第42話 ぐうの音も出ないくらい、行間を読む隙すらないほどに、きっちりみっちりわからせる
『スズメ駅』開業記念セレモニーのステージの上。
唐突に宣言された、『一生駅長』なる役職に就任させられ……就任の挨拶を求められ……。
「一発かましてやれ」
スズメっぽい動物たちに、キラキラした目で見つめられる中、池中先生にマイクを手渡された。
「一発って言われましても……」
こういう注目される場はとても苦手で……。
顔が熱くなっちゃう。
「思っていることを話せ。本音でな。わからず屋の世界に、現実をわからせてやるのは今しかない」
現実を……?
「お前の願いだ。はっきりと、明確にな」
「わたしの願い……」
「ぐうの音も出ないくらい、行間を読む隙すらないほどに、きっちりみっちりとな」
……なるほど。
今わたしがやるべきことが見えた気がします。
じゃあ、がんばってみますか……。
「えっと……」
ハウリングうるさっ!
「マミマミ~!」
「がんばれチュン!」
「マミ駅長チュン!」
「国家設立宣言チュン!」
「冷やし中華始めましたチュン!」
「ダァシエリイェスチュン!」
うわっ、一瞬しゃべっただけで、一斉に声援が!
しかも、なんかホントの駅長っぽいスズメっぽい何かもいるなあ。
【みんな静粛にだよ~! 一生駅長のマミのありがたいお言葉を胸に刻み込もうね~!】
スズメ=スカイエアー放送の注意メッセージが、無法地帯と化したステージ前を一瞬にして黙らせてくれた。ありがたや。
「ご紹介に預かりました、柊マミです……。駅長に就任、ってことだそうなので、ご挨拶を……」
黙って見つめられると、無言のプレッシャーもきついものがある……。
でもひるんでいたら、タイミングを逃しちゃうよね。
「『スズメ駅』ができたということなんですけど……わたし、電車通学したことないので、電車ってあんまり馴染みがない乗り物なんですよね。ガタゴトうるさいなってくらいの印象で」
ここまで言ったところで、駅長っぽいスズメっぽい何かと、撮り鉄(スズメっぽい顔)のみなさんが失神して倒れて……担架で運ばれていった。なんかごめん。
「最初はスズメっぽい電車を見た時、ちょっとテンションが上がったんですけど、ずっと見てると慣れちゃうなあって。それに、駅も電車もスズメっぽくなってると、かわい過ぎると毎日使うのつらくないですか? わたしは普通の駅のほうが良いなって思いました」
わたしの否定的な演説を聞いて、ざわつき始めるスズメっぽい動物たち。
池中先生のことを横目でチラリと見ると、「うんうん」と頷いていたので、たぶん方向性としては合ってそう!
じゃあ、次の段階へ……。
「それって駅や電車だけじゃなくてね……。集まってくれたみんなには悪いんだけど、イヌやネコや三輪車がスズメっぽくなっていても、わたしはうれしくないかなって思います」
バタバタと倒れていくスズメっぽい生き物たち(無機物含む)。
ちょっと気の毒……。でも、ここで追撃の手を緩めたりはしない。
「イヌにはイヌの良さが、ネコにはネコの良さがあるよね。それはスズメにもそう。あ、この場合のスズメは、鳥のスズメのことね。わたしの南野スズメは、唯一無二なので、ちょっと別格だから」
ざわついた空気が、ステージ前から波状に、後方へと広がっていく。
「わたしは南野スズメが好き」
一呼吸おいて、ゆっくりと辺りを見回してみる。
見える範囲すべて、できるだけ多くの動物たちと目を合わせるように。
大半の動物たちは、さっきまでの期待に満ちたキラキラした目から、不安でいっぱいの目へと変わっている。
「みんなのことも好き。でもね、みんながスズメっぽいから好きなわけじゃないよ」
そこのところをわかってほしい。
みんなにも、この事態の元凶――世界にも。
「スズメっぽいイヌの姿も、スズメっぽいネコの姿も、スズメっぽいコアラの姿も、スズメっぽいネズミの姿も、スズメっぽいドラゴンの姿も、スズメっぽいゴミ袋の姿も――」
ホントごめんね。
みんなに罪はないんだけど、これだけはっきり言わせて。
「スズメっぽい駅も、スズメっぽい放送も……スズメっぽい世界もいらないの! わたしは、そんなこと、一度も望んでない!」
辺りが静まり返った。
呼吸をする音も聞こえないくらいに、静かになった。
「この世界に住んでいるのは、わたしだけじゃないの。当たり前だけどね。たくさんの人やたくさんの動物や植物や、それ以外にもいっぱいいるよね」
あなたたちもそうだよ。
大事な世界を構成する存在なんだよ。
「想像してみて。『わたしのためにー』って言って、自分の愛しているペットや家族がさ、朝起きたらスズメっぽい顔になっていたらどう思うと思う?」
うれしい?
そんなわけないよね。
「悲しいに決まってるの。でもね、今ってそれよりもっと悲しいことが起きてるんだ……」
1番悲しいこと。
「悲しいって感情さえも、世界が常識を捻じ曲げて封じちゃっているってこと。ね、普通はさ、おかしいと思うんだよ。朝起きて、愛するペットが、愛する番が、愛する子どもが、スズメの顔になってるんだよ? もしかしたら自分も同じくスズメっぽい顔になっているかもしれないね。おかしいでしょ。驚くでしょ。叫び声を上げるでしょ」
でも。
「世界がそれを封じてる。わたしのためにスズメっぽい顔になって、スズメっぽくしゃべって、スズメっぽく笑うのが当たり前だって、そうやって常識を書き換えちゃってるの。これって嫌じゃない?」
みんなポカンとしている。
予想はついていたけれど、すでに常識を書き換えられてしまっている側からしたら、わたしが言っていることの意味はまったく理解できない状態なんだと思う。
「これはみんなに言っても難しかったかもね……。だからね、今どこかで姿を隠したまま、これを聴いているはずの『世界』に向かって抗議します!」
はっきりと口にするよ。
ぐうの音も出ないくらい、行間を読む隙すらないほどに、きっちりみっちりとね。
「わたしは、察してほしいなんて思ったことも言ったこともない! 楽に暮らしたい、ストレスなく暮らしたいなんて言ったこともない! 不自由があってけっこう。苦労があってけっこう。これからいろんなことを経験して大人になっていきたいの」
わたしの願いは1つだけ。
「南野スズメに傍にいてほしい。スズメただ一人だけが、わたしの傍にいればそれで良いの。スズメと一緒に大人になっていきたい。スズメっぽい何かじゃない。スズメ本人だけがわたしの唯一の希望」
だから。
「スズメを返してください」
マイクのスイッチを切り、深く深く頭を下げた。
世界からのリアクションはない。
スズメっぽい動物たちも何も音を発しない。
ただ、静寂の時が過ぎていく。
その時だった。
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
頭上で、鳩の鳴き声がした。




