第1話 秘密のモーニングルーティン♡
ピピピピッ。
「んんーーー」
もう朝かあ……。
眠い。
さすがに深夜二時まで、ラジオを聴きながら勉強したのは良くなかったかも。
春眠暁を覚えず。処処啼鳥を聞く。
チュンチュン。
……さて。
スズメを起こしにいかないと。
わたし――柊マミのモーニングルーティンは、万年遅刻魔の幼馴染みを叩き起こすところから始まるのだ!
南野スズメ。
鳥の雀みたいに丸くて小っちゃい、わたしの眠り姫。
勝手知ったるお隣さんのお宅。
早朝なので、インターフォンは鳴らさずに。
「おはようございます、おばさま」
まあ、合鍵も預かっているからね。
「おはよう、マミちゃん。今日もお願いできる?」
「ええ、もちろん。わたしの生き甲斐ですから!」
決して、誇張表現じゃない。
正直言って……これ以上、至福の時間はないと思っている。一生、この朝の時間が続けって思ってるし。
スズメは朝が極端に弱くて、目覚まし時計くらいじゃ起きられない。
本当に起きられない。
ベッドの目の前で、突然パンクバンドの演奏が始まってもたぶん起きられない。
わたしはそのことに毎日――。
神様に感謝の祈りを捧げているっ!
スズメを起こす魔法が使えるのはわたしだけだからね。
それについて、スズメのお母さんからもお墨付きをもらっている。つまりわたしは、南野家において、毎朝スズメを起こす係を一任されているということだっ!
お隣さんだし、生まれた時からの幼馴染みだし、それはそれはもう、全幅の信頼を得ている。
それに、スズメのお母さんは、朝食を作ったり、お父さんとイチャイチャしたりするのに忙しい。
だから――。
誰も、スズメの部屋に入ってきたりはしない。
なんとなんとぉ! わたしとスズメの二人っきりの時間が生まれるのだ!
スズメが起きるまでずっと続く至福の時間がね!
しかも毎朝!
365日! 月月火水木金金!
後ろ手に、部屋の鍵を掛けるのを忘れない。
わたしは自分で言うのもあれだけど、とても几帳面な人間だ。
モーニングルーティンの手順を飛ばしたりしないし、欲望に駆られて抜かったりしたことは一度もない。
さあ。
今日も、スズメのかわいさを堪能しようじゃないか。
成長記録もしっかりつけなければ。
おっと。
その前に――盗聴器と監視カメラが設置されたりしていないか、念のためチェックチェックっと。
スマホにも、怪しいアプリはインストールされていないね。
メッセージは……誰だコイツ⁉
まさか――男⁉
わたしの目を掻い潜って、連絡先を交換した、だと……。
すぐに社会から抹殺を……なんだ、迷惑メールかあ。
削除削除♪
ふぃー。
今日もスズメの安全と平和は守られたのだった。
さて、スズメの寝顔を眺めて……ありがたいなあ。
あ、左向いた!
レアなポーズ!
スケッチしておこう!
んー、写真も撮っておこう!
オッケー。
じゃあ、そろそろ制服に着替えさせてあげましょうねー。
パジャマを脱――。
* * *
「ごちそうさまでした♪」
神様に感謝感謝。
……それにしても、スズメってば、成長し過ぎじゃない?
昨日よりも――ね?
放課後にでも、お店に連れていかなきゃ。先に、おばさまにお小遣いをもらっておく? 家を出る時でも良いかな。
でも……マッサージって、そんなに効果があるものなの……?
絶対おかしいよ……。
やっぱりちょっと揉み過ぎた? モーニングルーティンの時間減らしたほうが良いのかな……。
これ以上大きくなったら……またエロい目で見てくる男子が増えてしまうかもしれない……。
あーあ……明日から急に、うちの学校が女子高になったりしないかなー。
先生も女の人だけにしてほしい!
あ、でも。
わたしみたいにスズメのことを邪な目で見る同性がいたら……。
結局のところ、スズメがかわい過ぎるっていう根本的な問題の解決にはならないかあ。
困った困った。
いけない! そろそろ起こさないと、学校に遅刻しちゃう!
