第8話 美化推進映画『スズメの恩返し(5分ダイジェストver)』
2-2の美化推進映画『スズメの恩返し(5分ダイジェストver)』
始まり始まりぃ。
池中先生の台本は、童話『舌切り雀』を現代風にアレンジした美化物語に仕上がっていた。
女子中学生のスズメが、小さな葛籠を背負い、校内のゴミ拾いをしているところから物語は始まる。
以下、わたしの担当はナレーションだ。
監督兼、カメラマン兼、ナレーション。忙しや。
「チュチュ~ン。あ~、こっちにもゴミが落ちてる~。あっちにも~。拾っても拾ってもきれいにならないチュン」
――きれい好きなスズメは、空のペットボトルや、コンビニの袋など、様々なゴミを拾っては、背負った小さな葛籠にしまっていきます。毎日ゴミ拾いをして、葛籠をいっぱいにしてから帰るのが日課なのです。決して渋々、罰当番でやらされているのではありません。自発的な美化活動です。
ちなみに語尾に「チュン」がついていたりついていなかったりするのは、スズメのアドリブだ。台本には一切書かれていない。
「こっちにも~。あっちにも~。チュンチュン」
――廊下に点々と転がっているゴミを拾っては葛籠の中へ。そうして校内美化に勤しんでいると、スズメはいつの間にか、森の中に迷い込んでしまっていたのです。上履きで校外に出てはいけません。良い子の皆さんは、絶対に真似しないように。
「ここはどこ? 私はだ~れ?」
――場所はわからなくなっても、自分を見失ってはいけません。あなたは南野スズメ。私立大波中央学園中等部で1番の美少女です。異論は認めません。
「マミったら」と、ほんのり顔を赤らめたスズメが、森の中をゆっくりと進んでいく。
「早く学園に戻って、美化活動を続けないとチュン……。でもここにもたくさんゴミが落ちているから、ついでに拾って帰りましょう」
――校内美化だけではなく、地球を美化することにしたスズメ。えらいぞスズメ、がんばれスズメ。
スズメはゴミを拾いながら、森の中を進んでいく。
ちなみに本編は120分もあるので、ここでイヌ、サル、キジを仲間にして鬼退治をしたり、かぐや姫に頼まれた宝物を探して冒険に出たりするんだけど、5分のダイジェスト映像では、その辺りが全面カットされているらしい。けっこう盛り上がるシーンが満載なのになあ。悲しみ。
って、場面切り替わりシーンのCG技術エグい!
全編学園内で撮影したとは思えない仕上がり!
――おや? 古びたお城のような建物が見えてきました。
「この建物は何かな? 学園の施設じゃないよね~?」
――よく見てください。表札が出ていますよ。
「『ニュー・スイート・ラブ・ファントムホテル』……外人さんのお城かな?」
――それは表札ではありません。居抜き物件の前世を暴くのはやめてあげてください。扉に掛かっている小さな表札のほうです。
「これかぁ。『遠藤』さんのお家チュン」
――そうです。そこは遠藤さんのお家です。さっそく訪ねてみましょう。助けてくれるかもしれません。
「うん、わかった!」
――ナレーションと気軽に会話をしないように。
「気をつけるね!」
――本当に気をつけてください。
「呼び鈴をえいっ! ちゃららららら~ん、ちゃらららら~。遠藤さんいますか~?」
――呼び鈴の癖が強いですね。ここはどこかのコンビニでしょうか?
「いらっしゃいませ~。お弁当は温めますか~?」
――扉の向こうから声が聞こえます。どうやらここは本当にコンビニだったようです。
扉が開き、中からスーツ姿の女性が登場する。
お城に住む遠藤さん役は、2-2の遠藤マナさん。モデル系の美人さんだ。ちなみにお姉さんは有名なモデルをしているらしい。血筋ってすごい。でもスズメのほうが断然かわいいけどね。
ちなみに人間役で登場するのは、スズメと遠藤さん2人だけ。ほかのクラスメイトは、ほとんど裏方や木の役でがんばってます。
「こんにちは~。私、私立大波中央学園中等部2-2の南野スズメですチュン。校内美化活動の途中で道に迷ってしまったので、助けてください! 自家用ヘリで、学園まで送ってください!」
――初対面の相手に、大変図々しいお願いです。スズメが学園で1番の美少女でなければ、張り倒されていることでしょう。美少女で良かった。ギリギリセーフです。
「校内美化! それはすばらしいお仕事ね! ちょうど今、自家用ヘリで森の上を遊覧しようと思っていたところなのよ」
――グッドタイミングでした。迷った森で自家用ヘリを持っているお金持ちと巡り合える確率は、宝くじで1等を当てるのとどっちが高いのでしょうか。
「でも~。タダで乗せるというわけにはいかないわね~。昨今の世界情勢を鑑みると、燃料代の値上がりもバカにならないものね~」
――燃料代を気にするなら、不要不急のヘリの利用を控えましょう。とくに意味もなく遊覧するのはやめたほうが良いと思います。
「でも私……お金持ってなくて……」
「中学生だし、そうよねぇ……あら? その背負っている小さな葛籠は価値がありそうね。中を見せてちょうだい」
――遠藤さんは、スズメの背負った何の変哲もない葛籠に興味を示したようです。竹で編んだ籠なので、大した価値はありませんよ。
「たくさんのゴミを拾っているわね。えらいわ。これを10億円で買い取りましょう!」
「ええっ⁉ じゅうおくえ~~~ん⁉」
――遠藤さんが目をつけたのは、葛籠自体ではなく、中に入っているゴミのほうだったようです。ですが、スズメが拾ったゴミはペットボトルやお菓子の袋など、本当にただのゴミです。実は金塊が紛れていたりもしません。
「ヘリには、1回10億100円で乗せてあげるわ」
「やったぁ! チュンチュン♡」
小躍りをするスズメ。
胸揺れのアップ! さらに怪しげな効果音が!
