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学園モブキャラな一代限りの騎士爵令嬢ですが、王都の商会はすべて支配しています。~前世知識で作る化粧品とポーションが規格外すぎて、王族も貴族も手放せません~  作者: はりねずみの肉球
第2章:差し押さえられた商品は、王都を救う命綱でした

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シーン15:特務監査隊の強襲と、絶対の『勅命』

王都の端に位置する、アルフェイド騎士爵家の小さな屋敷。

普段は温かな魔力灯の光に包まれているその静かな空間は、今や無数の松明の赤い炎と、殺気立った黒い軍服の集団によって完全に包囲されていた。


「ガイウス・アルフェイド! 扉を開けろ! 貴様には国家への反逆、および違法な魔薬製造の疑いがかけられている!」


屋敷の玄関先で、特務監査局長バウマンが傲慢な声を張り上げる。

彼の手には抜き身の剣が握られ、その後ろには完全武装した五十名の監査隊員が、いつでも屋敷に踏み込めるよう武器を構えて待機している。


「……事前の通告も、正規の礼状もない深夜の訪問とは。財務院の犬は、ずいぶんと行儀が悪いようだな」


分厚い木製の扉が内側から開き、一人の大柄な男が姿を現す。

私の父、ガイウス・アルフェイド。

彼は平服のままだが、その手にはかつて近衛騎士として王宮で振るっていた長剣が握られている。彼の背後には、短剣を構えたトマが青ざめた顔で立っていた。


「吠えるな、没落騎士が。我々は財務卿閣下の直命で動いている。……おとなしく剣を捨て、娘の居場所を吐け。お前たちが裏で王都の経済を牛耳り、不当に利益を貪っていた証拠はすでに上がっているのだ」


バウマンが冷酷に笑う。


「娘の居場所だと?」


父の目が、スッと細められる。その瞬間に放たれた歴戦の騎士の殺気に、バウマンを含めた前列の兵士たちが思わず一歩後ずさる。


「私の娘は、ただ学園に通う心優しい普通の令嬢だ。お前たちのような薄汚い権力争いに巻き込むつもりはない。……ここから先へ一歩でも踏み入るというのなら、王から賜ったこの剣で、貴様らを一人残らず斬り伏せる」


父は長剣の切っ先を、バウマンの鼻先へとピタリと突きつける。

たった一人。しかし、その背中は巨大な城壁のように微動だにしない。


「……っ、馬鹿め! 時代遅れの老兵一人が、五十の兵を止められると思っているのか! やれ! 抵抗するなら斬り捨てて構わん!」


バウマンが屈辱に顔を歪め、部下たちに突撃の号令を下した。

監査隊の兵士たちが雄叫びを上げ、父に向かって殺到しようとした――まさにその瞬間。


――ドドドドドドッ!!!


