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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第3章:戦場の血脈は、商人が握る

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シーン2:影の兵站線(シャドウ・ライン)と、生の商人

数日後。

再び招集された五大商会の代表たちは、円卓の上に広げられた東部辺境の巨大な立体地形図を前に、呆然と立ち尽くしていた。


「……会長。我々が、軍の正規の補給部隊の『裏』をかいて、並走するように秘密の補給線を構築する……と?」


バルトが、信じられないものを見るような目で私に問いかける。


「ええ、そうよ。名付けて『影の兵站線(シャドウ・ライン)』」


私は漆黒のコートの袖をまくり、指示棒の先端で立体地形図の東部山岳地帯に点在するポイントをトントンと叩く。


「バルザック辺境伯が率いる三千の遠征軍は、旧街道を通って山脈の魔物生息域へ向かう。彼らの正規の補給部隊は、重くて遅い大型馬車に頼り切っているわ。しかも、物資の大部分を現地の農村からの強制徴発で賄うという泥棒のような計画よ」


私は指示棒を置き、代表たちを冷徹に見回す。


「春とはいえ、東部の山岳地帯の天候は変わりやすい。雨で街道がぬかるめば、大型馬車は確実に立ち往生する。そして、貧しい辺境の農村に、三千人分の食料を差し出す余裕なんて最初からない。……つまり、遠征軍の補給線は、戦場に着く前に自壊するわ」


「は、ははぁ……。そこで、我々の出番というわけですね」


食料部門のガストンが、太い指で顎の肉を撫でながら、商人の悪辣な笑みを浮かべる。


「その通りよ、ガストン。彼らが飢えと寒さで絶望し、プライドを投げ捨てて地に這いつくばった時、私たちが背後から『完璧な物資』を積んだ手押し車とラバの部隊を引き連れて登場するの。……彼らは命を繋ぐためなら、水一杯に金貨を払うわ」


「素晴らしい! さすがは会長、まさに究極の便乗商法!」


「ただの便乗じゃないわ。彼らに売りつけるのは、極限状態で兵士の命を百パーセント守り抜くための『本物』よ」


私はガストンの軽口を冷たく切り捨て、具体的な指示を飛ばし始める。


「ガストン。普通の小麦粉や硬い黒パンは不要よ。兵士が歩きながらでも食べられて、高カロリーを素早く摂取できる『戦闘糧食(コンバット・レーション)』を開発しなさい」


「せ、戦闘糧食、ですか?」


「ええ。オーツ麦とドライフルーツ、砕いたナッツを蜂蜜と少量の油で固めて、オーブンで極限まで水分を飛ばすの。レンガみたいに硬くなるけれど、日持ちは抜群だし、一片かじるだけで半日は動けるわ。それを防水の蝋紙(ろうがみ)で一つずつ個包装しなさい」


「おおお……! 嵩張らず、腐らず、高栄養。まさに戦場のための食料!」

ガストンが目を輝かせてメモを取る。


「バルト、あなたにはポーション以外のものも作ってもらうわ。東部の春山は、夜になれば氷点下まで冷え込む。前線で一番怖いのは魔物の牙じゃない、兵士の足の指が腐り落ちる『凍傷』よ」


「凍傷……! 確かに、過去の遠征でも、戦闘の前に寒さで足をやられて脱落する兵が後を絶たないと聞いております」


「東部の猟師たちが使っている獣脂をベースに、保温効果の高い魔力草のエキスを練り込んだ『防寒軟膏』を大量に精製しなさい。それと、毒虫や毒蜘蛛対策の広域解毒剤。これは絶対に切らさないこと」


「承知いたしました! 直ちに薬師ギルドの総力を挙げて生産ラインを組みます!」


私は最後に、美容部門のマダム・セリアへと視線を向ける。


「セリア。あなたの部門には関係ない話だと思っているかしら?」


「えっ? いえ、その……戦場に化粧水や香水は必要ありませんし、わたくしは後方支援で資金の調達を……」


「とんでもない。あなたの部門の力が、この遠征の致死率を劇的に下げる鍵になるわ」


私の言葉に、セリアだけでなく、他の代表たちもポカンと口を開ける。


「戦場において、直接の戦闘よりも恐ろしいのは、野営地の不衛生から来る『感染症』よ。泥まみれの服、血のついた手、洗われない体。……セリア、あなたの工房で、香料を一切抜いた『純石鹸』と、強い殺菌作用を持つハーブをアルコールに漬け込んだ『携帯消毒液』を大量に作りなさい」


「……っ! 石鹸と、消毒液……!」


「兵士たちに、食事の前と傷の手当ての前に、必ず石鹸で手を洗わせるの。それだけで、野営地での病死者の数は半分以下に減るわ。……貴族の令嬢を美しく飾るための技術で、泥にまみれた兵士の命を救いなさい。できるわね?」


セリアの瞳に、雷に打たれたような強烈な感動の光が宿る。


「……はいっ! わたくしたちの技術が、戦場で命を救う……! なんという誇り高い仕事でしょう。美容部門のプライドにかけて、最高の衛生キットを揃えてみせますわ!」


「頼んだわよ。……ベルノ、あなたは暗部を使って、軍の進軍ルートから一つ山を挟んだ裏道に、物資の中継拠点となる『ダミーの木こり小屋』や『廃坑』をいくつか買い上げなさい。補給部隊の輸送には、山歩きに慣れた東部の猟師や山賊まがいの連中を裏金で雇うのよ」


「承知いたしました。正規軍の目には一切触れさせず、必要な時にだけ現れる『幻の補給隊』を編成いたします」


代表たちが一斉に動き出す。

彼らの顔には、戦争という国家の一大事業すらも自分たちの掌の上で転がすという、商人としての野心と、確かな使命感が入り混じっていた。


「きゅんっ!」

ルンが私の肩の上で、まるで指揮官のように小さな前足を振り上げる。


「バルザック辺境伯は、私たち商人を『卑しい寄生虫』だと見下しているわ」


私は誰もいなくなった円卓の地図を見下ろし、冷たい微笑を浮かべる。


「でも、戦場の血脈(ロジスティクス)を握っているのは私たちよ。彼が自分の愚かさに気づき、雪の中で膝を突いて助けを求めてきた時……商人の『本気』というものを、骨の髄まで味わわせてあげるわ」


命を救うためなら、どんな泥臭い手でも使う。

しかし、その対価は、彼らの高慢なプライドごと、金貨の山としてきっちりと回収する。


死を売る『死の商人』ではない。

私は、法外な値段で絶対に命を繋ぐ『生の商人』として、東部の戦場に臨む覚悟を決めていた。

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