第6話 突然始まる『グレートゴールデン校内美化デー』
朝の会。
いつものように、ちびっこ先生こと、池中先生が教室に登場。
でもいつもと少し様子が?
先生は、教卓に到着するなり、生徒名簿を叩きつけるように置いて大きな音を立てた。
シーンと静まり返る2-2の教室。
「というわけで、だ」
先生、めっちゃ不機嫌そう……。
「今日は、校内美化強化デーになった」
ホワッツ?
「校内美化をグレートゴールデンに超強化することになった」
ゴールデン……強そう……。
「はいは~い! グレートバリアリーフの環境保全ですかぁ⁉ 社会科見学に連れていってもらえるなら行きたいです!」
スズメが勢いよく立ち上がった。
「ふむ。グレートバリアリーフな」
池中先生が教卓を離れ、スズメの席に近づいていく。
「……もちろん無関係だ。校内美化と言っているだろうが! よく聴け、バカモノ!」
ゲンコツでこめかみをグリグリの刑!
「痛い痛い痛い! 体罰反対! 誰かこの様子をSNSにポストして炎上させてぇぇぇ!」
泣き叫ぶスズメ。
なるほど……。
ここだけ切り取ると、教師が一方的に体罰を行っている図が完成するわけね。スズメのやっていることは、ほぼ当たり屋なんだけどね……。
「おい、美化委員はどこだ?」
えっ。
わたし、美化委員だ……。
「美化委員、前に出ろ」
ええ……。
「……はい」
前に出るとか、めっちゃ嫌なんですけど……。
目立ちたくないのに。
でも、呼ばれて無視はできない……。
「なんでしょうか……」
「だからゴールデンボンバー強化デーだと言っただろ!」
女々しくて? 名前変わってるし。
「強化デーと言ったらあれだ。クラス対抗の美化合戦の始まりだろう!」
何ですか、それ。
完全に初耳……。
「ほかのクラスに後れを取るなよ! 最優秀ゴールデングローブ賞で表彰されるのは我々のクラスだ!」
「ゴールデングローブ賞……。映画を、撮るんでしょうか……?」
「キャ~! マミが主役の映画なら、絶対優勝間違いなしだよ~♡」
ゲンコツグリグリの刑から脱出したスズメが、教室の隅で派手に騒いでいる。
釣られたクラスメイトたちが、パラパラと拍手を――。
「そうか。お前たちの美化活動は映画なんだな。良いだろう。その昔、私が子役時代だった頃、大河ドラマにも出演したことがあるのだよ。教え子のお前たちが、私と同じ道を歩むことになるとはな。これも運命というやつか……」
んー。
知らない間に、映画を撮ることになったみたい。
美化の映画って何だろう?
「先生の子役時代っていつですかぁ? 身長的に昨日~?」
ああっ、スズメ! その発言は危険!
身長、というかビジュアル的には、現役子役として活躍できそう……ってみんな思ったと思うけど、絶対口にしちゃダメぇ!
「今朝も駅前でスカウトされて……ってそんなことあるか、バカモノ! 南野よりは身長高いわ!」
どんぐりの背比べ。
映画のタイトルはこれで行こうかな。
「え~! でも私のほうが先生より胸が大きいからぁ、オ・ト・ナだよ~♡」
ああっ! それはもっとダメ!
「なんだとこの! ちょっと成長期だからって調子に乗るなよ⁉ もぎ取ってサンゴの餌にしてやろうか!」
全男子の視線が! 舐め回すような視線がスズメの胸に突き刺さってる! でも先生も実は隠しているけど、けっこう大きいんだよ? たぶんあれ。和装用のブラをしてると思う!
「キャ~! セクハラ教師よ~!」
「誰がセクハラか!」
教室内をスズメと池中先生が追いかけっこ。
走るたびに、容赦なく揺れるスズメの胸。
あああああ!
誰かぁぁぁぁ!
男子の目玉をくりぬいてぇぇぇぇぇ!