王都の石畳を揺るがす、凄まじい地鳴りのような馬蹄の音が、屋敷の周囲に響き渡った。


「な、なんだ!?」


バウマンが背後を振り返る。

暗闇の中から姿を現したのは、松明の光を反射して白銀に輝く、美しい甲冑に身を包んだ騎馬隊。

王家の紋章を掲げた、王国最強の武力集団――『王家直属近衛隊』の一個中隊だった。


「こ、近衛隊だと!? なぜ、近衛隊がこんな辺境の騎士爵邸に……!」


混乱するバウマンの前に、白銀の馬車が静かに滑り込んで停車する。

バタン、と馬車の扉が開き、そこから降り立った人物を見て、バウマンは信じられないというように目を剥いた。


「……そこまでよ、バウマン局長」


夜の闇の中、紺色の学園指定のブレザーを着た一人の少女。

私だ。

私は近衛隊長を従え、ヒールの音を響かせながら、黒い軍服の監査隊を真っ二つに割るようにして前へと進み出る。


「リリア!」

父が驚きの声を上げる。


「きゅんっ!」

私の鞄の中からルンが顔を出し、父に向かって無事を知らせるように鳴く。


「な、なぜお前が近衛隊を連れている……!? 貴様ら、相手はただの騎士爵の娘だぞ! 我々は財務卿閣下の命で動いているのだ、邪魔立てするなら……」


「邪魔立て? 勘違いしないでちょうだい」


私はバウマンの言葉を冷たく遮り、コートのポケットから一つの銀の筒を取り出す。

そして、その中から王家の封蝋が押された真新しい羊皮紙を引き抜いた。


「私は邪魔をしに来たのではないわ。王都の法と秩序を、正当な持ち主の元へ戻しに来たのよ。……近衛隊長!」


「はっ!」


私の声に応え、白銀の鎧を着た近衛隊長が一歩前へ進み出た。彼は信じられないほどよく通る声で、その場にいる全員に聞こえるように宣告した。


「王妃イザベラ殿下より、勅命である!!」


『勅命』。

その絶対的な二文字が響いた瞬間、バウマンの監査隊の兵士たちが、まるで雷に打たれたように動きを止め、次々とその場に武器を捨てて片膝をついた。


「な……っ!? ちょ、勅命だと!? 嘘だ、そんなもの……!」

バウマンだけが、状況を理解できずに立ち尽くしている。


私は羊皮紙を広げ、月明かりと松明の光の下で、その文面を冷徹に読み上げる。


「『財務卿ヴァルター・グレイスの独断による、第三区画中央倉庫の封鎖を即時解除すること。……ならびに、王都の物流を不当に阻害し、越権行為を行った特務監査局長バウマンの身柄を、直ちに拘束すること』」


「……っ!!」


バウマンの顔から、完全に血の気が失せた。


「以上よ。近衛隊、この愚か者を捕らえなさい」


「ははっ!!」


私の命令と同時に、近衛兵たちが一斉に動き出す。バウマンは抵抗する間もなく、屈強な兵士たちによって両腕をねじ上げられ、石畳の上に顔を押し付けられた。


「ば、馬鹿な……! 私が、財務院の監査局長が、こんな小娘の持ってきた紙切れ一枚で……! ヴァ、ヴァルター閣下! 閣下に連絡を……!!」


バウマンが泥に顔をまみれさせながら絶叫するが、私はその頭上から冷ややかに見下ろす。


「ヴァルターに連絡しても無駄よ。王妃殿下は、彼にも『王宮への強制出頭』の命令を出されているわ。……あなたたちの主人は、もうあなたたちを守ってくれない。国家の刃を私怨で振り回した代償を、暗く冷たい牢獄の中でゆっくりと支払いなさい」


「ひっ……!」


私の氷のような声と、一切の感情を排した絶対零度の瞳に見下ろされ、バウマンはついに完全に心が折れ、ガタガタと震え始めた。

彼はそのまま近衛兵たちによって引きずられ、罪人用の護送馬車へと放り込まれていった。指揮官を失った監査隊の兵士たちも、武装を解除され、近衛隊の監視下に置かれる。


圧倒的な暴力による包囲網は、たった一枚の『勅命』と、モブ令嬢の冷徹な一言によって、完全に瓦解したのだ。


「……リリア」


危険が去ったのを確認し、父が剣を鞘に収めて私に駆け寄ってくる。

その目には、安堵と、そして今まで見たこともないほど成長した娘への驚きが入り混じっていた。


「お父様。トマ。……遅くなってごめんなさい。もう大丈夫よ」


私が緊張の糸を解き、ふわりといつもの娘の顔に戻って微笑むと、父は大きな手で私の頭をガシガシと撫で回した。


「はははっ! 遅いどころか、これ以上ない完璧なタイミングだ! まさか、本当に王妃殿下から勅命を勝ち取ってくるとはな。私の自慢の娘は、剣を持たずとも王国最強の騎士だ!」


「もう、お父様ったら。髪がくしゃくしゃになっちゃうわ」


私は苦笑しながらも、父の手の温もりと、守り抜いた家(アルフェイド)の平穏に、心の底から安堵のため息を吐いた。


「きゅるるー!」

ルンも鞄から飛び出し、父の肩に登って誇らしげに胸を張っている。


「お嬢様、本当にお怪我はありませんか? 私はもう、生きた心地がしませんでしたよ……」

トマがへたり込みながら涙ぐんでいる。


「心配かけてごめんなさいね、トマ。……でも、まだ完全に終わったわけじゃないわ」


私は父の腕から抜け出し、再び王都の中心、暗闇にそびえ立つ白亜の王城の方角へと視線を向ける。


バウマンを捕らえ、中央倉庫の封鎖を解いた。

王妃の力で、財務院の武力行使は完全に無力化された。

これで、銀花会議の流通は明日から完全に復活する。私の商会は、再び王都の血流を支配するのだ。


(残るは……全ての元凶、ヴァルター・グレイス。王妃殿下の前に引きずり出された彼が、どう言い逃れをするか。……いえ、言い逃れなんてさせないわ。私が直接、彼を論破して、二度と私たちの商会に手出しできないように完全に社会的に息の根を止めてやる)


「お父様。私、明日もう一度王宮へ行くわ。……王都の経済を止めようとした愚か者に、商人としての最後の『請求書』を叩きつけるために」


私の言葉に、父は力強く頷いた。


「ああ、行け、リリア。お前の築き上げた『信用』と『知恵』が、理不尽な権力よりも強いということを、証明してこい」


夜風が、私のブレザーの裾をパタパタと揺らす。

モブ令嬢の長い長い反撃の夜が終わり、完全なる勝利の朝が、すぐそこまで迫っていた。

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