第2話 新祝日『青空記念日』~乗り放題に食べ放題……すべて無料⁉
「やった~! タダだって~! すご~い♡」
スズメが超喜びの舞を。
「……ウソでしょ」
さすがにこれはありえない……。
これは夢よ、夢。
いくら抱き着いてくるスズメの胸の感触がリアルだからって、これは夢に決まってる。
【本日、『青空記念日』のため、私立大波中央学園中等部の生徒に限り、当施設のご利用、並びにご飲食はすべて無料とさせていただきます】
近所の小さな遊園地。
その入り口に貼られたポスターには、確かにそう書かれていた。
10度見くらいしたけど、やっぱり無料って書いてある……。
「マミ! 早く行こうよ~! 無料だよ! 無料! 乗り放題に食べ放題♡」
スズメに引き摺られ、券売機のほうへ。
「マミ! 生徒手帳!」
「あ、うん……」
ホントに無料……?
「もう、早く~!」
しびれを切らしたのか、スズメがわたしのブレザーをめくり、インナーポケットを弄ってくる。
「ちょっ! やんっ!」
くすぐったい! って、その顔! わざとでしょ!
「えっち♡」
どっちがよ⁉
流し目のスズメが、わたしのインナーポケットから生徒手帳を抜き取ると、自分の手帳と合わせて、受付に並べた。
心臓が口から出そう……。
「私立大波中央学園中等部の生徒でっす! フリーパス2枚ください!」
ダブルピースでチョキチョキ。
笑顔のカニさんが……かわいい。
「ご来園いただき誠にありがとうございます。はい、たしかに確認させていただきました。こちらがスペシャルフリーパス2枚です。本日は『青空記念日』誠におめでとうございます」
受付のお姉さんが、窓口の隙間から、見たこともないメタリックなチケットを差し出してきた。
「ありがとうございま~す! スペシャルフリーパスだって! かっこいい~!」
手にしてみると、銀色に輝く薄い金属の板だった。
豪華な栞みたい。
【チケット提示ですべて無料。本日限り有効】
やっぱり無料……。
でも日付が入っていない? なんでだろ。
「これってホントに無料なんですか……?」
「はい。本日は『青空記念日』ですのですべて無料です。本日の閉園は18時となっております」
マジかぁ。
「マミ~! 早く行こうよ~!」
遠くでスズメの声が聞こえる。
すでに園内に!
これってやっぱりドッキリかなあ。
どこかから、隠し撮りされてる……?
あ、ドッキリってカメラを意識しちゃいけないんだっけ……。引っかかっている振りをしないと、番組として成立しないもんね……。何の番組か知らないけど。
「マミ~!」
「あー、はいはい。今行く」
って、スズメ……。
なんでもうレッグチキン食べてるの……。
「そこで配ってた~♡ 照り焼きとカレー!」
「いや……いきなりそれはちょっと……」
歯形が付いたのを渡されても……。ああっ、照り焼きソースが手についた! ティッシュティッシュ!
「ポップコーンが良かった?」
「まあ……そうかな」
朝ごはん食べたばっかりだし、そんなにいらないけど。
「あ~! スーパーワンダーゴールデンコースター『ぼちぼちでんがな』だ~! 今0分待ちだって! 乗ろ乗ろ!」
「えっ、ちょ! レッグチキン!」
食べ物を持ったままは乗れないって!
いや、そもそも超目玉のアトラクションが0分待ちって何事?
貸し切りでもない限り――。
【本日、『青空記念日』のため、私立大波中央学園中等部の貸し切りとさせていただきます】
園内のスピーカーから流れてくるアナウンス。
さすがにこれは……。
ドッキリだってバレずに演技するの無理臭くない……?
「マミ~! 早く早く~! 1番前乗れなくなっちゃう~!」
うーん。
よく見ると……周りにいるのは、同じ学園の生徒だけ……。
エキストラじゃないよね。見知った顔、クラスメイトもちらほらいるし。
「早く~! 急がないと、迷子のアナウンスしてもらうよ!」
なぜ……。
≪ご来園中のお客様に、迷子のお知らせをいたします。私立大波中央学園中等部の制服を着た、13歳くらいの女の子が迷子になっておりまぁす♡≫
コラコラ、ホントにアナウンスしないの。
そこにマイクがあるの? 勝手に園内放送なんてしたら怒られるわよ。
≪迷子の女の子の特徴は、身長172.6cm、体重60.1kg。最近の悩みは、足のむくみ~≫
「ちょっ! スズメ⁉」
園内アナウンスで何バラしてるのよ⁉
≪2年2組、出席番号21番、柊マミ様。1秒以内にスーパーワンダーゴールデンコースター『ぼちぼちでんがな』の前までお越しください。そうしないと、スリーサイズと恥ずかしい写真が拡散されますよ~♡≫
マミ本気ダッシュ!