「うぉ⁉」
スズメと池中先生の動きが――止まった?
2人が同時にスマホを取り出して、何やら難しい顔をしている……。
「えっと……」
スズメが不安そうな目で、池中先生に何かを訴えかけている。
「そう、だな……ん~、あれだ」
どれ?
「男子生徒は全員グラウンドに集合だそうだ。今日の1時間目から3時間目まで学園の外周りの美化を担当してもらう」
池中先生の宣言に、教室内がざわつく。
「校長からの通知だ。拒否権はない。男子は全員、さっさと外に出ろ!」
両隣のクラスからも生徒たちが廊下に出ていく音が漏れ聞こえてきた。どうやら、そういうことらしい……。
「駆け足! 美化ポイントをたくさん稼いで来いよ! 2年で一番稼げなかったら、ゴールデングラブ賞の餌食にしてやる! そう思え!」
今度は野球に関係ある……?
ぞろぞろと男子たちが廊下へ。
そして教室に残されたのは、女子生徒だけ。
「先生……。女子はどうなるんでしょうか……?」
教卓前に立つわたしが代表して質問を……。
「それは予定通りだ。立派なハリウッド映画を撮って、アカデミー賞を手に入れろ!」
ええ……。
「せんせぇ。それって、美化委員のマミが主役で……?」
スズメが、チラチラとわたしのほうを見てくる。
確認するような、不安そうな目。
「謹んで辞退させてください……」
人前に立って演技するなんて考えただけでも倒れそう……。
池中先生は、ずっとスマホを眺めたまま、返事をしてくれない。
「……せんせぇ?」
スズメが白衣の袖を引っ張ると――。
「お、ああ。すまん。主役な! 主役……」
先生まで不安そうな目でわたしのことを……。
「……ちょっと無理です」
そういうのはもっと陽キャな生徒さんにお譲りいたしたく。
「は、はいは~い! わ、わたしが代わりに主役をやりまぁす! 名誉美化委員なので!」
と、慌てたようにスズメが手を上げた。
「お、おお……。そうか。南野が名誉美化委員だったか! それなら……名誉なことだから、良いだろう」
名誉美化委員……。
初耳オブ初耳。
「では監督は、元祖美化委員の柊に任せたぞ」
「わたしが監督ですか⁉」
「それと、脚本と演出とカメラも頼んだ」
「ええ……」
美化委員ってだけで、演劇部でもないのに無理ですよ……。
「全員、監督の言うことを聞いて、昼休みまでに120分の映画を撮るように!」
しかも長尺映画!
「今から脚本も考えて昼休みまで……?」
どう考えても無理っぽいんですけど。
「泣き言が多いヤツだな。……仕方ない。5分待て」
池中先生は、教室の隅の充電器に刺さっていたノートパソコンを手に取ると、何かを一心不乱に打ち込み始めた。
「マミ……大丈夫そう?」
スズメが近寄ってきて、小声で囁いてきた。
「いきなり映画監督って……無茶振りよね。まあでも、主役よりは100倍マシだけど……」
「ん~と……マミなら、しっかりしているから大丈夫だと思う!」
根拠のない信頼が、逆にプレッシャーに。
「スズメもいきなり主役に名乗り出たけど、大丈夫なの?」
演技経験なんてあったっけ?
幼稚園でも小学校でも、木の役しかやったことないような……。
「……何とか、する!」
根拠のない自信……に見えるけど。
大丈夫かなあ。
「よし、できたぞ! 全員、ノートパソコンを開け」
池中先生の号令に反応し、女子たちがわらわらと充電スペースに集まる。学校支給のノートパソコンを手に席に着いた。
「脚本は用意した。この通り演じれば、優勝間違いなしだ!」
自信満々で鼻息が荒い。
理科の先生なのに、映画の脚本なんて書けるんだ? ちょっと尊敬しちゃうかも。
「え~と、脚本脚本~」
タイトルは――。
『スズメの恩返し』
……なんかダメそう!




