第4話 名探偵☆南野スズメ、出動だぁ!
照り焼きソースのニオイ……。
昨日のあれって夢……じゃない……?
でも、誰も覚えて――。
「マミ~! 次、音楽だから教室移動だよ~」
スズメの声。
授業に集中しなきゃ!
* * *
あっという間に昼休み。
ぜんぜん集中できませんでした……。
机に突っ伏しー。
「マミ、大丈夫? 今日ずっと顔色悪いよ? 調子悪いの?」
背中を擦ってくれるスズメ。
「うーん。そういうわけじゃないんだけど……」
「食欲は……大丈夫そうだよね!」
わたしの前にある空の食器に視線。
はい、給食は完食です。ごちそうさまでした。
「わかったぁ! ひっひっひ。お主もワルよのぉ~♡」
スズメが背後から覆いかぶさるようにして抱き着いてくる。
「えっ、何⁉」
急に悪代官プレイ⁉
スズメは「あーれー」される町娘のほうが似合うと思うよ! 今度やりたい! 着物が着られるところってどこ⁉
「名探偵☆南野スズメ! 犯行の動機まで、すべてわかっちゃったんだからね!」
「犯行って……」
わたし、何も悪いことは……。
頭の中で、帯をグルグルはぎ取るのはセーフだよね?
「4時間目の小テスト、体調不良でサボろうとしてるでしょ~。マミってば、優等生なのに悪いんだ~!」
「えっ、小テスト……?」
4時間目は国語だけど……。
「漢字のテストがあるって昨日……じゃなくておととい予告があったよ~」
なんで囁き声。
耳がくすぐったい。……もう一回お願いします。
「そうだっけ⁉」
覚えてない……。
でも、おとといって、国語の授業なかった……。
「スズメは……テスト勉強したの?」
「ぜんぜん?」
「えっ」
なんで。
「漢字なんて書けなくても死なないもん」
「それは……」
極論過ぎませんか。
「あ~、私も急にめまいが~。保健室で休まないとダメかも~」
重い。
さらに体重が。
「演技が拙い……」
「え~いけるって♡ マミも一緒に保健室で休もうよ~♡」
「授業をサボるのはちょっと……」
大変、魅力的なお誘いではあるのですが。
「じゃあ私が仮病を使うから、付き添いよろしく~♡」
仮病って言っちゃってるし。
「付き添いならサボりにはならないでしょ?」
「そういう問題かなあ」
「ブ~ブ~! 私が小テストで0点取っても良いわけ~?」
「それは良くないけど……。昨日言ってくれれば、一緒に勉強したのに」
なんでテスト直前に言うのよ。
「でもほら……昨日はお楽しみのあれだったし?」
なんでまた小声?
でも昨日は、ね。
『青空記念日』で夜遅くまで楽しんじゃったけど……。
「祝日に勉強したら死刑になっちゃうかもだし?」
「どこの国の法律よ……」
そんな法律があったら、受験生みんな死刑になるわ。
「あ、ちょっと待って」
スズメが体を起こしてわたしから離れる。
スカートのポケットからスマホを取り出して――。
「スズメ、学校では電源を切らないと校則違反よ」
と言っても、うちの学園の校則はなかなかに緩い。
休み時間にスマホをいじっていて、咎められている生徒を見たことはない。
でも、そうやってみんなが緩くなっていくと、風紀が乱れて――。
「はいはい、なるほど~。はいはいはい! そうなりますかぁ~!」
突然、スズメが大声を上げる。
「どうしたの? 何かあった?」
「えっとね~。今日は4時間目以降の授業は中止になったって! このあと、緊急の職員会議なんだってさ~」
「そうなの⁉」
「メールが来てたよ~。これで小テストも。ひっひっひ♡ ちょうど良かったね♡」
周りのクラスメイトたちも、スマホをチェックし出す。
わたしも電源を入れて――。
――トゥルル、トゥルル、トゥ~ル~。
「えっ、何⁉」
急に教室のスピーカーから不穏な音が⁉
【本日は、このあと職員会議のため、以降の授業を中止とします。部活動も中止です。12時30分より帰りの会を行い、12時45分より下校とします】
――トゥルル、トゥルル、トゥ~ル~。
校内放送だった。
メールに書いてあるのと同じ内容。
「でもなんで、チャイムじゃなくて、ミステリードラマ風の音楽なの……」
「わかった!」
スズメが手を打ち鳴らす。
「きっと殺人事件が起きたんだよ! だから緊急の職員会議!」
「さすがにそれは……」
急な予定変更だし、何か事件的な可能性はあるけどさー。でも、もしホントに殺人事件だったら、先生たちがもっとバタバタしてそうな?
「名探偵☆南野スズメ、出動だぁ! 助手のマミくん! さっそく聞き込み調査だ!」
いやいや。
食器を片づけて、帰りの会に備えないと。
「ほら早く! この白衣に着替えて!」
「それ……小学校の時の給食当番のかっぽう着。懐かし過ぎるんだけど、どこから持ってきたの……」
頭にヘアーキャップみたいな帽子がちょっと苦手。
髪の毛を全部入れるとボサボサになるし……。
というわけで、予定通りに全校生徒が一斉下校。
13時を前にして、校門が施錠されたのだった。
「チィィィィ! 名探偵☆南野スズメ……敗北。殺人事件の捜査をしたかったのにぃ!」
鉄の校門を前にして、地団駄を踏むスズメの姿が。
やたらと名探偵にこだわるね。
「スズメって、ミステリーものが好きだったっけ?」
「最近コナンくんにはまってる♡」
「なるほど」
何周目かのブームが来ましたか。
「そうだ!」
スズメが何かを思い出したようにカバンの中をガサゴソ。
「うな重食べに行こう♡」
それはゲンタくん……。
「さっき給食食べたばっかりだし」
「マミって、うな重嫌い?」
「好きとか嫌いとではなくて……」
うな重なんて高級なもの、中学生のお小遣いでは無理過ぎるでしょ。
「お金の心配? 大丈夫~♡ さっきね、チラシもらったの~!」
「チラシ?」
「『青空記念日アフターチャンスデー』だって!」
アフターチャンス?
……また青空記念日?
なんで、こんなに都合よく。
「私立大波中央学園中等部の生徒に限り……なんと、うな重特上が無料!」
「ええっ⁉」
そんなことがあって良いの⁉
「ぬぅわんだってぇぇぇぇ! 先着10組様に、肝吸いプレゼントだって! 急がなきゃ~~~~!」
血相を変えて、スズメが走り出した。
「あ、ちょっとカバン!」
チラシだけ持って走り去った……。
普段のスズメからは考えられない速度。
うなぎへの執念おそるべし。
「いや、うなぎのお店どこよ」
おいてかないで。
それにしても、アフターチャンスって何。
誰か周りの生徒に……もう誰もいない! みんな帰宅するの早くない⁉




