第44話 鳩が咥えてきたのは、世界からのメッセージ?
鳩が若干ヨタヨタしながら、わたしのほうに向かって飛んでくる。
「鳩が……何か咥えてますね?」
あれはなんだろ?
「なんか黒っぽい……お団子?」
ん、もぞもぞ動いているから、お団子じゃないわ! 生き物⁉
黒いネズミ⁉
ホーホー。
「あ」
上空でひと鳴きしたせいで、口に咥えていた何かが落下してくる。
「柊! 受け止めろ!」
「ちょっ⁉ えっ⁉ えっ⁉ 受け止めっ⁉」
わたわたしながらも、なんとか落下予測地点へ。
「お、オーライオーライ!」
て、手でキャッチすれば良いの⁉
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
くっ。一足先に、わたしの頭の上に止まってんじゃないよ!
「……いや、ぜんぜん落ちてこないんですけど?」
なんかこう……。
「自由落下がどうのって? 教えて、理科の先生!」
そこで眉間にしわを寄せている、ちびっ子教師の人ー!
「それは3年の単元だから、テスト範囲外だよ」
「いえ、そういうことではなく……」
今困っているので!
「だがあれは……自由落下はしてこないな」
池中先生は、手で庇を作り、上空を見上げている。
「なんでですか?」
「よく見ろ。パラシュートが開いている」
「む? むむむ? ホントだ! 小っちゃいパラシュートが! って、なんで透明なパラシュートを……」
見えづらい……。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「頭の上でうるさいなあ。フンとかしないでよ?」
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「わかってるのかなあ」
「鳩は幸運の証だ。フンでさらに運がつくぞ」
「いりませんってそんなの……」
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「ちょっと⁉ まさか踏ん張ってる感じじゃないよね⁉ ホントやめてよ⁉」
「柊」
「……なんですか?」
「鳩はフンをする時に、踏ん張ったりしない」
まさかのダジャレ……。
「そろそろパラシュートが下りてくるぞ」
「はい! キャッチします!」
だいぶ小さい……けどモゾモゾしてる。
やっぱり黒いネズミ、かなあ。
「よいしょ!」
何とか手で受け止めることに成功。
透明なパラシュートの下から現れたのは――。
「がぅ?」
「クマだ……」
これって。
「池中先生の家にいた、小っちゃいクマ……」
スズメの目の下の隈から産まれたクマだわ。
「なるほどな。そういうことか」
池中先生は何かに納得したように、何度も頷いていた。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
お前は同調しなくて良いから……。
「それで、先生は何かわかったんですか?」
「ああ、たぶんな」
あ、これ……自信ある時の顔だわ。
「幼女のドヤ顔」
「誰が幼女だ! これでももう三十路だ!」
「ウッソ……犯罪……?」
「あのな……」
呆れ顔の幼女(30?)。
いや、さすがに信じられませんって。
戸籍を闇ルートで買ったでしょ? だって先生の容姿なら、お子様セットとキッズドリンクバーを注文してても、何も咎められないですよ? おもちゃだってもらえますよ?
「これは世界からのメッセージだよ」
「そうなんですか⁉」
どんな⁉
「スズメのクマだから、スズメが帰ってくる⁉」
あの池中先生の家にいた子たちが、順番に帰ってくるのかな⁉
スズメの家のお風呂にいた大きなペンギンも!
「残念ながら違うと思う……」
「えっ」
どういうこと……。
「これはクマだ」
「はい……」
「南野が疲れ、目の下に隈を作り、それが零れ落ちて子クマになった……」
そう、ですね?
冷静に考えると、相当ファンタージなんですけど……今はいったん棚上げにしておきます!
「つまり、世界からのメッセージはこうだ」
どう⁉
「『南野スズメは疲れている』と」
疲れて……。
「引き続き、『南野スズメを休ませる』というメッセージだろう」
「なんでよ⁉」
「ゲフォッ。おい! 私の……首を絞めても……南野は……」
「あ、すみません、つい……」
先生が嫌なことを言うものだから……。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「もう! うるさいなあ。今こっちは取り込んでるの!」
「柊、見ろ! 鳩が!」
なんですか?
「あ! 鳩だ!」
遠くのほうから、もう1羽の鳩がこっちに向かって飛んでくるのが見えた。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
わたしの頭の上に鎮座する鳩が、鳴き声で仲間を呼んでいる。
そんな感じかもしれないね。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ヨタヨタしながら飛んでくる新しい鳩。
その嘴には、やっぱり何かを咥えて――。
「あ、落とした!」
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
こ、今度は自由落下だ⁉
でもヒラヒラユラユラしていて――。
「おわっととと」
あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、何とかキャッチ。
「これは……?」
紙だ。
「黄色い紙……畳んである?」
折り目を伸ばして開いてみると――。
「『年次有給休暇申請書』」
スズメの手書きでサインが……。
これは一体、何……?




