第9話 美化活動発表会~表彰式
3年生まで全クラスの美化活動の発表が終わった。
『続いて、表彰に移ります』
そうだった。
発表して終わりじゃなくて、クラス対抗で美化ポイントを稼ぐ戦いだったわ。
まあ、一応映画は完成したし、審査の土台には乗れたかな。
でもほかのクラスは、普通に拾ったゴミの内訳発表や、校内清掃の記録をつけているくらいだったし、うちのクラスみたいに、凝った映像作品を撮っているところはなかった……。なんでわたしたちは、給食を返上してまでこんなに……?
『審査は、文部科学省からお越しいただいた、「全国校内美化強化推進局推進部推進課」の皆様に行っていただきます』
推進し過ぎ。
しかもぞろぞろと……何人いるの。
『外回りの校内美化に参加したクラスには、一律で美化ポイントが10ポイント進呈されます』
「え~、一律なの~? がんばったクラスの表彰は~?」
『外回りの校内美化は、参加賞のみとします。ノークレームノーリターンでお願いします』
ざわつく体育館。
どのクラスも、体育館の中には女子生徒しかいないので、外回りを担当した男子生徒たちの反応を知りたいところ。
『それでは各クラスの審査について、審査方法を発表いたします』
今、審査方法を⁉
もう全クラスの発表が終わっちゃったあとなんですけど……。
『こちらの9人の審査員の方たちが、各発表に対して、それぞれ100点満点で採点します。全員が100点をつければ、900点満点ということになります』
んー、M-1グランプリかな?
『外回りの美化活動に参加していたクラスは、ここに10ポイントが加算されます』
男子の寄与率がかわいそうなレベル……。
まあ、男子だし仕方ないかあ。
「ねぇねぇ。うちのクラスって、何点くらい取れると思う~?」
スズメが小声で話しかけてきた。
「ファーストラウンドを突破して、最終決戦に出たいよね!」
それは……M-1グランプリだね。
「最終決戦はないと思うけど……まあ、けっこうがんばったと思うし、何かの賞はほしいよねぇ」
審査員特別賞とか? あるのか知らないけど。
『審査結果が出たようです。それでは前方スクリーンにご注目ください。カウントダウン形式で順位を発表します。まずは100位から51位まで』
うちの学園に、そんなにクラス数ないでしょ。
3学年それぞれ3クラスずつだから、9位から発表して……。
『9位から4位まで一気に発表します。第9位、1-1。765点。第8位――』
んー、2-2がない!
まさか――。
「マミマミマミ! すごいよ~! 私たち、3位以内確定だぁ♡」
スズメがわたしの両肩に手をかけて……思いっきり揺さぶってくる。
「そそそそそうだねえええええ」
揺らし過ぎ揺らし過ぎ。
マッサージ器じゃないんだから!
『それでは、第3位の発表に移る前に、残った2-2、3-1、3-2の代表者は、壇上にお上がりください』
えっ、そういうシステム⁉
ホントに決勝ラウンドみたい!
あ、でも……代表者って……。
『代表者は、各クラス2名ずつでお願いします。賞状とトロフィーの授与があります』
えーと……。
「マミが美化委員! このクラスの代表でしょ! いけいけ~総監督!」
スズメがグイグイとわたしの背中を押してくる。
「えっと……」
やっぱりそうなりますよね……。
「目立つのは苦手なんだけど……」
「大丈夫! 私も主演女優だから一緒に行くしぃ! ね!」
力強い目。
ほかのクラスメイトも無言で頷いて……。
ここまで来たら最後まで、がんばるしかない、か。
「……わかった」
「やったぁ♡ いこいこ!」
わたしとスズメは、手を繋いで壇上へと駆け上がる。3-1、3-2の代表者の人たちも、壇上に揃った。
『各クラス、揃いましたね。それではここからは入賞3組の発表です』
緊張する……。
スズメの手に力がこもる。
ちょっと震えている……?
『第3位……3-2! 853点です!』
違った。
会場は、安堵の声や悲鳴のような声、様々な感情が入り乱れていた。
「2位以上!」
手汗がすごい。
たぶん、わたしもスズメも。
「3-1、3-1、3-1」
スズメの口からは呪詛のように繰り返される。
2位でうちの2-2が呼ばれなければ、そこで優勝が確定する……。
……いける?
スズメのかわいさはアピールできた。
それ以外の何物でもないけど、わたしの魂を込めた最高の作品を――。
硬く目を閉じて祈るように呟いているスズメの姿を見ると、優勝させてあげたいな、って気持ちになる。
『続いて、第2位は……』
2位だったら……きっとスズメはがっかりして……でもわたしを気遣おうとして、ほんのり笑うんだろうな。
そんな姿、見たくないなあ。
『3-1! 857点!』
ああ。
『そして第1位は、2-2! 910点! 優勝は2-2です!』
勝っちゃった。
『今のお気持ちは⁉』
司会担当の放送委員の生徒に、マイクを向けられた。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
スズメの大絶叫が、体育館中に響き渡った。
「マミマミマミマミマミ! やったよぉ! 私たち優勝だってぇぇぇぇぇぇ!」
「わかった、わかったから。ちょっと……一旦落ち着こう?」
ちょっ! 興奮し過ぎ! 肩に上ってこようとしないで⁉ いくらスズメが小さくても、肩車は無理だから!