「スズメー。朝だよー。起きてー」
……まだ寝てる。
「起きないと、チューするぞ」
んー、若干、顔が赤い……気がするけど、心拍数は……40BPM。寝てる、か。
どこにキスしてやろうかな。
今日は――。
ここにしよう♪
「あ、マミ。おはよう~」
「はい、おはよう。顔洗って歯を磨いてきてー。すぐに朝食だよ」
「ふぁぁぁい」
スズメは、のっそりとした動作でベッドから這い出てきた。
ちなみに、パジャマを着て寝たはずなのに、起きたらきっちり制服を着こんでいることについて、疑問を呈したことは一度もない。
スズメがのそのそとトーストをかじっている間に、わたしはエレベーターピッチを行う。おばさまに、スズメの新しい下着の必要性について熱く語り、めでたくお小遣いゲットに成功した。
すっごいかわいいのを選んであげるからね♡
「いってきまーす」
いつも通りの時間に、スズメの家を出る。
わたしたちの通う公立中学校まで、徒歩で15分。
連れ立って、川沿いの道をまっすぐ歩いていく。
「あ、マミ! まだ桜が咲いてるね~」
スズメがうれしそうに、桜の木に向かって走っていく。
「八重桜だね。もう5月なのに、がんばるなあ」
ソメイヨシノよりは遅咲き、とはいっても、さすがに桜の季節はもう終わっている気がする。というより、ここの桜、昨日まで咲いてなかった、よね?
「まだ桜が見られて良かったね!」
「あー、うん。そうだね」
一晩で――狂い咲きってやつなのかな?
「何よ、その薄い反応~!」
スズメはしゃがむと、地面に散った花びらを手で掬って集め、真上に投げた。
「きれい……」
桜の花びら――を身に纏ったスズメが。
「昨日、マミが桜がもっと見たいよ~、春がずっと続けば良いのに~って言ってたのに~」
あー……そんなことも言った、かも?
夏よりは、春のほうが好きかなあ。
「それにしても良い天気だし、良い気候だよね」
なんでこんな日に、校舎に籠って6時間も勉強しなきゃいけないのよ……。
もう、いっそのこと、サボっちゃう?
さすがに、無断欠席は内申点に響くよね……。
「あーあ! 今日が休日だったらなー!」
「マミ? 急にどうしたの~?」
スズメが不思議そうな顔をしながら、トテトテと走り寄ってくる。たぶん、わたしが大声を出したせい。
「良い天気だから、学校なんてサボりたいなーって! でも小市民は、血の涙を流しながら、真面目に授業を受けるのです……」
「何それぇ~」
くしゃりと笑う。
それから、何かを思いついたように、カバンからスマホを取り出し――。
真顔だ。
スズメは、スマホをいじる時だけ真顔になる癖がある。
この間もこの顔をしていたから、何か勉強アプリでもやっているのかと画面をのぞき込んだら、普通にネコ動画を見ていた。だからきっと、スマホを見る時に真顔になるのが癖なんだと思う。
スズメはいつも笑っているから、真顔はレア。
スケッチしたいけど、今スケッチブックを取り出したら、普通に変な子だと思われちゃう……。悔しい。
スズメの動きが……止まった?
おっと。
わたしのスマホがメール着信を知らせる。
スズメのスマホにも同時に?
「なんだろ」
今時、メールで送ってくる人なんて――。
「あ……学校から?」
『臨時休校のお知らせ』
「うっそ」
「へぇ~、今日臨時休校になったんだ~。ラッキー♡」
スズメが臨時休校ラッキーの舞(今わたしが命名した)を踊っている。
いやいや。
「何この……新祝日『青空記念日』制定のためって」
学校が勝手に祝日を設定したってこと?
……さすがにそんなの、聞いたことないよ。
ちょっとおかしい――。
いや、ホントにあったわ。
学校に着いたら、臨時休校の張り紙が出ていて――生徒たちみんな下校し始めちゃった。
うそん。
でも――ラッキー?
んんー、でもちょっとだけ、引っかかる……。




