第3話 昨日の臨時休校は夢だった?
ピピピピッ。
朝ぁ。
さすがに体が重い……。昨日の遊園地、フルパワーで遊び過ぎたかも。
でも! 疲れている時ほど日課が楽しい!
気だるい朝のスズメを堪能する。
それがわたしのモーニングルーティン♪
天使のような寝顔を前に、神様に感謝の祈りを捧げる。
「天使を地上に遣わしてくださり、誠にありがとうございます。生涯大切にします。サンキューゴッド」
それではまず添い寝から。
失礼しまーす。
「あ、マミ。おはよう……」
なん……だって。
スズメが目を……。
「スズメ……お……はよう? やっぱりおやすみなさい?」
「えっ」
スズメの大きなお目目がぱちくり。
「いやー、いつもならまだ寝ている時間かなーって?」
まだ寝顔のスケッチもラフまでしか終わってないし!
添い寝もしていないし、寝汗をクンカクンカしてないし! パジャマを着替えさせてもいないし! リンパとかも!
「なんかね、のど乾いて起きちゃった~。ケホッ」
スズメが空咳をし出したので、すぐにピンク色の水筒を取り出す。
「ありがと」
体を起こしてわたしの差し出した麦茶を一口。
「おやすみゃにゃにゃ……」
スズメネコはむにゃむにゃにゃーにゃー鳴きながら、崩れるように再び眠りについた。
おっと、証拠《麦茶》をナイナイして……。
「ふぅ……」
危なく、|完全犯罪《秘密のモーニングルーティン》がバレるところだったわ。
なんとか事なきを得た。
えっ?……普通の……麦茶だよ?
いつも通りの朝。Take2。
制服に着替え終わっているスズメを起こし――。
「いただきまーす」
スズメのお母さんが作ってくれた朝食を2人で食べる。
今日は和食ぅ!
しじみのみそ汁が二日酔い……じゃなくて、遊園地明けの疲れた体に沁みますなあ。
「昨日は楽しかったねー!」
完全無料の遊園地、最高♪
「え~と、そうだね?……うん! 楽しかった、ね?」
あれ? スズメの反応が微妙……。心当たりはないけれど、とりあえずテンションを無理やり合わせて様子を見てます、って感じの……。
「もしかして、はしゃいでたのはわたし、だけ……?」
それだとしたら、すっごく恥ずかしい……。
スズメは基本テンションが高いから、もしかしたら意外と冷静だったのかも。うわっ、恥っずっっっ! えっ、遊園地ってはしゃいで良いのは小学生まで⁉ 中学生はダメですか⁉ カラオケでウェイウェイ言うほうが大人っぽかった⁉
「なんかごめんね……。もう遊園地行こうなんて言わないから……」
「遊園地……?」
うっわ! もう記憶から消したいレベルになってるの⁉
わたし、なんかやらかしたかなあ。「ポップコーン全種類制覇しよう」って言ったのが良くなかった? それとも、『ぼちぼちでんがな』の次に『おいでやす』に行って、『ぼちぼちでんがな』と見せかけてーの、『EVEREST』に行ったのが良くなかった? 途中で、『ファイヤーワールド』を挟むべきだったかな……。
「マミは……遊園地に行きたいの?」
「えっ⁉」
スズメが小首を傾げて……あ、もしかして、今のスズメなりのボケだった⁉ ああっ、ツッコミ遅れた!
「な、なんでやねん! 昨日散々遊び倒したやろがいっ! やろがい……」
あ、ごめん。微妙な空気に。
ツッコミはタイミングが命だったわ……。
「マミ、今日は朝からテンション高いね。なんかついていけなくてごめん……」
「……いや、わたしこそごめん」
うわぁぁぁぁ! スズメが悲しそうな顔してるぅ! わたしのせいでスズメがぁ!
「遊園地……週末行こっか?」
「えっ、いやいや。昨日行ったばっかりだし……」
「遊園地……行ったの?……誰と?」
スズメの瞳から光が消え――。
「スズメと……」
「私、行ってない……」
「えっ……ほら、昨日休校になったから……」
「休校? 普通に学校行ったよね……?」
なんか、おかしい。
話が噛み合わない……。
「突然メールが来て、新祝日『青空記念日』制定のため、臨時休校になりましたーって……」
「何それ? メール?……青空記念日?」
スズメがスマホを開き出した。
あ、スズメ……わざとボケてるわけじゃない。ホントに心当たりがないんだ。
もしかして、昨日のあれこれは、わたしの夢ってオチ……?
