第39話 離乳食は、軟らかく煮た桃に限る!
「うれしいチュン? スズメがいっぱいチュン!」
いやいやいや!
「スズメっぽいけど……スズメじゃないでしょ!」
「みんなみんなスズメっぽければ、無限にマミのテンションを上げられるチュン!」
そんな無茶苦茶な……。
「みんなマミが好きチュン」
あ……あれっ⁉ 今しゃべってるのは……スズメ人形じゃないよね⁉ わたしの足をよじ登ってきているのは誰⁉
「はじめましてチュン。スズメっぽいコアラチュン」
「コアラ⁉ 言われてみれば、お菓子のコアラのマーチの絵にそっくり!」
スズメっぽいのに、コアラみたいに鼻が大きくてかわいいっ!
それに毛がモフモフだ!
あれ? スズメっぽいコアラのなんかお腹の辺りがもぞもぞしているね?
「気になるチュン? お腹の袋に赤ちゃんがいるチュン!」
「赤ちゃん~⁉ コアラの赤ちゃん⁉ 見たい見たい!」
えー、赤ちゃんだから、やっぱり小っちゃいのかな⁉
お腹に袋って、カンガルーみたい! カンガルーもコアラもオーストラリアに棲息しているんだっけ? だから同じ袋がついてるのかも!
「マミマミ~。コアラの育児嚢は、カンガルーとは逆向きについているチュン!」
「逆向きってどういうこと?」
「カンガルーは基本、二足歩行の生き物だから、袋の口が上向きチュン。でも、コアラは木の上で生活するから、木にぶら下がっても赤ちゃんが落っこちないように袋の口が下向きについているチュン!」
下向き!
「え、じゃあ、今わたしの足を登ってきているみたいに、体が垂直になっている時って……赤ちゃん落ちちゃわない⁉」
大丈夫⁉ 赤ちゃんいる⁉
「説明するよりも、触らせてもらえばわかるチュン」
「どうぞチュン」
スズメっぽいコアラが、片手を上げて、わたしにお腹の袋を見せてきた。
「えっ、良いの……?」
「マミは特別チュン!」
えへへ♡
特別でちょっと良かった♡
「じゃあ、失礼して……」
ふわふわだあ。
あ、袋の中でもぞもぞしてる! これが赤ちゃんかあ……。思っていたよりも、めっちゃ小っちゃい!
「ね、落ちないチュン」
「……うん。下側に袋の口があるんだよね? どこ……」
スズメっぽいコアラのお母さんを抱き上げて、下から覗いてみても……わからない!
「お尻の筋肉で、袋の口をぴったり閉じられるチュン」
「へぇー! すごい!」
生物の神秘だっ!
「今は中でお乳を吸っているチュン。赤ちゃんがもうちょっと大きくなったら、袋の口を開けて、エサを食べさせるチュン」
「ミルクを卒業したらってこと?」
コアラって何を食べるんだっけ?
顔的に、肉食かな?
「ちょっと大きくなったら離乳食チュン!」
「おー、人間と一緒だ! 軟らかく煮た桃とか、大根とか?」
「コアラはそんなの食べないチュン。ユーカリしか食べないチュン」
「ユーカリ……? あー、聞いたことある! たしか、葉っぱだ!」
「そうチュン。コアラが食べるのは主にユーカリの葉っぱチュン」
そっか。
お肉好きそうな顔なのに、草食なんだ。
「でもユーカリの葉には毒があるチュン」
「毒! 食べたら死んじゃう!」
「コアラだけが、ユーカリの毒を分解できるチュン。だから、ユーカリはコアラしか食べないチュン」
「毒を分解できるの⁉ すごい!」
こんなにモフモフでかわいいのに……。
「でもコアラの赤ちゃんは、ユーカリの毒を分解できないチュン」
「えっ」
どうするの?
「そこで離乳食の登場チュン。離乳食を食べて、ユーカリの毒を分解できる体になっていくチュン」
「離乳食にそんな効果が……。すごい……」
生物の神秘だわ。
「ちなみにコアラの赤ちゃんの離乳食は、お母さんのうんちチュン」
……は?