『2-2のみなさん、うれしそうですね! 審査員の方々から、コメントをいただきましょう! 審査委員長、お願いできますか⁉』
「はい、この度は、グレートゴールデン校内美化デーの美化活動発表会とのことで、大変有意義な時間を過ごさせていただきました」
白髪の混じるスーツのおじさんが話し始める。
たぶん、すっごい偉い人なんだろうなあ。グレートゴールデンとか言わせないであげてほしい……。
「どのクラスの発表もとても良かったです。この私立大波中央学園中等部が、普段からどれだけ真剣に校内美化に取り組んでいるのか、ということがよくわかる発表でした」
いや……別に普段は何も……。
「ですが今回は審査ということで、公平な目で点数をつけさせていただきました。各審査員から、それぞれコメントを述べたいところですが、時間の都合もありましょうから、代表して私が総括いたします」
お祭りムードだった場の空気が、話を聞こうというピリッとしたものに変わっていく。この審査委員長の人、物腰柔らかなのに、人に言葉を伝えることに慣れてる……。
「どのクラスもとても良かった。とくに壇上にいる上位3クラスはすばらしかったです。3-2の『プールの水全部抜いてみた』は、大変興味深いものでした。そして、3-1の『美化の心は、内側よりも外側から』も良かったです。一見無謀とも思える、体育館の屋根のペンキを塗りかえるという作業。それをこの短時間で行ってしまう実行力、感服しました」
さすが3年生、だね。
「ただ、その中でも群を抜いていたのが、2-2『スズメの恩返し』です」
きた。
群を抜いて……? 何を評価されたんだろう……。
スケールの大きさ? それとも、あえて映像作品に取り組んだチャレンジ精神?
まさか、スズメがかわいいから……ってことはないよね。
芸能界にスカウトが来ちゃったりとか⁉ でも文部科学省の人って、民間じゃないからダメか。
いや、なくはない?
……でも。
「とにかくすべての取り組みが校内美化の推進に向いていました。何を置いても、映像を見ている我々の心が美化されました。概念として最も優れていました。文句なく、満場一致で満点でした」
拍手。拍手。拍手。
背中におぶさっているスズメが、耳元で「……良かった」とつぶやいたのが聞こえた。
『審査委員長、貴重なコメント、ありがとうございました!』
いや……。
審査委員長さん?
コメントがふわっとし過ぎでは……?
心が美化されたって何……?
『それでは審査委員の方々から、賞状とトロフィーが授与されます。第3位の3-2の代表者の方々、こちらにどうぞ』
いやいや、わたしたち、何で優勝できたの……?
『続いて第2位の3-1の代表者の方々~』
しかも満点って!
『第1位! 2-2の代表者の方々、こちらにお願いします!』
ホントに優勝……?
「マミ! 呼ばれてる!」
スズメの声が耳元で……って、いい加減降りなさいって。
「早く~!」
降りる気なし。
「もう!」
どこの世界に、主演女優をおんぶしたまま、優勝トロフィーを受け取る監督がいるのよ……。
「賞状、第1位。2-2『スズメの恩返し』。以下同文です。優勝おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
審査委員長から、賞状を受け取る。
ちょっと手が震えちゃった。作法合ってた?
「なんでもあれは5分間のダイジェスト映像だったとお聞きしました。もっと長尺の映像があるのですか?」
えっ、ここで追加質問⁉
「あー、えーと……アリマス」
「担任の池中先生から、『120分の映画を撮れ~』って言われたので、大スペクタクル超巨編で撮りましたぁ!」
わたしの背中越しに、スズメが答えた。
「池中……、なるほど。あなたが柊マミさん? そしてあなたが南野スズメさん?」
えっ、なんでわたしたちの名前を知っているの……。
「そう、ですけど……」
「はいは~い! 主演女優の南野スズメで~す!」
怖っ!
もしかして、文部科学省にマークされてる⁉
問題児扱い⁉
「ああ、警戒しないでください。池中ソラ教諭のことは……個人的に少しだけ存じ上げているだけです。その教え子となれば、この結果も納得いくものです」
先生、何者なの……。
チラリ。
めっちゃドヤ顔だあ。
あの顔は……「優勝は当然の結果だ。指導の賜物だな」とか思ってそう。
『優勝した2-2には、トロフィーに加えて、優勝旗が贈呈されます』
「優勝おめでとうございます」
「デカっ!」
優勝旗、デカっ!
「スズメ、持てる……?」
スズメの身長よりもはるかに大きい……。
「大丈夫ぅぅぅぅ! 私、力持ち……だからっ!」
顔が真っ赤。
無理しないで……。
壇上にいた3年生の先輩たちが、旗を支えてくれて何とか……。
「ああっ、先輩方、ありがとうございます!」
『それではこれで、「第1回グレートゴールデン校内美化デー美化活動発表会」を終わります! 第2回でお会いしましょう!』
第2回があるの⁉
……もうカンベンしてほしいです。