今、限界と、音速を超えた――。
「キャ~! 1着でゴールよ~!」
「……いい加減に……しなさいよね……」
マイク、まだ入ってるから……。
「あ、お姉さん! ツーショット写真撮ってくださ~い♡」
ツーショットって。
ジェットコースターの係りのお姉さんだって忙しいんだから、そういうのは遠慮……あれ? 受付にいたお姉さんだ。こっちも担当なのかな。
「ご来園いただき誠にありがとうございます。はい、写真撮影を承ります」
「わ~い。マミ! 早く早く!」
「わたし、レッグチキン持たされてるんだけど……」
「良いの良いの! 思い出思い出♡」
はちきれんばかりの笑顔で抱き着いてくるスズメ。
そして、レッグチキンを2本持って微妙な顔をしているわたし。
思い出、かなあ。
* * *
それからのわたしたちは――。
ジェットコースターに乗って。
レストランに入って昼食を食べて。
ジェットコースターに乗って。
ポップコーンとチュロスとアイスを食べて。
ジェットコースターに乗って。
ジャンボパフェを食べて。
ジェットコースターに乗って。
ジェットコースターに乗って。
ジェットコースターに乗って。
あっという間に、閉園のアナウンスが流れ始める。
「あれ~? もう18時だ~!」
反射的にスマホの画面を見る。
……ついさっきまで昼だったのに。
と思ったら、太陽が沈みかけてるわ。
「さっき来たばっかりなのに~! チュチュン! チュンチュン」
スズメが目を真ん丸にして首を小刻みに震わせている。
動きがおかしい。
鳴き声以外は、鳩っぽい。
それがおかしくて……かわいい過ぎるっ!
「えっ、マミ? 急にどうしたの? 苦しいよ?」
「べ、別になんでも」
スズメの動きがかわいすぎるのが悪いの。
周りの男子に見られたら、告白されちゃうかもしれないから、慌てて隠しました!
とは言えない。
「早く出ないと遊園地閉まっちゃうよ~。閉園した遊園地に閉じ込められると、冥界に連れていかれて、一生遊園地内を彷徨うお化けになるらしいよ!」
「……また都市伝説の動画でも見たの?」
そういうの、ホント好きよね。
「違うよ! 都市伝説じゃなくて、ホントのこと! 取材したって記録も載ってるもん! ほら!」
興奮した様子で、スマホの画面を見せてくる。
思いっきり、都市伝説チャンネルって書いてあるじゃないの。
「はいはい。お化けになりたくないから、さっさと帰りましょ」
さすがに1日歩き回ったら疲れた……。
まばらになった退場者の波に紛れ、遊園地の外へ。
「ご来園いただき誠にありがとうございます。本日はお楽しみいただけましたでしょうか」
あ、受付のお姉さん。
ジェットコースターのところでも、レストランでも、売店でも働いていたのに、こんな時間まで……お疲れ様です。
「すっっっごい楽しみました~! 今日がお休みで良かった~♡」
「お楽しみいただけたようでなによりです。それでは、スペシャルチケットのほうはこちらで回収させていただきます」
「え~! これ持ち帰っちゃダメなんですか⁉」
スズメが名残惜しそうにチケットを掲げて見ている。
いかにも記念品って感じの作りなのに、回収されちゃうのは意外。
「誠に申し訳ございません。『青空記念日』は今日限りです。明日には、何も持ち越すことはできない規則になっておりますので」
「そうですか~。ちゅ~ん」
目に見えて落ち込むスズメ。
「まあ、規則は守らないとね。また来れば良いじゃない」
今度はちゃんとお金を払って来ようよ。
「また明日も来る?」
「それはさすがに……」
「明日も『青空記念日』にならないかな~」
「そんなにお休みばっかりだと、勉強遅れちゃうし」
「ブ~ブ~! マミのまじめっこ! まじめ娘!」
ブーブー鳴いている子豚を連れて、家に帰ります。
「今日はありがとうございました」
過重労働気味のお姉さんに頭を下げて。
「またのご来店をお待ちしております」
楽しかったけど、疲れたなあ。
たまにはこういう休日があっても……って、『青空記念日』って何だったの……。
……まあ、楽しかったし、いっか!
うーん……でもなあ……。