「あ、あ、ああああああああ!」
スズメが、スマホの画面を見つめたまま、突然叫び出す。
「どう、かした……?」
「青空記念日! 青空記念日! 青空記念日! あったあったあった! 遊園地行ったねっ!」
テンションが……急に。
「えっと……もしかして、忘れてた?」
「そうそうそう! ちょ~っとね! 学校からのメールを見て思い出したの!」
……そんなことある?
昨日あれだけ遊んだのに、すっかり忘れていて……。
「いきなり祝日になってびっくりしたよね~!」
「う、うん……」
なんか、変な感じ……。モヤモヤ。
「ほら、2人とも! そろそろ出発しないと遅刻するわよ~」
スズメのお母さんに急かされて、時計を――ヤッバ!
「ごちそうさまでした! 急ごう!」
ダッシュで食器を片づけてぇ! ダッシュで登校だぁ!
「マミぃ。そんなに……走らなくても……まだ……間に合う……」
振り返ると、スズメが膝に手をついて、肩で息をしている。
「でも遅刻しちゃうよー!」
ダッシュがダメなら競歩で行こう!
「もう無理……。朝ごはん出ちゃう……うっぷ」
スズメがしゃがみ込み、口元を覆った。
「ええ……。吐くのはちょっと……お茶飲む?」
カバンから水色の水筒を取り出し、コップに麦茶を注いで渡す。
口をつけるなり――。
「冷たっ! 目がキ~ン!」
スズメが目頭を押さえる。
「それを言うなら、頭がキーン、ね」
「そうとも言うかも」
「むしろ、そうとしか言わないんだけど。冷たいもので頭が痛くなるのは、『アイスクリーム頭痛』のことだから」
スズメは『スズメ語』を操る不思議な生き物だからね。
でも一般的な日本語の慣用句もちゃんと覚えておかないと、テストの点が……。
「あ~、アイス食べたいな~。でも、かき氷はまだちょっと早いよねぇ」
「いきなりだね。でもまあ、アイスはいつ食べても良いけど、かき氷は真夏のイメージがあるかも?」
なんでだろう。
氷の分量の問題? それともアイスクリームの乳成分が夏分を緩和しているのかな?
「まだ初夏だもんねぇ」
「初夏……」
あれ? そう言えば、昨日咲いていた八重桜が全部散ってる……。
「マミ~! 早く登校しないと遅刻するよ~!」
えっ⁉ スズメがいない!
さっきまでここでうずくまってお茶を飲んでいたのに、もうずっと先に⁉
「おいていかないでー!」
競歩は諦め、本気ダッシュでスズメを――追い抜く!
「あ~! マミ、卑怯~!」
「卑怯って何よ」
と、スズメのほうを振り返ると――カバンを抱きかかえながら走ってくるのが見えた。なぜ?
「普通に腕を振って走ったほうが速いと思うよ?」
「えっ……と」
スズメは急に立ち止まる。それから、モジモジし出して……カバンで顔を隠してしまった。
今の間に、何か恥ずかしいことが……?
「走ると……胸が揺れて痛いから」
なるほどぉぉぉぉぉ!
そう来ましたかぁぁ!
揺れると……はいはいはいはい!
「ちょっとよくわからなかったので……走ってみて?」
ついでに、参考資料として動画撮影します。
「……絶対イヤ」
真っ赤な顔のまま、カバンを抱きかかえて――競歩選手スズメが爆誕!
恥ずかしスズメ――。
これはこれで良い。SAIKOU!
なんとか遅刻ギリギリの時間に、教室に滑り込んだわたしたち。
普段と変わらない平日が始まる。
えっ、いや……始まらない?
なんで誰も『青空記念日』のことを覚えていないの⁉
だってほら! 昨日の学校からのメールも……ない? メールボックスから消えている……。
じゃあ、昨日の写真や動画も……ない。カメラロールに何も……。
ああっ! だったら、SNSのポスト……『#青空記念日』は? 昨日トレンド入りしていた……ない。
何も、ない。
世界から、『青空記念日』の記憶が――。
あ。
カバンから――。
レッグチキンの照り焼きソースを拭いた時のティッシュが。




