第41話 この世界でもっとも価値の高いものとは?
「先生!」
池中先生のもとに、急いで駆け寄る。
「先生は、こんなところで何を⁉ まさか、スズメ駅の開業セレモニーの参加者ですか?」
先生という職業のほかに、なんらか政府の組織にも属しているみたいだし、きっとえらい立場なんですよね?
「状況調査と、南野復活作戦の準備のためだ」
「なるほど……。それで何か進展はありましたか?」
もう3日も経ってしまったし、けっこうタイムリミットが迫っているんじゃ……。
「状況は思わしくないな」
そう言って、池中先生は渋い表情を見せた。
「それはまあ……なんとなくわかりますけど……」
スズメっぽい生き物が大量に現れたし? 電車や駅や三輪車……無機物もいっぱいね。
【こちらスズメ=スカイエアー放送! いよいよこれから、『スズメ駅』の開業セレモニーがはじまるよ~!】
このスカイエアー放送もかあ。
どこから放送しているのやら。
「柊が思っているより、状況はかなり良くはないな」
「え、これ以上、ですか⁉」
世界が捻じ曲がり過ぎていて、目につくものすべてがスズメっぽいのに……。
「柊が考えているのは、この駅のことか? それとも、この放送か?」
舞台上から周囲を見ると――。
「まあ、両方ですけど……。あとは、このスズメっぽい動物たち?」
「ああ、見えるもののほとんどが、南野にそっくりだな……」
先生は渋い顔のまま、小さくため息を吐く。
「かわいいはかわいいんですけど……」
だからと言って、「スズメの代わりです」って言われても困る……。
スズメっぽいものがたくさんになれば、テンションは上がる、けど……それはスズメがいなくても良いってことにはならないからね。
スズメはスズメ。
それは唯一無二の存在だから!
「これらはどこからやってきているか、わかるか?」
「どこって言われても……世界が生み出しているんですよね?」
工場ではなさそうだけど。
魔法みたいに突然生えてくる、とか?
「我々の調査によると、世界は何も新しく生み出してはいない」
「えっ、でもこんなにスズメっぽい何かで満たされているのに……?」
さすがにそれはないのでは。
「新しくは生み出していない。言葉の通りだよ」
力なく笑みを浮かべた。
「じゃあ、新しくない何かは生み出している、ってことですか?」
言葉遊びみたいになっているけど。
「そうだな。新しくない何かを生み出している、とはどういう状況かわかるか?」
「えーと、えーと……」
難しいなあ。
なんだろ。やっぱりトンチ?
「世の中というのはおもしろいものでな、新品よりも中古品のほうが商品価値が上がる場合があるんだよ」
「希少性ですか?」
「それもあるな」
それもってことは、期待している答えはほかにあるってことね……。
「付加価値をつけてカスタマイズしたものだ」
「なるほど?」
「たとえば、柊が身につけている上下セットで980円の下着だな。これに、お前の制服姿の写真をつけてオークションに出品したとする。果たしていくらの値が付くかな?」
「ちょっ、そのたとえは!」
仮にも教職に就いている人が言っちゃダメなやつ! というか、なんでわたしの下着の値段を知っているの……。
「今の状況はそれと同じだ」
「……どこがですか」
スズメっぽい生き物たちに、何の付加価値があるって言うんですか?
「世界の価値基準は柊、お前だ」
あー……そうなっちゃいます?
「お前が好むもの、それこそがこの世界でもっとも価値が高い。いつしかそのように定められたようだ」
「いつしか? 最初は違ったってことですか?」
こんなことになったのはいつからなんですか……。
わたしが生まれた時から? わたしって何者?
「さあな。常識が改変され始めてから、どれくらいの時が経ったかは不明だ。なぜなら、その変化を観測できる者などいないからだ」
「常識が固定化される、からですか……」
「そうだ。いつから柊が特別な存在なのかは、誰にもわからない。それ以前のお前が存在していたのかもわからないし、存在していたとして、どんな存在だったのかもわからない」
何もわからないですね。
調べようもない、か……。
「だが、固定化されていない状況だけを取ってみても、かなり悪い方向に流れていっているのは確かだ」
というと。
「すべての有機物、無機物は、付加価値を持とうとしている。我々が正しく観測できていないだけで、非物質もそうかもしれないな」
「どんな付加価値を……?」
「柊がもっとも好むもの――南野スズメだ」
ああ。
それでみんなスズメっぽいの……。
ちょっとめまいがしてきた。
「スズメっぽくなれば、価値が高い……と」
「柊が喜ぶことこそが、物質に与えられた最高の価値である。そのためになりふり構わず変容しているのだよ」
「普段だったら、こういう時には、スズメがこっそり修復しているから問題にならなかったりして?」
「まさにその通りだ。勘が鋭いな」
あんまり褒められた気がしない……。
「世界が暴走気味にわたしの願望を捻じ曲げても、スズメがいないから誰もそれを正しい状態に戻せない……」
「そうだ。今や全世界的に、これまでの生態系は崩壊していると言って良いだろう。だが、変化した生物たちは、新たな生態系を構築しようとしている」
一大事だあ!
「このまま固定化されたなら、観測できる有機物、無機物の大半は、南野の皮を被った何かになるだろうな」
池中先生はゆっくりとしゃがみ込むと、わたしの足に頭をこすりつけているスズメっぽいイヌを抱き上げた。
「我々の常識の中にいるイヌはいなくなり、南野のように振舞うイヌだけになる、だろうな」
「マミマミ~。ワンワンチュン!」
ワンワンチュン⁉
変な感じに混ざってるぅ!
「もう既に……取り返しがつかないところまで来てしまっているかもしれない」
「えっ、やっぱりもう、このおかしな状況の固定化って、始まっているんですか⁉」
「……おそらくは。すべてではないかもしれない。だが、固定化した後から観察することは不可能なんだ」
「まだ異変だと思えているうちは、すべて固定化されていない、ってことですか……」
それくらいの想像しかできない、のかな。
「すべてが終わった後に、南野が戻ったとしても……もう柊の特別な存在は、南野ではなくなっている可能性もある……」
そんなことあるわけ――!
【こちらスズメ=スカイエアー放送! セレモニースタートだよ! まずは、一生駅長のマミのご挨拶~! 全世界のみんな! 注目だよ~!】
……わたし?
ここで挨拶するの?
全世界に向かって⁉




