第10話 スズメが超人気者に⁉
『第1回グレートゴールデン校内美化デー美化活動発表会』から3日が経った。
なんか……すごく……ヤバい……。
「え~、そんなことないよぉ」
スズメの机の周りに、常に人だかりができている気がするの。
「じゃあ、ちょっとだけ……チュンチュン♡」
歓声が上がる。
たくさんのカメラのシャッター音も。
「恥ずかしいから、SNSにアップしないでチュン」
スズメが――。
「かわいいなんて、そんなそんな♡」
スズメが超人気者になっちゃってるぅ!
いや、もうこれは……学園のアイドル的なポジションになっちゃってるのでは⁉
ああっ! 怪しげなチャラ系男子がスズメのところに!
かくなるうえは、わたしの右目に宿る邪眼の力で、アイツを燃やしつく――。
「カラオケ⁉ 今日の放課後は……ちょっと用事がまた誘ってチュン」
断った……。
人が死なずに済んだ、ね……。
ああああっ! 次はカースト上位の女子グループが!
左目に宿る邪眼の力で、あらぬ噂を立てて退学に追い込む――。
「読モ⁉ 私なんかがちょっと……。迷惑かけちゃうチュン。それと用事が……」
読モなんて、やだよぉ。
スズメがモデルになっちゃったら、わたしのスズメじゃなくて世界のスズメになっちゃう……。
かくなるうえは、右の拳と左の拳に宿る力で――。
「マミ? コブシを見つめてどうしたの?」
「スズメぇ」
スズメがわたしの机の前にしゃがんで、覗き込んできていた。
「どどどどどうしたの⁉ お腹痛い⁉ 保健室行く⁉」
「……ううん、大丈夫」
うっ、涙が。
「大丈夫じゃないよ! 保健室行こ!」
スズメに引き摺られるようにして教室を出る。
こんなパワフルなスズメ、初めてかも……。
「スズメ……みんなが見てるよぉ」
恥ずかしいって……。
「ダメ! 保健室に行くの!」
「どこも悪くないって。仮病で怒られちゃうって」
「マミが泣くなんて……世界の終わりだよっ!」
いやいやいや。
それはさすがに大げさ……。
「とにかく!」
有無も言わさず、保健室に引きずり込まれてしまった。
こんなスズメ、見たことない……。
「先生! 緊急事態なので、保健室お借りします!」
保健室に入るなり大声で宣言。
スズメの様子にただならぬ気配を感じたのか、保険の先生は無言で頷くと、保健室から出ていってしまった。すぐにスズメは、ドアの内鍵を閉める。
「えっ……」
一体何が起きているの?
「これでヨシ、と」
満足そうに微笑むスズメ。
わたしの手を引いて部屋の奥へ。強引にベッドに腰かけさせられてしまった。
「あの……」
この状況は一体……。
「ごめんね!」
スズメが抱き着くようにしてわたしを押し倒してくる。
「ちょっ⁉」
「マミ……つらい想いをさせてごめん」
鼻声。
「えっ、なに⁉ なんでスズメが泣いてるの⁉」
完全に押し倒された状態で、身動きが取れない。その息遣いが聞こえてくるだけで、スズメの顔を確認できなかった。
「マミは目立つの嫌いって知ってたのに、こんなことになっちゃって……」
「いや、それは……」
目立っているのはわたしじゃなくて、スズメだから。
「無理やり監督とかカメラマンとか、ナレーションまでやらせちゃったから……」
まあ、わたし、美化委員だし?
みんなで力を合わせて映画を撮ったんだし、別にわたしだけが大変だったってわけでもないかな。
「スズメが主役をやるのに、わたしがキャメラを回さないで誰が回すのよ、ってね」
「キャメラぁ! マミってば、業界人っぽい!」
スズメが体を起こして、わたしの顔を覗き込んできた。ちょっぴり目の周りが腫れぼったく見えた。
「ん~、でも……反響が予想をはるかに超えててちょっと怖いかも……」
「やっぱりマミは、こういうのって嫌、だよね……?」
また悲しげな表情に。
「そうね……。スズメが芸能界にスカウトされたら……」
「私⁉ ナイナイって~」
スズメが破顔して首を振った。
「いやいや。わたしが芸能事務所の社長なら、絶対スカウトするよ。こんなかわいい子が売れないわけないし」
「私には無理だよぉ。マミが一緒じゃなきゃ何にもできないもん」
そんなことないでしょ。
スズメは朝が弱いだけで。
「あ、マミも一緒に芸能界に入るならやろっかな♡」
「何言ってるの? それこそ無理だって。わたしなんて、ひょろりと背が高くて、地味顔の根暗だよ」
良いとこなし。
それに引き換えスズメは、ちっちゃくてかわいくて、笑顔が似合っていて……最近は、胸も急成長中だし!
