれ落ちた魔力草の欠片を齧りながら、満足そうに鳴いた。


(これで、東部の希少な魔物素材の流通ルートも完全に独占できた。ポーションの新薬開発も進むし、王都の貴族向けに新しい魔獣革のバッグでもデザインさせようかしら)


戦場の生々しい血の匂いの中で、私は莫大な利益が流れ込んでくる計算式を頭に思い描き、モブ令嬢の仮面の下で深く、そして冷酷に笑った。

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