第43話 世界から示された何らかの回答
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「……鳩?」
1羽のキジバトが、『スズメ駅』の大時計の上に止まっていた。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
静寂の中、鳩だけが鳴き続けている。
「もしかしたら……世界から示された何らかの回答かもしれないな……」
池中先生がポツリと呟いた。
鳩が世界の回答を……?
そういえば、スズメがいなくなった日の朝も、朝からずっと鳩の鳴き声が聞こえていたっけ……。
「鳩さん! わたし、はっきり言いましたよ!『スズメを返して』って」
回答とやらをくださいよ。
早くスズメを出して!
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
キジバトは、わたしのほうに視線を向けることなく、まっすぐ前を向いたまま鳴き続けている。
「……何かの合図か?」
そっか。鳩自身が回答を持ってくるんじゃなくて、回答を持ってくる存在に、この場所を知らせているだけってこと?
まあそれならそれで、待ちましょう。
もしかしたら、スズメを連れてこようとしているのかもしれないし!
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「いや……」
遅くない?
「15分も経ったんですけど……」
ずっと大時計を見つめていますからね、時間のカウントは正確ですよ。
みんなが固唾を呑んで見守る中、キジバトは15分間、ほぼ休みなく鳴き続けたわけで……。
「マジでこれ……何待ち?」
ホーホーホッホーホッ。
鳴き声が止まった?
「あっ!」
鳩が飛んで行っちゃった!
「ウソでしょ……。交渉失敗ってこと……?」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれないな……」
池中先生が眉間にしわを寄せ、鳩が飛び去った先を見つめていた。
「もしかしたら、ただの鳩だったのかもしれないしな……」
「……は?」
『世界から示された何らかの回答』って言ったのは、先生ですよ⁉
「南野を迎えに行った可能性も否定できないがな」
「……どっちですか」
関係者――関係鳩なのかそうじゃないのか、はっきりしてほしい。
「チュンチュンチュンチュン!」
鳩と入れ替わるように、騒々しく鳴きながらやってきたのは――。
「スズメ人形たち!」
空に開いた穴の応急処置をしてくれていたスズメ人形たちが、一斉に戻ってきたみたい。
「マミマミ~!」
「チュンチュンチュン!」
「見ないでほしいチュン!」
「スズメ人形を見ないでほしいチュン!」
「チュンチュンチュンチュン!」
なんか騒々しさがいつもと違う……?
見ないでって何?
「スズメ人形は、もうマミと一緒にいられないかもしれないチュン!」
スズメ人形たちは、みんな器用に翼で顔を隠しながら、わたしの傍に降り立ってくる。
「えっ、一緒にいられないって、急にどうしたの⁉」
「スズメ人形は……普通のスズメ人形になってしまったチュン……」
何か変わったの……?
言っている意味がよく――あっ!
「スズメっぽい顔……じゃなくなってる……」
よくよく見ると、スズメ人形の顔が、スズメっぽい顔から、鳥のスズメっぽい顔へと変化していた。つまりは、もともとのスズメ人形の顔ってことなんだけど……。
「捨てないでほしいチュン!」
「スズメ人形はマミのことが好きチュン!」
「愛しているチュン!」
「追放しないでチュン!」
「ざまぁしないでチュン!」
何言ってるの……。
「なんでわたしが、あなたたちのことを捨てなきゃいけないのよ?」
「だってスズメの顔じゃなくなったチュン」
「もう価値がないチュン」
「一緒に寝てもらえなくなるチュン」
「ゴミみたいに捨てられるチュン」
「捨てられてイケメン社長に拾われるチュン」
そんなわけないでしょ。
「あなたたちは、もともとその顔だよ? むしろそっちのほうが愛着があるし」
わたしの返しが想定外だったのか、スズメ人形同士が、お互いにドングリ眼を突き合わせて「マジ?」「マジ?」と一斉にしゃべり出した。
「うるさっ! 語尾のチュンを忘れてるし……。やっぱりちょっと多すぎるから、全員一緒に寝るのは無理だわ……」
もともとわたしのベッドにいたのは、7羽だけだったし。何千羽も来られても、ベッドどころか、家にも入りきらないよ……。
「シフト制にするチュン!」
「1人10秒ずつで入れ替わるチュン!」
「握手もハイタッチもなしチュン!」
「アクリルボード越しに、手を振るだけにするチュン!」
「剥がしはご遠慮願いますチュン!」
途中から何の話よ。
「でもまあ……スズメ人形の顔が元に戻ったってことは、世界がわたしの言葉を理解した、ってことで良いのかな……?」
これからほかの動物たちや駅も、元に戻るかも?
「そう楽観的に事が進むかどうかは……まだわからんな」
相変わらず渋い表情の池中先生。
「時間差で解決していくんじゃないですか? さすがにあれだけはっきり伝えたし、もうこれで勘違いして忖度してくるようなこともないんじゃないかなって」
つまりはこれで事件は終息に向かう、はず?
「どうかな」
池中先生は、あくまで否定的な態度だ。
何をそんなに心配しているんだろうね。
「先生は何に懸念を持っているんですか?」
池中先生はわたしの顔を見つめてから、もう一度大時計に視線を移した。
「1つは、スズメ人形が元に戻ったのは、顔だけという点だ」
「えっと? 顔が戻ったら、あとはだいたい、元のスズメ人形と同じだと思いますよ」
「違うな。大きな問題が残っている」
……なんだろう?
「スズメ人形は、まだしゃべり続けている」
あー……たしかに。
あまりもうナチュラルに受け入れてしまっていたけど、人形がしゃべったら異常だよね……。それに普通に飛んでたわ。
「じゃあまだ、終わりそうもない……ですか……」
「前進しているのは間違いないと思うが、完全解決に至るまでの道のりは、まだ険しそうな気がしている……」
ぐうの音も出ないくらい、行間を読む隙すらないほどに、きっちりみっちりと伝えたはずなのになぜ……。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「鳩が」
戻ってきた!
「口に何か咥えていますね……」
あれは⁉