「またまたー。そういう下ネタはいらないよー。急にどうしたのよ?」
今のほっこりした流れに下ネタを突っ込んでも、ぜんぜん盛り上がらないでしょ。TPOをわきまえて?
「ネタじゃないチュン。ガチチュン」
「……ガチ?」
あ、ガチなんだ。
お母さんコアラが頷いてる……。
「育児嚢が下向きについているもう1つの理由が離乳食チュン」
まさか。
「袋に入ったまま顔を出して……うんちを食べられるから……」
「正解チュン! マミは天才チュン! ノーベル平和賞を授与するチュン!」
いや……。
さすがにコアラのうんちきっかけでノーベル賞は……。
「コアラのお母さんは、赤ちゃんにあげるための特別なうんち――盲腸で作る柔らかいうんちを与えるチュン。その時は、袋の口とお尻の口を緩めるチュン」
うへぇ……。
ちょっと想像しちゃったよ……。
「大変チュン! マミのテンションが下がって、空に小さな穴が開いたチュン! 応急処置してくるチュン!」
「えっ⁉ 今ので⁉」
絆創膏を咥えて飛び去るスズメ人形。
わたしの腕の中で、悲しそうな表情を見せるコアラのお母さん。
「なんか、ごめん……」
でも……こんなテンションの上がり下がりで、地球の危機が来ちゃうの……? わたしの存在が、ホントに地球滅亡のきっかけになっちゃってる……。
「マミマミ~!」
「マミマミマミ~!」
「マミマミマミマミマミ~!」
「遊ぶチュン!」
うわっ、一斉に集まってきた⁉
「ネコは袋がないから大丈夫チュン!」
「トカゲも大丈夫チュン!」
「ドラゴンも卵から産まれるから大丈夫チュン!」
「ゴミ袋は赤ちゃん作らないから大丈夫チュン!」
「三輪車も平気チュン!」
赤ちゃんにうんち食べさせないアピールが始まった⁉
いや、ゴミ袋と三輪車はややこしくなるから混ざってこないで。
――ピンポンパンポ~ン。
「えっ、何⁉」
「スズメ=スカイエアー放送の時間チュン!」
「スカイエアー⁉ なんかちょっとかっこいいけど……これ、どこから放送されてるの⁉」
「空気と雲を振動させて、良い感じにスズメっぽい声をマミに届ける放送チュン!」
良い感じに……ぜんぜん意味がわからない!
【こちらスズメ=スカイエアー放送! 緊急放送だよ~! みんな! 赤ちゃんにうんちをあげるのはやめようね。マミが想像しちゃうと困るから~】
緊急放送で何言ってるの……。
【赤ちゃんには離乳食をあげよう~! 軟らかく煮た桃や大根がおすすめだよ!】
ほかにもあるんじゃないかな?
おかゆも良いだろうし、お野菜を煮たのも良いよね?
あ、でもそれって人間の赤ちゃんの離乳食の話で、コアラみたいに決まった食べ物しか食べない動物もいるから……。
――チャララ~ララ、チャラララララ~。
ん、ラッパの音? 今度は何が始まるの?
【みんなのために、各地で離乳食の移動販売を始めたよ~! 無料だから、みんな利用してね。社会全体で赤ちゃんを育てよう~!】
なんかスケールの大きなことを言ってる……。
「ああっ! 離乳食の移動販売のリアカーが! すっごい人だかり!……人じゃないわ! スズメっぽい動物たちだかりが!」
めちゃくちゃ並んでる!
みんな、うれしそうに桃を煮たやつを赤ちゃんにあげてる⁉
「コアラのお母さん、ダメー! 桃じゃなくて、ユーカリのうんちをあげてー!」
ええ……。コアラの赤ちゃんがお母さんのお尻のところから顔を出して、おいしそうに桃の煮たやつを食べてる……。




