4.スウィンデル家の防衛
修道院の応接室は、信者から巻き上げた寄付金で整えられたマホガニーの調度品が並び、無駄に居心地が良かった。アヴァリスはソファーに深く腰掛け、目の前に座るサブリナを、値踏みするような目で見つめていた。
サブリナは、小さく折りたたんだ日傘を膝の上に置き、琥珀色の瞳をまっすぐに向けた。
「院長様、本日は我が家の愛すべき弟、シドニーの件でお伺いいたしました。あの子、昨夜からずっと、裏庭で拾ったような小石を抱いて眠っているのです。お小遣いを全てお渡しした代わりに、それをいただいたと申しておりまして。それで、あの……もしよろしければ、修道院の寛大な心で、ほんの一部でも寄付金をお戻しいただけないかと……」
アヴァリスは、上品に仕立てられたレースのハンカチで目元をぬぐう真似をした。
「まあ、サブリナ様。お気の毒に、まだお若いのに現実が見えていらっしゃらないのね。あの子が神へ捧げたのは、失われたお母様の魂を救うための尊い『誠意』です。すでに祭壇へ奉納された清き財貨を、個人のご都合で返せなどと……神への冒涜になりかねませんわ」
「…明日のパン代にも困っている我が家の現状をお伝えしても、でございますか?」
サブリナが困り果てたように眉を下げると、アヴァリスの目が一瞬、鋭く光った。
「困窮されている? かつての大富豪スウィンデル家が、まさか!お屋敷には、まだ先代から受け継いだ素晴らしい芸術品や、歴史ある調度品が残されているのでしょう? たとえば、王都のオークションで高値がつくような名画とか」
「いいえ、とんでもない!二年前の災難で、ほとんどの品は売り払ってしまいましたわ。今や応接室の壁に、小さくて古ぼけた、何の価値もない肖像画が一つ残されているだけです。埃を払うのも忘れるほどの色あせた絵ですの……本当に、本当に価値のない絵ですわ」
サブリナは恥ずかしそうに視線を落とすが、いささか不自然なほど頑なに「価値がない」と言い張る態度に、アヴァリスの強欲な直感がビクリと反応した。
(おや? 価値がないと言いながら、なぜそんなに必死に隠そうとするのかしら。怪しいわね……)
アヴァリスは、ふっと慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「神は気長な方ですから、ゆっくりご検討なさるといいわ。もし、その『価値のない絵』でも、歴史的な価値が眠っていると証明されれば、教会への寄進と引き換えに、我が修道院から何某かの財政的な援助ができるかもしれませんもの」
「……お気遣い、ありがとうございます。ですが…父が大切にしている古い絵ですし、私の一存ではお答えできませんわ。それでは、本日はこれで失礼いたします」
サブリナは丁寧に一礼すると、どこかそわそわした様子で、逃げるように応接室を去っていった。
バタン、と重厚な扉が閉まる。
「あっはははは! 決まりね!」
アヴァリスは、サブリナが部屋を出た瞬間に淑女の仮面を剥ぎ取り、ソファーを叩いて大爆笑した。
「隠そうとしても無駄よ、お嬢様! 没落貴族が手放さずに手元に残している絵なんて、秘密があるに決まっているわ。ああ、スウィンデル家のお宝が楽しみで仕方がないわね!」
その夜、アヴァリスは院長室で、特別に取り寄せた最高級の赤ワインをグラスに注ぎ、月を見上げながら独りごちた。
「明日のパン代にも困るような哀れな小羊たち。私のような優れた導き手が、そのお宝を預かってあげるのが一番の慈善活動というものよ。おーほほほほ!」
強欲な院長の高笑いは、夜の修道院に不気味に響き渡るのだった。