「もう! マミがわざと地味顔を作ってるの知ってるんだからね」
「いやいや、これが素だって」
「そんなのウソだよ~。前髪で顔を隠して注目されないようにしてるけど……ほら! 二重で大きな目で、笑ったら超美人!」
スズメはわたしの評価が甘いなあ。身内びいきってやつ?
「はいはい、ありがとね。……わたしのこと、捨てないでね」
「またそういうことを……。だから芸能人にはならないってぇ」
「いや、それだけじゃなくて……」
ほら……男子と付き合ったりとか。もごもご。
「私の1番は生まれた時からずっとマミだよぉ♡」
再び押し倒され――。
「嫉妬しているマミもかわいい♡」
首筋にキスされた。
「ちょっ! わたし嫉妬なんて!」
……してるかも。
でも、スズメがほかの人と笑い合っているのを見ると、どうしても黒い気持ちを押さえられなくて……。
と、スズメのポケットから振動が。
「ごめん、メッセ」
スズメが体を起こして、スマホの画面を見ている。
わたしの上に馬乗りになったまま。
そろそろ起き上がりたい……。
こんなに長く密着していると、ほら……ね?
「えっ……」
スズメが短く声を上げた。
スマホの画面を凝視したまま。
「何かあったの?」
「えっと……なんでも……ない、かな……」
いや、何かあったでしょ。
顔が青いよ?
「え~と……ハハハ」
今度は乾いた笑い?
「ホント、どうしたのよ」
「なんか……『スズメの恩返し』は削除されたって」
「ん? どういうこと?」
「SNSに違法アップロードされてた『スズメの恩返し』が次々と削除されているって……」
んー。
「勝手にアップロードされたものなら、削除されて良かったんじゃないの?」
「そう……だよね。誰かが通報したのかな⁉ かな⁉」
「そうじゃない? 学園外の人に見られるのもちょっと居心地悪かったし、良いことなんじゃないかなあ」
実はあの時のダイジェスト動画が、SNSでプチバズりしていて、スズメのことを特定しようとしている人たちがいたのは知っている。主に通報していたのはわたし、かもしれない。
「マミがうれしいなら……良いこと、だよね?」
「うん、まあ。でもわたしがどうのっていうより、学園内の美化活動の発表会だし?」
「そう、だね……」
なんか、スズメの様子が変な感じするなあ。
もしかして、ホントは注目を集めて人気者になりたかったのかな。口では芸能界に興味ないなんて言ってたけど、ホントは……?
でもなあ、スズメはわたしにウソを吐いたりしないよね。
今まで一度もそんなことはなかったし、考え過ぎかな。
* * *
わたしとスズメは、1時間目の途中に教室に戻った。
先生に咎められることなく、授業に途中参加。
ここまでは何も問題なかった。
なかったはずなんだけど――。
おかしい……。
考え過ぎじゃなかったかもしれない……。
1時間目が終わって、2時間目が始まるまでの休憩時間。
またスズメのところに人が……集まってこない。
誰も。
今朝までの人気ぶりがウソのように。
1時間目が始まる前までは、他クラスからも人がきていたのに、それが一切なし?
スズメブームが去った?
それにしては急すぎない?
スズメも、雀が豆鉄砲を食らったみたいに口をパクパクして周りを見ているし。
もしかして、わたしたちが保健室に行っている間に、スズメ接近禁止令でも出た? 人気過ぎるから、自重するように的な?
それにしてもこんなに一瞬で……。
3時間目が終わって、昼休みになってもその状況は変わらなかった。
スズメの周りにいるのはわたしだけ。
つまりは、『スズメの恩返し』を撮影する前の状況に戻っていた。
それだけじゃない。
どのSNSを見ても、『スズメの恩返し』に関する情報が一切消え去っていた。
普通は一度アップロードされた動画なんて、リポストされたり切り抜かれたりして、無限に出回るから完全に消すことなんてできない、はずなのに……。
いくらエゴサしても、何も引っかかってこない。もう誰も、スズメのことを話題にしていなかった。
「こんなことってある……?」
あ、つい口に出ちゃった。
スズメがわたしの画面を覗き見て――。
「ちょっとやり過ぎ、かもね……」
小さくつぶやいた。
誰が? 何を?
って、訊ける雰囲気じゃなかった。
きっとスズメはわたしに何かを隠している。
そんな気がした。
――でも、スズメがわたしだけのスズメであればそれで良い。