小池さん……余計な演出をしないで……。
――ゴミの買取料と差し引きすると、ヘリコプターの乗車料金は100円にしてもらえたようです。100円って! 安い! でも、それだったら無料にしてくれれば良いのに……お金持ちなのに、意外とケチですね。
「さっそく出発するわよ!」
ヘリコプターのコックピットに乗り込む2人。
遠藤さんが操縦席へ。スズメが副操縦席に座った。
「わ~い! 私も操縦した~い!」
――操縦士の免許を持っていないのでダメです。法律は絶対守りましょう。
「操縦桿を握るだけなら良いわよ」
「やったぁ♡」
――いけません。自転車すら乗れないスズメが操縦したら、あっという間に墜落してしまいます。
「どうせ、それ、繋がってないのよ。全自動のオートパイロットだし」
――助かりました。それなら安全ですね。美少女の命が救われました。オートパイロットバンザイ。
「それよりスズメさん。コックピットに入ったらヘッドセットとサングラスを掛けなさい。操縦桿を握るのはそれからよ」
――なんだか本格的です。2人がベテランパイロットに見えてきました。計器類がグルグルと動き出しました。専門的なことはわかりませんが、なんだかかっこいいです。興奮してきました。
「行くわよ! テイクオフ!」
「テイクオ~フ!」
――2人の掛け声とともに、ヘリコプターが宙に浮きました。飛んでいます。すごいです。リアルです。ホントにふわっと体が浮き上がりました。高層ビルのエレベーターに乗った時みたいな……すごい! 飛んでいます!
ヤバい。
ここ、ホントに興奮していて、台本にないことをしゃべっちゃってる……。恥ずかしっ。
って、なんでヘリコプターの離陸するシーンを外から捉えているの……?
この映画は全編わたしの持っているハンディカムカメラでしか撮影していないのに……?
でも、すっごいリアルな映像だわ……。
「うわ~、太陽がまぶしい~」
「ふふふ。ようこそ、空の世界へ」
――窓の外、上を見上げれば太陽と雲。下にはどこまでも続く森の木々が見えます。とても神秘的です。ここはいったいどこなのでしょうか。
「天気も良いし、視界もクリアだわ。10分も飛べば、学園に到着するわよ」
「え~10分~? もっとクルージングしたい~」
――ご厚意で自家用ヘリに乗せていただいたというのに、なんという図々しさでしょう。スズメが学園で1番の美少女でなければ……いいえ、この物怖じしない態度が、スズメの魅力なのです。次の定期テストに出ます。忘れないようにノートにメモしましょう。
「マミ……。美少女美少女言い過ぎ……。恥ずかしいよ……」
――ナレーションに反応しないように。さて、そろそろ学園が見えてきましたよ。
強制場面転換。
「ヘリポートに着陸するわよ。しっかり掴まっていなさい」
「え~? パラシュートは~?」
――何の軍事作戦に参加するつもりですか?
「次はもっと大きなヘリのほうに乗せてあげるわ。その時にはパラシュートを使ってスカイダイビングをしましょう」
「わ~い、やったぁ♡」
――遠藤さん、甘すぎます。うちのスズメを甘やかしすぎないようにしてください。懐いてしまったら困ります。
「でも、そのためにはもっともっと校内美化活動をがんばってもらわないといけないわね。その小さな葛籠じゃダメよ。こっちの大きな葛籠がいっぱいになるくらいゴミを拾っていらっしゃい」
――どこからか大きな葛籠が出てきました。なるほど、ここで校内美化強化に無理やりつなげる作戦のようです。忘れていましたが、これは校内美化促進の映画でした。校内美化バンザイ。
「遠藤さんありがとう~! 私、学園中……ううん、世界中をピカピカにして、ゴミのない世界を作ります! チュンチュン!」
大きな志を胸に、手を振るスズメ。
ヘリコプターは再び、空高く舞い上がり、どこかへ飛んでいったとさ。
――みなさんも、スズメを見習って校内をきれいにしていきましょう。ゴミ拾いをがんばっていたら、いつかヘリコプターに乗せてもらえるかもしれませんよ。ゴミも映画もきれいにまとまりましたので、これにておしまい。
おおー。
めっちゃ拍手が……止まらない!
スタンディングオベーション⁉
……いやいや、なんで?
ところどころ笑い声も上がっていたし、反応は上々。
……って、感動して泣いている生徒がいる! ホントなんで⁉
うわー、池中先生のドヤ顔がすごい……。
でも――。
映像の仕上がりエグくかった?
リアル過ぎてぜんぜんCGに見えなかったし、撮影していないはずのカット割りがたくさん……。
……映像編集って、こんなことまでできるものだっけ?




